今年のゴールデン・ウィークは遠出の予定もまったくないので、少しは本が読めている感じ。とりあえずだらだら進めていたカーの感想を昨日アップしたが、本日は同時進行だった『狩久探偵小説選』の感想をば。
狩久という作家、ミステリ的には大作家というほどではないけれども、圧倒的な個性が秀逸で、マニアの間でも人気の高い作家だ。そのくせ市場でのレア度は高く、アンソロジー等では比較的よく採られるのに、これまで長らくまとまった作品集が編まれることはなかった。そして昨年、ようやくというか遂にというか論創社から刊行されたのが『狩久探偵小説選』である。
収録作は以下のとおり。「見えない足跡」から「虎よ、虎よ、爛爛と――一〇一番目の密室」までが、瀬折研吉・風呂出亜久子を探偵役にしたシリーズものである。
■創作篇
「見えない足跡」
「呼ぶと逃げる犬」
「たんぽぽ物語」
「虎よ、虎よ、爛爛と――一〇一番目の密室」
「落石」
「氷山」
「ひまつぶし」
「すとりっぷと・まい・しん」
「山女魚」
「佐渡冗話」
「恋囚」
「訣別――第二のラヴ・レター」
「共犯者」
■評論・随筆篇
「女神の下着」
「《すとりっぷと・まい・しん》について」
「料理の上手な妻」
「微小作家の弁」
「匿された本質」
「酷暑冗言」
「ゆきずりの巨人」
「楽しき哉! 探偵小説」

いやあ満足。これまでアンソロジー等ではいくつか読んできたし、ある程度は狩久の魅力を理解しているつもりだったが、こうしてまとめて読むと全然違う。改めて狩久の面白さを実感した。
では狩久の面白さって何だという話なのだが、これがひと言ではちょっと言いにくい。帯には「論理と密室のアラベスク 性的幻想のラビリンス」という文句が踊っているが、まあ、これも間違いではないのだけれど、それだけでは一面を捉えているに過ぎない気がする。
単なる本格に収まることをよしとしない数々の遊び、独特の文体とユーモア、そしてエロチックな要素。これらが渾然一体となって狩久ならではの世界を構築する。どれかが欠けても物足りなくなるはずで、いい意味での猥雑さはこの人ならではの武器だろう。逆にいうと論理が出過ぎるとか、アイディアに頼りすぎた作品はやや壊れ気味。
お好みはちょっと定番が多いけれども「呼ぶと逃げる犬」や「落石」「すとりっぷと・まい・しん」「山女魚」「虎よ、虎よ、爛爛と――一〇一番目の密室」や「訣別――第二のラヴ・レター」あたりに落ち着くか。なかでも「虎よ、虎よ~」や「訣別~」は狩久の才気が爆発してもう堪らん。
なお「訣別~」は再読なのだが、初読時の?な感じが氷解してお好み度はよりアップ。とはいえ、これに関しては、お好みではあるけれど、決してオススメではないので念のため(苦笑)。
なお、解説で横井司氏は「本書が好評をもって迎えられたならば、「比較的セックスの匂いの強い」作品群や貝弓子名義の創作翻訳群などを中心とする作品集の刊行も可能であろう」と書いているのは非常に気になる。ネット上ではけっこう評判はよいようだが、その後、どうなったのだろう。
出たら絶対買うんだけどなぁ。