fc2ブログ

探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』(ハヤカワ文庫)

 ファンタジーの名作として名高い『ジェニーの肖像』が本日の読了本。何を今さらの一冊ではあるのだが、恥ずかしながらこれが初読。ずいぶん昔に映画で筋を知ってしまい、なかなか読む気が起こらなかったのだが、先日、ハヤカワ文庫版を古本屋で見つけ、何となく読みどきかなと思って購入した次第。

 ジェニーの肖像

 1938年の冬、青年画家のイーベンはまったく絵が売れず、失意の日々を過ごしていた。その日も買い手のつかない絵を抱えてセントラルパークを歩いていると、石蹴りをしている一人の少女が目にとまる。少女の名はジェニー。ちょっぴりずれた会話、そして去り際の奇妙な歌、何よりその不思議な美しさに魅了され、イーベンは彼女のスケッチを描き残すのだが……。

 こういう名作の感想というのは何とも書きにくいけれど、やはりこれは名作と呼ばれるだけのことはある。文庫にしてわずか160ページほどのボリュームしかないのに、その余韻だけで100ページ分ぐらいありそうな感じ(意味不明)。
 いい理由はいろいろあるが、個人的イチ押しはジェニーとイーベンの交流の描写。御存じのように、ジェニーとイーベンの逢瀬の様子は微妙に変化していく。この一連の描写が見事で、もちろんエピソードもいいのだけれど、二人の距離感そして空気感の描き方が実にいいのだ。二人が最後に出会うラスト。このほろ苦さもまた絶妙である。
 時間テーマのファンタジーではあるけれど、あまりそういうことには囚われず読むのが吉。ああ、映画の方も久々に見直そうかしら。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー