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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

極私的ベストテン2010

 毎年同じことを書いている気もするが、今年もあっという間に一年が過ぎた感じである。で、これも毎年書いている気がするが、読書の方はさっぱり進まない一年であった。何と今年はわずか七十冊(ただし仕事関係除く)。この数年減る一方の読書量だが、とうとうここまで来たか(笑)。
 原因ははっきりしていてもう仕事に尽きる。時間そのものをとられることもあるのだけれど、むしろ疲れやストレスのせいで読書に集中できないことの方が影響としては大きい。まあ、来年こそは何とか百冊ぐらいには戻したいものだが、昨年もそんなこと書いてダメだったしなぁ。まあ、来年も適当にやります(爆)。

 さて、『探偵小説三昧』版2010年度ベストテンを発表しようと思うのだけれど、今年は読書数に反比例して実に難しかった。これは良かったと思うものをざくっと挙げ、そこから二十冊ぐらいにはすぐ絞り込めたものの、そのあとが難儀。当時のインパクトやバランスも考慮しつつ、三十分ほどで決まった(結局その程度か)のが以下の十作。


1位 トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』(ハヤカワミステリ)
2位 J・B・プリーストリー『夜の来訪者』(岩波文庫)
3位 ジョー・R・ランズデール『ババ・ホ・テップ』(ハヤカワ文庫)
4位 ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)
5位 ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死(上・下)』(創元推理文庫)
6位 角田喜久雄『影丸極道帖(上・下)』(春陽文庫)
7位 マイクル・コナリー『エコー・パーク(上・下)』(講談社文庫)
8位 スチュアート・ネヴィル『ベルファストの12人の亡霊』(RHブックス・プラス)
9位 日影丈吉『夕潮』(創元推理文庫)
10位 ローラ・リップマン『心から愛するただひとりの人』(ハヤカワ文庫)


 今年は実に優れた短編集を読めたなぁというのが第一の感想。ランキングにはランズデールやローラ・リップマンを入れたが、他にもローレンス・ブロック『やさしい小さな手』(ハヤカワ文庫)エドワード・D・ホック『夜の冒険』(ハヤカワ文庫)リチャード・マシスン『運命のボタン』(ハヤカワ文庫)あたりは誰が読んでも納得の一冊ではなかろうか。そして、そんな良質の短編集中でもトマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』の存在感は圧倒的であった。
 ちなみに読む人を選ぶだろうが、コッパード『天来の美酒/消えちゃった』(光文社文庫)ロバート・バー『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(国書刊行会)木々高太郎『光とその影/決闘』(講談社大衆文学館)松本清張『松本清張短編全集07鬼畜』(光文社文庫)の四冊も、個人的には忘れられない作品集である。

 長篇ではJ・B・プリーストリーの『夜の来訪者』が拾いもの。というか自分が読んでないだけで有名な作品なんだが、この短さでここまでしっかりしたサスペンスを生む技術は凄い。純粋なミステリとは言えないけれども、やたら長いものしか書かない最近の作家は、これでも読んで少し勉強した方がいいだろう。

 とはいえ長くてもいいものはあるわけで(どっちやねん)、ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死(上・下)』、角田喜久雄『影丸極道帖(上・下)』、マイクル・コナリー『エコー・パーク(上・下)』は怒濤の上下巻三連発。コナリーの良さは言うまでもないとして、ルイス・ベイヤードも相当の実力者である。ポオに興味があろうがなかろうが、ミステリ好きならとりあえず読んどくべき。味わい深さとハッタリが非常に高いレベルで融合している作品である。
 角田喜久雄の伝奇小説は、いいとは聞いていたものの、いざ読んでみてミステリ色の強さに仰天。作品にもよるだろうが、これはミステリ好きが読んでもノープロブレムの一冊。

 本格系は今年あまりいいものに出会えなかったかも。マクロイはもう個人的に外せない作家になってしまったのだが、あと印象に残ったのはF・W・クロフツ『フレンチ警部と毒蛇の謎』(創元推理文庫)パトリック・クェンティン『悪魔パズル』(論創社)アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』(原書房)ぐらいか。ランキング入りは厳しかったが、読んで損はない。

 スチュアート・ネヴィルの『ベルファストの12人の亡霊』は設定の面白さでランキング入り。今年の新刊の中では、他にジョゼフ・ランス+加藤阿礼『新幹線大爆破』(論創社)デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』(ハヤカワミステリ)キャロル・オコンネル『愛おしい骨』(創元推理文庫)もランキングに入れるかどうか悩みまくった。こちらもご用とお急ぎでなければぜひ。特に『新幹線大爆破』は、ゲテモノと侮るにはあまりにもったいない。

 今年は国産もあまり読めなかったのが心残り。とりあえず『夕潮』はランキングに入れたが、こういうタイプで良質のものをもっともっと読みたい。


 というわけで駆け足で総括してみたが、いやあ、しんどい。でも楽しい。ミステリを読むことは実に楽しいけれど、その感想をこうやって人に伝えたり、皆で話し合ったり、これがまた格別にいいんだよね。
 来年もまたこんな感じで、ダラダラとミステリの感想を書きちらかしていく所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。
 それでは皆様、よいお年を。
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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