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 ジョゼフ・ランス+加藤阿礼による『新幹線大爆破』を読む。今までにもけっこう珍しいものを出してきた論創海外ミステリだが、本作も相当に珍品であることは間違いない。で、既にご存じの方も多いだろうけれど、一応、最初にざくっと原作の由来などを記しておく。

 本書の元ネタは、1975年に東映が公開した同題のパニック映画。当時は世界的にパニック映画が流行っている頃で、それまではヤクザ映画路線をひた走ってきた東映も、この波に乗ろうとしたか、豪華スターを集めて制作したのが、この『新幹線大爆破』である。
 日本では諸々の事情から興業成績はパッとしなかったものの、海外ではフランスを皮切りに公開されて好評を博し、遂にはイギリスでノヴェライゼーションが刊行されるまでに至った。本書はそのノヴェライゼーションの翻訳版(ちなみに日本でも独自のノヴェライゼーションが出ている)。いってみれば逆輸入小説ということになるのだろう。
 興味を惹かれるのは、とにかく本作(映画もノヴェライズも)は、日本人が思っている以上に欧米で人気があるらしいということ。解説によると、かのオットー・ペンズラーが、鉄道ミステリの傑作として推したほどだという。

 新幹線大爆破

 こんな話。
 乗客1500人を乗せた東京発博多行きの新幹線〈ひかり一〇九号〉。しかし、その車両には時速80キロ以下になると爆発する爆弾が仕掛けられていた。まもなく国鉄に連絡してきた犯人は身代金として500万ドルを要求、国鉄との間で駆け引きが続けられる一方、警察は犯人の特定に奔走しつつ、身代金の受け渡しの準備を進める。そんな中、想定外のトラブルが頻発し、乗客はパニックに陥りはじめる……。

 上で日本での興業成績はパッとしなかったなどと書いたけれど、評価自体は高かった映画である。実は先日、BS朝日で放映があり、久々に映画のほうも堪能したのだが、今観ても十分に面白い。パニック映画もやりすぎると滑稽になるだけだが、本作はその一歩手前。高倉健が見事に映画全体を締める働きを見せており、やはり偉大である。
 で、これなら忠実にテキストにおこすだけでもノヴェライゼーションとしていい線をいくとは思ったのだが、本書ではさらに映画にはない味つけを施しており、これがまた悪くない。
 特に大きく異なるのは、米軍の技術者と医者のアメリカ人夫婦を主人公格として盛り込んでいること。夫は爆発物の専門家として、国鉄に協力する立場。また、妻の方は偶然〈ひかり一〇九号〉に乗り合わせ、医者として車内で活躍するという役回り。もちろん欧米読者が入りやすいようにアレンジした結果なのだが、こういう要素が入るだけで、俄然翻訳物っぽくなるから不思議なものである。また、アメリカ人の目を通した日本人観みたいなものも要所で語られ、そういう意味でも物語に膨らみが増したといえるだろう。

 もちろんメインストーリーの面白さは、映画も本書も共通である。
 タイムリミット・サスペンスをベースにしつつ、次から次へと発生する難問に苦闘する、国鉄の東京総合指令長以下、運転士や公安官らの活躍。想定外のトラブルなどで軌道修正しつつも完全犯罪を達せんとする犯人たち。そして徐々に彼らを追い詰めてゆく警察の捜査陣。これらが同時進行で描かれる。パニックものの常套手段とはいえ、破綻なくそれぞれに見せ場を作って盛り上げるところはなかなかの手際だ。
 惜しむらくはクライマックスの弱さ。新幹線の停車シーン、犯人の逃走劇、共にエピソードとしてはそれほど盛り上がる形ではなく、このどちらかでもうひとつ強烈な見せ場を作っていれば最高だったのだが。ただ、ノヴェライゼーションとしてはここまでやってくれれば十分か。映画を観た人でも楽しめる希有な例である。おすすめ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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