先月診てもらった人間ドックの結果が例によってあまり芳しくなかったため、本日は朝イチで病院へ。若い頃と違って、この年になるとほぼ100%何らかの異常が出るのでもう慣れてしまったとはいえ(苦笑)、「要再検査」とか「要精密検査」をすっ飛ばして「要治療」とか出るとさすがにまずいよなぁ。今回は反省して、早めに病院へ行くことにした次第。また、しばらく病院通いか。鬱。
トマス・W・ハンシューの『四十面相クリークの事件簿』を読む。かの江戸川乱歩が「怪人二十面相」のモデルにしたと言われる四十面相クリークを主人公とする物語。
一応は長篇だが、もとになる短編集があって、それを長篇に仕立て直したスタイル。こういうやり方って日本ではあまり馴染みがないけれど、外国の古い小説ではたまに見られるパターンだ(ジーブスにもそういうのがあったはず)。正直、同じものを二度売りすること以外にメリットが思いつかないのだけれど、実際の話、どういう理由があったのか知りたいものだ。

ま、それはさておき。
クリークは「怪人二十面相」のように元々は怪盗である。それがあるレディと出会ったことによって改心し、今度は探偵として活躍する。顔の筋肉を自由に動かして変装するというのが四十面相の由来だが、その素性は謎に包まれている。しかし,時折見せる立ち振る舞いは非常に優雅で、高貴な生まれを想像させる、というのが基本設定。
盗賊がいきなり過去の罪を免除されて警察側につくことが許されるのかとか、顔を自由に変えて変装するなんてムチャクチャだとか、まあ、それなりのツッコミどころは確かにあるのだけれど、そんなことを気にしてはいけない。
それらをのぞけば、本作は基本まっとうな「推理と冒険」の物語であり、しかも極めて面白い。
冒頭で提示される魅力的な謎、ほどよい謎解きとアクションのバランス、成就しそうでしないロマンスなど、作者は読者をつかむポイントをよく知っており、それがまた非常によいテンポで畳みかけてくるので気持ちいいことこの上ない。また、時代がかった振る舞いが似合うクリークの存在はもちろんだが、探偵助手の少年や、クリークをつけ狙う女怪盗など、キャラクター作りもなかなか巧い。乱歩が参考にしたのも頷ける、というか参考にしすぎだろう(笑)。
書かれた時代故、あまりフェアな本格ものを期待すると裏切られるが、かつてポプラ社版のルパンや少年探偵団の物語にはまった人なら、間違いなくオススメ。イメージは正にあのまんまである。
個人的にちょっと驚いたのは、「ライオンの微笑」というエピソード。
ライオンの口に頭を突っ込むというサーカス芸があるのだが、その最中にライオンが笑ったかのような表情を浮かべ、頭をかみ砕くという事件が起こる。絶対に失敗したことのなかった芸なのに、いったいなぜ? そしてライオンはなぜ笑ったのか? という有名なネタである。
実はこれ、短編として『シャーロック・ホームズのライヴァルたち2』(ハヤカワ文庫)で読んだはずなのだが、クリークものだったとはまったく記憶になかったのである。この有名なトリックがハンシューの作品だと知り、よけいに嬉しくなってしまいましたとさ。