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 『大庭武年探偵小説選II』読了。先日読んだ『大庭武年探偵小説選I』は郷警部を探偵役とするシリーズものだったが、本書はノンシリーズや非探偵小説、戯曲、エッセイ等をまとめたもの。収録作は以下のとおり。

創作篇
「小盗児市場の殺人」
「毒薬自殺綺譚」
「拾つた拳銃」
「カジノの殺人事件」
「復讐綺談」
「歌姫失踪事件」
「タンヂーの口紅」
「難破船」
「三吉積罪物語」
「港の抒情詩」
「明けゆく満蒙」

随筆篇
「文科教室」
「探偵小説と私」
「馬賊・義賊・その他」
「亡き父を語る」
「大連と探偵小説」
「書かない弁」
「ふるさと」
「書かれざる傑作」

 大庭武年探偵小説選II

 『~I』の感想でもちらっと書いたのだが、本書を読む前に頭にあったのが、果たして大庭武年は文学寄りの探偵小説を書いていたのかどうかという点である。
 そもそも大庭の探偵小説の好みは、ヴァン・ダインに代表されるようなガチガチの本格。その興味はロジックやトリックにある。とりわけ名探偵を主人公とする本格のシリーズものは制約や約束事も多いため、確かに文学的興味との両立は至難の業だ。だからこそ制限の少ないノンシリーズでは「生活のため」などとは言わず、芸術としての探偵小説、純文学と探偵小説の融合にも期待したいところだったのだが。
 いやあ、さすがに思うようにはいかない。
 結果からいうと、そんな試みはまったくなくて、見事なまでに娯楽のための小説ばかりであった。
 実は本書収録のエッセイ「探偵小説と私」でも、探偵小説は芸術品たり得るか大庭自ら提議していた。そう、やはりちゃんと視野には入っていたし考えてはいたのだ。ただ残念ながら、そこには純文学と探偵小説の間で葛藤するような歯切れの悪い文章が連ねられており、やはり両立しがたいという結論に落ち着いている。

 ただ、「生活のため」と割り切るなら割り切るで、探偵小説もそれなりに注力してくれればよいが、本書に収められている作品は出来の方もかなりお粗末。『~I』に比べて一枚も二枚も落ちるありさまで、なかには完全に破綻している作品まである始末。かろうじて倒叙ものの「小盗児市場の殺人」、和製ルパンものとでもいうべき「歌姫失踪事件」が楽しめたぐらいだった。久々に釈然としないまま読み終えた次第。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 論創ミステリ叢書から『大庭武年探偵小説選I』を読む。
 大庭武年は、戦前には珍しい本格探偵小説の書き手である。幼少の頃に家族と共に満州へ渡り、学生時代を日本で過ごした以外、ほぼ満州で活躍したという経歴もこれまた異色。加えて終戦間際に42歳の若さで戦死するという悲運の持ち主でもある。
 ただ、実は大庭の目指すところは純文学であり、あくまでその余技としての探偵小説であった。そのためかどうか探偵小説の作品数はそれほど多くない。本書と続巻の『大庭武年探偵小説選II』で、その成果のほとんどを網羅しており、いわばプチ全集といったところ。まあ、論創ミステリ叢書の感想ではいつも書いていることだが、こういうレアな作家の作品をよくぞまとめてくれたものである。

 本書『大庭武年探偵小説選I』は、大連を舞台にしたシリーズものとして知られる郷警部ものをまとめ、ノンシリーズの「旅客機事件」を加えた構成である。収録作は以下のとおり。

「十三号室の殺人」
「競馬会前夜」
「ポプラ荘の事件」
「牧師服の男」
「海浜荘の惨劇」
「旅客機事件」

 大庭武年探偵小説選I

 さて、戦前の本格探偵小説作家で早世した人物と言えば、すぐに大阪圭吉が思い浮かぶが、本書を読んだかぎりでは、作品のもつムードはけっこう異なる。むしろ先日読んだ宮原龍雄の方にイメージが近いと感じた。公式にはめたような、生真面目な、実に生真面目な本格なのである。正直ここまでストレートな本格ばかりを書いていたとは、という驚きが最初にくる。
 さすがにトリックは時代を感じさせるし、少々、型にはまりすぎている嫌いはある。しかしながらプロットやロジックの在りようは戦後の本格作品と比べても遜色ないレベルだろう。本格探偵小説とは何か、それをこの時点でしっかりものにしていたことが、とにかく素晴らしいのである。
 個人的には「旅客機事件」がイチ押し。ある意味トンデモ系といえるけれど、それがまた魅力である。作者がどこまで狙っていたかはわからないが、重要すぎるほどの伏線が実は……というオチも最高(笑)。

 ひとつ気になるというか不思議だったのは、純文学志向がはっきりとある作家だったのに、探偵小説との融合、あるいは芸術として探偵小説を昇華させる気はなかったのか、ということ。
 自らエッセイで書き残しているように、大庭は文学と探偵小説について完全な割り切りをしており、あくまで探偵小説は生活のためと言い切る。実際、本書の作品もいわゆる文学からは程遠い娯楽作品ばかりである。当時は「探偵小説芸術論」もまだなかったはずだが、それでも芸術としての探偵小説はまったく模索していなかったのだろうか。
 もし、彼が生きて戦後を迎えていたら、そして「探偵小説芸術論」に出会えていたら、いったいどのような作品を書いていたのだろう。気になる気になる(もしかすると『大庭武年探偵小説選II』ではそのような作品が収録されているのかもしれないけれど)。


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