fc2ブログ

探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

エルスペス・ハクスリー『サファリ殺人事件』(長崎出版)

 長崎出版Gem Collectionから、エルスペス・ハクスリーの『サファリ殺人事件』を読む。原書は1938年の刊行。
 著者のエルスペス・ハクスリーはこれが本邦初紹介となるイギリスの女流作家。幼い頃から植民地時代のケニアで過ごし、役人やジャーナリストの経験も豊富という人物である。ミステリはそれほど多く書いたわけではないが、アフリカでの体験が活きた作品を残し、本書もそうした一冊である。

 舞台は東アフリカに位置する架空の英国植民地、チュニア。ヨーロッパの富豪たちがサファリ目当てにやってくる土地でもある。そんなチュニアの警察に勤めるヴェイチェル警視のもとへ、あるハンターが事件の相談に訪れた。サファリの上得意であるルーシー夫人の宝石が盗まれたのだという。ハンターを装って極秘に捜査を進めるヴェイチェルだったが、盗難事件はやがて夫人の殺人事件に発展する……。

 サファリ殺人事件

 アフリカを舞台にしたミステリというと、先日マシュー・ヘッドの『藪に棲む悪魔』を読んだばかり。だが、アフリカという舞台の活かし方、ミステリとしての完成度共に、本書の方が文句なしに上だ。
 書かれた時代ゆえ現地人の描き方にはやはり問題があるけれど、アフリカの自然やサファリの描写は非常に詳しく、さすがに長年現地で暮らしてきただけのことはある。しかもミステリの一部として、これほど効果的にバッファローやサイなどをストーリーに組み込んだ例は記憶にない。まあ、そもそもバッファローやサイが出るミステリ自体がほとんどないんだけれど(笑)。
 トリックや謎解きはさほど驚くほどのものではないが、丁寧なプロットや伏線、サファリという設定の活かし方、その独自性を考えれば、読み物としては十分オススメといえるだろう。
 強いて難を挙げれば、主人公のヴェイチェル警視の個性ががいまひとつ。それなりに腕っ節も強く頭も切れそうなのだが、その割には後手に回ることが多く、詰めが甘い感じ。ま、この辺は好みもあるが。

 なお、アラン・バーキンショー監督による映画『サファリ殺人事件』はまったく別物なので念のため(あちらは『そして誰もいなくなった』の映画化であります)。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー