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 中島京子の『小さいおうち』を読む。第143回直木賞受賞作品だが、普段は別に芥川賞とか直木賞で本を選ぶことはしない。ところが本書はなかなかネット上での評判がよろしく、ミステリ的要素もあり、といったことがTwitterなんかでも呟かれていたので、久々に読んだ次第である。
 ちなみに昨日のバージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』は、本書でモチーフ的に使われているので、念のために読んでみた次第である(といってもそれほど直接的な関係があるわけではなかったが)。

 舞台は戦前の東京。主人公は、ある中流家庭へ住み込みの女中として勤めることになったタキ。自分より八歳年上の奥様とその旦那様、そして幼い息子の四人で暮らしている。徐々に戦争の影も忍び寄ってくる時代ではあったが、彼らの生活は活気に満ち、モダンな風物に彩られている。このまま時が止まればいいと思えるような、そんな生活。だがそんな穏やかな日々の中にも秘められた出来事が……。主人公タキが過去を回想する手記の形で物語は進む。

 小さいおうち

 著者の作品は初めて読んだのだが、なかなか文章の達者な方だというのが第一印象。なんせ戦前から戦後にかけてという時代を、若い女中の語りで描くのである。これがまだ三人称ならいざしらず、時代考証に加えて、その時代を生きる特殊な職業の、若い女性というフィルターを通すというテクニカル仕様。パッと読んだだけでも、非常に読みやすくナチュラルな感じを受けるが、これは相当に緻密な取材・計算のもとに書かれているはずだ。
 しかも戦前から戦後にかけての物語なのに、その視点はどこか軽やかで温かい。戦時を描く従来の文学にありがちな重く暗いタッチをさらっと脱ぎ捨て、もうひとつの戦時を見せてくれる。作中の登場人物ですら、嘘を書いちゃいけないと曰うほどだが(苦笑)、タキの語りはどこかふわっとしたリアルさをもち、独特の説得力をもって迫ってくる。
 この軽やかで温か、そして独特のリアルさという特徴は、内容にも通じるところがある。これといった事件が起きるわけではないないけれど、秘かに何かが起きているんだなぁという、漠然とした予兆。
 こうして物語は概ね淡々と流れていくが、最終章で、著者はウルトラCを見せる。ミステリ的と評される所以だろうが、個人的には実はそれほど感心していない。種明かしをここまでするのは興醒めであり、その必要性を感じないというのがひとつ。また、最終章にいろいろと詰め込みすぎ、余韻が絞りきれない嫌いもある。

 とはいえ全体的にはやはり見事な出来映えであり、正直、この語りの巧さだけでも読んでみる価値があるといえるだろう。雰囲気も嫌いじゃないし、他の作品も少し探してみようかな。おみごと。

テーマ:国文学 - ジャンル:本・雑誌



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