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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』(洋泉社MOOK)

 先週に続いて、今週も『シン・ゴジラ』を観てしまう。今回はいろいろ復習もしたので、さらにポイントを細かく楽しめたのがよかった。
 帰りには買い逃していた『横溝正史&金田一耕助シリーズDVDコレクション』の38巻と39巻を購入。買ってはいるが、これいつ観るんだ。007鑑賞計画も途中で止まってしまっているのでそろそろ再開したいのだけれど、映画やDVDは読書以上に時間をガッツリとられるので面倒だ。

 書店では、たまたま店頭で『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』を見つけ、最近、この手のガイドブックを買っていなかったなぁと思い、とりあえず購入。

 最強ミステリ映画決定戦

 中身は映画ミステリのオールタイムベスト本で、このミスの映画版と思えば話が早い。ただ、構成はこのミスに比べてもはるかにシンプルで、映画関係者100人のアンケートをもとにしたランキングでベストテンまで紹介し、あとは各人のベストテン+コメントがほぼすべて。これに対談やコラムがいくつかといった案配である。

 基本的には映画秘宝らしく、とんがったというかやんちゃというか、要はウケ狙いのランキングが多くてこれが楽しい。オーソドックスなランキングは大手に任せ、やはり映画秘宝はこの路線でなくては。構成的には芸がなくても、ランキングとコメントだけでも十分に堪能できる。
 この手のガイドブックで一番求められるのは、未見の映画を見たくなる衝動をどれだけ駆り立ててくれるかだと個人的には思っているのだが、それは間違いなく満たしてくれるだろう。

 ちなみに一位にはかなり意外な作品が入ってきて、メジャーどころでランキングをやってもまずこの結果にはならないだろう。もちろん作品自体は素晴らしいけれども、なんとなく一位にしにくい作品なんだよなぁ(苦笑)。
 まあ、どんな作品が一位になったのか、気になる人は店頭でご確認を。

 最後にひとつだけ注文をつけておくと、相変わらず洋泉社MOOKの誌面デザインやレイアウトのセンスはひどくて損をしている。このB級のノリを活かしたいという意向もあるのだろうが、それにしても。
 ファッショナブルに作れとかは言わない。せめて普通に読みやすいデザインにできないものだろうか。ほんと、もったいない。


『江戸川乱歩の迷宮世界』(洋泉社MOOK)

 洋泉社MOOKから出た『江戸川乱歩の迷宮世界』に軽く目を通してみる。江戸川乱歩の生誕120周年にあわせて、 乱歩の人と作品を紹介したガイドブックである。

 巻頭は二つのテーマをピックアップ。ひとつは文字どおり乱歩の蔵出し本を写真で紹介する「幻影城に眠るお宝「乱歩本」大公開」、もうひとつは作品に登場する美女たちをイラストでまとめた「乱歩作品を彩る美女図鑑」である。
 そして本編は大きく二部構成。第一部は「日本探偵小説を牽引した大乱歩の素顔」と題し、評論家や作家らのエッセイとインタビューをまとめたもの。そしてメインと思われる第二部が「乱歩ワールドの迷宮〜全小説114作品徹底詳解〜」という構成である。

 江戸川乱歩の迷宮世界

 全体的にはこれから乱歩を読もうとか読み始めたばかりの人をフォローするガイドブックと思っていいだろう。したがって本書でなくてはという情報はほとんどない。まあ、乱歩についてはこれまでにもさまざまな評論やガイドが出ていることもあるし、今さらこの手の本に新情報を期待するほうが間違いである。
 となると、見るべきポイントは類書と差別化できる切り口の独自性か。巻頭の「乱歩作品を彩る美女図鑑」は悪くない企画で、イラストでヒロインを見せるアプローチが新鮮。いかんせんイラスト・テキスト共にボリュームが少ないのが残念だが、思い切ってこれだけで一冊作っても面白いのではないだろうか。それこそ萌え系でまとめる手もありかと。いや、むしろゲーム化して「乱これ」とか。まあ、売れなくても責任はとれませんが(苦笑)。

 使い勝手はまずまず。ガイドブックという性質上、もっと検索性を高めるなどの工夫がほしかったけれども、乱歩のすべての小説をこういう手軽な形でまとめて紹介してくれるのはありがたい。乱歩に興味を持ち始めた人が次のステップに進むための道標として使うには悪くない一冊だろう。


『映画秘宝EX 金田一耕助映像読本』(洋泉社MOOK)

 洋泉社の映画秘宝の別冊(EXとかいろいろあるけれど)はけっこう面白いテーマが多くて、ついつい買ってしまうこともしばしば。文章からデザインに至るまで、本の作りそのものは決して高いレベルとはいえないのだが、ヘンな熱気というかマニアックさはびんびん伝わってきて、そこに惹かれるわけである。
 だいたいがSFやホラー、アクション、エロあたりが中心、つまりは徹底したB級路線+男の子向け=オタク路線といってもいいのだが、要はそういうジャンルだからこそ成立しているともいえる。

 金田一耕助映像読本

 で、そんな映画秘宝の一冊として、昨年暮れにこんな本が発売された。『映画秘宝EX 金田一耕助映像読本』である。タイトルどおり映画化やテレビ化された金田一耕助の作品についてまとめたガイドブックだ。
 上で書いたようなジャンルでは重宝している映画秘宝でも、さすがにミステリ系は正直期待していなかったのだが、いやあ、これはけっこう頑張っている。
 単に金田一耕助の映像化作品を紹介するガイドブックではなく、原作との比較、各映像化作品との比較、おそろしく豊富な数のインタビュー等々、ガイドブックには不釣り合いとも思えるほどの濃いエッセイまであって実にけっこう。
 ぶっちゃけネット上で簡単に見られる情報も多いのだが、こういったニッチな情報を載せているサイトはほとんどが非公式。管理人の情熱ひとつで維持されているところがあるから、たとえば何らかの都合で管理人がそのままサイトを閉めてしまえばそれっきりなのである。これがネットの怖さ。ゆえにこうして一冊の本にまとまる意義が大きいのである。

 デザインが悪いとかけっこうケチをつけてもいるけれど、「映画秘宝」、ぜひこれからもがんばってほしいものだ。


『映画秘宝EX映画の必須科目05 突撃!モンスター映画100』(洋泉社)

 映画秘宝別冊のMOOKから『映画秘宝EX映画の必修科目05 突撃! モンスター映画100』が出ていたので、怪獣映画好き特撮映画好きとしてはやはり黙って見過ごすわけにはいかない。さっそく一冊ゲットして、ぱらぱらと眺めてみる。

 映画秘宝EX映画の必須科目05 突撃!モンスター映画100

 中身はタイトルどおり古今東西のモンスター映画100本を紹介したガイドブック。新しいものから古いもの、話題作からマニア向けなど、まんべんなく網羅しているといった印象である。
 とはいえ紹介記事そのものは相変わらずのマニアっぷり爆発で、楽しいネタが満載である。まあ良くも悪くもライターの腕ひとつで記事の面白さはだいぶ変わるのだが、それもまたよし。
 ただし、ある記事では褒めている映画が、別の記事ではくさしていたりと、評価がまちまちなのは困る。一人で書いている本ではないからそういうこともあろうが、一応はガイドブック的な本なのだし、これを参考に映画を観てみようという人がいるからには、やはり足並みはある程度揃えるのが正しいスタンスだろう。
 また、本書の構成として、各映画を紹介するメインの記事の最後に、類似映画を紹介するミニコラムがある。一本でもより多くの映画を紹介したいという姿勢は好ましいけれど、メイン記事とミニコラムで扱う映画がかぶっていたりするのはいかがなものか。
 先に挙げた欠点と合わせて考えるに、これは編集とライターがうまく摺り合わせできていないということになるのだろう。次作以降、考慮してもらいたい部分ではある。

 あとは以前にも書いたことだが、このシリーズ、誌面デザインをほとんど気にしていない(ように思われる)のが非常にもったいない。文字の大きさのバランスやレイアウトがとにかく情報を詰め込めばいいでしょ的な印象で、古くさいうえに読みにくい。表紙絵などを見るに、レトロな雰囲気を出すという方向性はわかるが、本文はそれとは違うものなぁ。

 本として持つ楽しみをもう少し。それが一番の希望か。


『本当におもしろい警察小説ベスト100』(洋泉社MOOK)

 いつのまにかジワジワと警察小説がブームになりつつあるようで、とうとう『本当におもしろい警察小説ベス100』というガイドブックまで出てしまった。
 版元は洋泉社。この出版社はサブカル系に強い印象があるのだが、近年はミステリ関係でも『図説 密室ミステリの迷宮』や『宮部みゆき全小説ガイドブック』とか『京極夏彦全小説ガイドブック』とか、割とこまめにガイドブックを出している。
 『図説 密室ミステリの迷宮』は実際に買って読んだことがあるが、なかなか好感の持てる作りだったし、そもそもミステリガイドブック好きの管理人としては、おそらく本邦初であろう警察小説のガイドブックを見逃す手はないってんで、さっそく購入と相成った。

 本当に面白い警察小説ヘ#12441;スト100

 ま、なんせタイトルが『本当におもしろい警察小説ベスト100』なので、警察小説のベスト本紹介以外の何ものでもない。これに人気作家のインタビューや対談、識者による座談会、警察小説の簡単な歴史などを絡めた、ごくごくオーソドックスな作りである。全体のボリュームもそこそこあるし、これから警察小説に親しもうかなという人には、まず十分な内容だろう。
 個人的にはもう少し海外物の比率を高くしてもらいたいところだが、ま、これは需要を考えると仕方ないか。

 ちょっと気になったのは、「警察小説」の定義。
 2ページの「introduction」で書かれているが、警察の一員たる「個人」に焦点を当てているのは意外な感じがした。管理人としてはどちらかというと「組織としての動き」に焦点を当てた物語を思い描いていることもあって、この認識の違いは妙である。警察小説はいつのまにそんな読まれ方がメインになったのだ?
 まあ、そもそも本書は「警察小説」の間口をかなり広くして紹介している感がある(なんせ松本清張の『点と線』、エルロイの『ブラック・ダリア』、ポーターの「ドーヴァー」シリーズも、みーんな警察小説に入れてるのだ)。狭義の警察小説で語ると、どれもこれも警察小説とはいえなくなるし、まあ、ガイドブックという性格上、それもやむを得なかったというところか。

 ちなみに前述の「introduction」ではこんな前文がある。

「本書でいう警察小説とは、
 著者が次の三カ条を
 心のどこかにきちんと置いて書いたことが
 読者として感じられる小説である。」

 要するに、読む者がそう思えば、それは警察小説であると。ううむ、そんな(苦笑)。


洋泉社編集部/編『ロマンスの王様 ハーレクインの世界』(洋泉社)

 ミステリのガイドブックや入門書が昔から好きだ。山ほどミステリを読んできた今でも、目の前にそういうガイドブックがあればついパラパラと眺めてしまう。思えば子供の頃から周囲にミステリのファンがほとんどおらず、ことミステリに関しては誰の教えを受けることもなく独力で読み続けてきた。ミステリの面白さを教えてくれたのは、紛れもなくミステリのガイドブックであった。
 ポー、ドイルから始まり、黄金期の本格、倒叙、そしてサスペンスからハードボイルド、法廷もの等々と、それこそ教科書をなぞるように読む。あるときはジャンル別、またあるときは系統立てて。ときにはネタバレ満載の地雷本もあったが(笑)、概ねミステリで大切なことはすべてガイドブックで教わったといってよい(いや、ちょっと嘘w)。

 と、そんなことを書いてみたのも、書店の店頭でたまたまこんな本を見つけたからだ。洋泉社の『ロマンスの王様 ハーレクインの世界』。
 題名どおり「ハーレクインロマンス」を題材にしたガイドブックである。おお、まさかこんな本が出ていたとは。
 ハーレクインそのものは、実は一冊も読んだことはないのだけれど、これは気になった。というのも、ひとつのジャンル文学として、ロマンスとミステリはそれほど遠い関係ではないと思っていたからだ。どちらもストーリーの枠組みや構成等に一定のコードがある文学である。いわゆる職人タイプの作家が、そのコードさえきちんとマスターしていれば、どちらも巧みに書けるのではないか。実際、ハーレクインの書き手からミステリに進出する作家も大勢いる(ジャネット・イヴァノヴィッチもそうじゃなかったか)。

 ロマンスの王様ハーレクインの世界

 ええと、あまり固い話にするつもりはないのだが、要は何が言いたいかというと、この『ロマンスの王様 ハーレクインの世界』というガイドブックが、むちゃくちゃ面白いのである。繰り返すがハーレクインを読んだことは一冊もない。でもこの本はミステリ好きならおそらく楽しめるはずだ。
 先ほど書いたように、構造的に両者には共通点が多いせいか、そのガイドブックとしてのアプローチもとにかく似ている。例えばミステリの用語解説であれば、密室や毒薬、動機、探偵、殺人といった語句などが紹介されるだろうが、これがロマンスでは、牧場やシーク、ワイルド、貴族、家庭教師といった言葉が並ぶ。しつこく繰り返すが、それらのキーワードを解説するという行為が、既にミステリと非常に近いのである。
 ジャンルがミステリ以上に細かく分かれているところも要注目。「愛人契約」や「一夜の恋」、「オフィス」なんてのは全然普通で、中には「シークレットベビー」や「オークション」「シークとの恋」なんていうのもある。なんだよ、オークションって。ちなみに「シークとの恋」とはアラブの富豪との恋を描いた内容。それがなんと一ジャンルを作っているのである(笑)。すごい、すごすぎるよ。

 もちろんハーレクインのガイドブックだから、作者の紹介やハーレクインの歴史という真っ当な特集も多く、加えて読者アンケートや初代編集長へのインタビュー、座談会等々と実に盛りだくさん。いやあこれは楽しい。
 この表紙をレジへ出すことが恥ずかしくないのなら、どうか騙されたと思って一度目を通してもらいたい。いや、騙されたと思っても責任はとれないけど。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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