本日の読了本は、デイヴィッド・ゴードンの『二流小説家』。
題名どおりの二流小説家を主人公にしたミステリ。売れない中年作家のハリーはいくつものペンネームを使い分け、ミステリからSF、ファンタジーにポルノまで書き散らかす毎日。しかし、それでも収入は安定せず、恋人には逃げられ、ついには中学生の家庭教師で食いつなぐ羽目に陥っている。
そこへ降ってわいたのが、連続殺人で逮捕された囚人ダリアン・グレイからの手紙。今や死刑を待つだけのグレイは、なんとハリーのポルノ小説が気に入ったので、彼の手記を書く許可を与えるというのだ。グレイの犯行にはまだまだ不明な点があり、彼がすべてを話せばベストセラーは間違いない。しかも取り分はフィフティフィフティ。
ハリーは当然それを引き受けようとするが、ただし、この話にはひとつだけ条件があった。グレイを主人公にしたポルノ小説を書けというのだ……。

巧い。これがデビュー作とは思えない技術。
上の粗筋はほんの触りで、この触りだけでもかなり変な話なのだが、全体の味つけ、ミステリとしての仕掛けも悪くない。少々ハメを外しすぎの嫌いもあるが、まあデビュー作ということで力も入っていたのだろう。だがこれだけ読ませてくれれば十分である。
ありがちといえば実にありがちなスタイルなのだ。口先だけは達者な文系優柔不断男子が、エピソードを通して一皮むけるというストーリー。典型的な青春小説・成長小説のスタイルを、そのままミステリに用いているのがミソ。
とはいえミステリにだって、それぐらいのパターンは珍しくも何ともない。本作が面白いのは、主人公を冴えない中年男、しかも小説家にした点だ。ミステリのみならず出版業界や売れない作家の生態、ジャンル小説までもネタにする。蘊蓄も満載。特に主人公ハリーがこれまでの半生をぽつりぽつりと語ってゆく前半は秀逸で、このまま最後までいってもいいんじゃないかと思ったぐらい。語り口も軽妙で、ニコルソン・ベイカーあたりを思い出してしまった。
何より好感が持てるのは、作者がすごく楽しそうに書いていることだ。
それが最も表れているのが作中作。ハリーがペンネームを駆使して書いている様々な小説、それこそミステリやSFからポルノに至るまでを、実際に載せているのである。
初めは何か本筋と密接な関係があるのかと思って読んでいたのだが、どうやらほぼ意味はないようだ。つまりは作者の遊びである。前述した「ハメを外しすぎ」の部分なわけだが、本書全体がまあ壮大なホラ話と言えなくもないので、個人的にはよしとしたい。
ミステリとしてはやや弱いという意見もあるようだが、ま、これだけサービス精神溢れる話はそうそうないし、ぜひ興味のある向きはご一読を。今後の活躍にも期待したい作家である。