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 今でこそ各社からさまざまなクラシック・ミステリが続々と刊行されているが、こんなムーブメントがほとんど無かった頃から、こつこつと幻の名作群を紹介してきた作家がいた。国産ミステリのマニアならすぐに答がでてくるだろうが、もちろん鮎川哲也である。その方面での氏の業績は、数々のアンソロジーとして、枚挙にいとまがないくらい残されている。古くは双葉社の『怪奇探偵小説集』から光文社の『下り“はつかり”』等の鉄道ミステリアンソロジー、晶文社の『幻の探偵作家を求めて』や出版芸術社の『妖異百物語』などなど。そのほとんどがシリーズ化されているのも、いかに鮎川哲也が目利きとして優れていたかの証左といえよう。
 そんな鮎川哲也が最後まで関わっていたアンソロジーが、光文社文庫の「本格推理マガジン」シリーズだ(ただ実際にはこの頃はもう実務にほとんんどタッチすることもなく、作家の芦辺拓氏が全面的に担っていたらしい)。このアンソロジーの特徴は「本格推理マガジン」というタイトルからもわかるように、ミステリ雑誌の形式を踏まえ、バラエティに富んだテーマを設けて構成されていたことだろう。マニアでも唸るようなそのラインナップは、初めて読む作家も多く、ぜひとも入手しておきたいシリーズではある。
 ただ残念ながら、『孤島の殺人鬼』『硝子の家』『鯉沼家の悲劇』『絢爛たる殺人』『少年探偵王』と続いたところで、氏の逝去によってこのシリーズも中断したようだ。それこそ芦辺氏などが跡を継ぎ、続きを出してもらいたいものなのだが。

 前振りが長くなったが、本日の読了本はその「本格推理マガジン」から『少年探偵王』。収録作は以下のとおり。

江戸川乱歩「まほうやしき」「ふしぎな人/名たんていと二十めんそう」「かいじん20めんそう」
高木彬光「吸血魔」
鮎川哲也「空気人間」「呪いの家」「時計塔」
河島光広「ビリーパック 恐怖の狼人間」

 タイトルどおり本作は全編これ少年向け探偵小説で構成されている。お馴染みの少年探偵団ものから珍しい鮎川哲也のもの、目玉とも言える高木彬光の神津もの長篇まで豪華そのもの。
 乱歩の三作はポプラ社版にも入っていない幼年向けの作品というのが珍しい。ほぼひらがなという文章に多少は読みにくさがあるが、基本的なエッセンスやスピリットは普遍だ。私もミステリの入り口、いや読書体験の入り口が少年探偵団だったため、二十面相と少年探偵団の対決が当時と同じように楽しめてしまった。
 高木彬光の少年向け長編小説は初めて読んだが、予想以上に面白い。最初はクールな神津が少年向けにはまるのかどうか心配だったが、いらぬ杞憂であった。悪人がどれだけ恐ろしく不思議な手を使っても、それを涼しい顔で否定したり解いたりするのは、他の作者の作品にはあまり見られない、神津ものジュヴナイルならではの魅力かもしれない。そもそも恐怖感をあおるのは、実は作中の悪人なのではなく作者の仕業なのだから、それを登場人物がさらっと否定するというのは、よくよく考えると不思議な状況ではある。なお、神津が犯人と格闘するというのは、さすがに少年向けにしか見られないサービスであろう。
 鮎川哲也の少年向け作品は謎解き性が高いのが特徴か。三作ともトリックをばーんと前面に押し出しており、さすが本格の鬼。少年向けとしては逆に異色の部類に入るだろう。
 「ビリーパック」は本書で初めて知ったマンガなのだが、エッセンスがもう乱歩そのもの。怪人をはじめとする数々のモチーフもさることながら、ところどころに入る種明かしも少年探偵小説の王道をゆく。これがシリーズ4作目らしいが、できればまとめて読みたいところだ。

 ちなみにこの「本格推理マガジン」。決して古い本ではないはずだが、新刊書店では既にほとんど目にすることができないものの、古書店などではまだまだ入手しやすいはず。興味ある人は早めにゲットしておくのが吉。

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 金曜・月曜と休みをとり、本日より一応四連休。だが同時に3日ほど相方が里帰りをするため、基本的には愛犬とともにぼーっと過ごすことになるはず。古本屋めぐって本を読んで資料整理して。これはこれで楽しい。

 芦辺拓氏の編集による『絢爛たる殺人』読了。探偵小説がまだ探偵小説と呼ばれていた時代の、幻の作品を集めたアンソロジーである。まずは収録作から。

岡村雄輔「ミデアンの井戸の七人の娘」
宮原龍雄、須田刀太郎、山沢晴雄「むかで横町」(リレー小説)
坪田宏「二つの遺書」
宮原龍雄「ニッポン・海鷹」
鷲尾三郎「風魔」

 さすがに探偵作家にして探偵小説マニアでもある芦辺氏が編纂しただけあって、既読の作品はゼロ。著書を二、三持っているのが宮原龍雄や鷲尾三郎、かろうじて過去に短編をいくつか読んだことがあるのは岡村雄輔、山沢晴雄。坪田宏は以前に鮎川哲也編集のアンソロジーで読んだことがあるような気もするのだが……思いだせん。須田刀太郎は間違いなく初めて。
 こんな案配なので、基本的には読めるだけで幸せなのだが、客観的に評価するとなると、そこまで幸せにはなれない(笑)。以下は作品ごとの感想。
 まずは岡村雄輔の「ミデアンの井戸の七人の娘」。
 これは強烈である。小栗虫太郎を意識した作風や文体で書かれ、作中で小栗の探偵小説にも言及するなど、目指すところはハッキリしている。ところが仕上がりそのものがけっこう中途半端で、小栗ほどの難解さや高尚さにも欠けるのが残念。だが本書の肝はそんなところにあるのではない。実はトリックが尋常ではないのだ。おそらく現代では絶対に真似できないほど危険なネタであり(笑)、インパクトの強さでは本書中随一。当時であってもこれが許されたのか気になるところだ。
 「むかで横町」は宮原龍雄、須田刀太郎、山沢晴雄の三氏によるリレー小説だが、発端編がいい感じなのに、発展編がだめ。山沢晴雄がなんとか解決編で頑張ってまとめてはいるが、やはり取り返せるところまではいっていない。期待はずれ。
 坪田宏の「二つの遺書」は雰囲気がいい。ネタ自体は弱いけれど好みの作品である。
 「ニッポン・海鷹」はまたもや宮原龍雄。伝奇小説的な設定は面白いが、なんだかちぐはぐ。探偵小説と見事に融合しているかといわれれば、ちょっと辛い。
 「風魔」はコミカルな味付け、大がかりなトリック、奇抜な設定が見事にまとまった作品。バカミスの一歩手前できれいに止めた感じであり、本書のなかでは最も面白かった。

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 古典復刻ブームが今ほど盛んでなかった頃から幻の名作を紹介していたのが、光文社文庫による「本格推理」のシリーズである。といっても完全な叢書という形ではなく、文庫による雑誌という形式。しかも普段は投稿作品がメインで、過去の名作紹介は特別編という形をとっている。おまけにその特別編は不定期なうえ、今までに四冊しか出ていないこともあって、本当にこのシステムが売り上げ及び本格推理小説の普及に貢献しているかどうかはちょっと疑問が残るところだ。収録作は凄いところを集めているだけにもったいない感じがする。

 本日の読了本『硝子の家』は、その「本格推理」シリーズの特別編として二番目に出版された作品集。収録されているのは、長編・島久平『硝子の家』、中編・山沢晴雄『離れた家』、短編・天城一『鬼面の犯罪』という滅多に読むことのできないものばかりなのだ。この面子だけでも絶対に買いの一冊。以下、順に感想など。

島久平『硝子の家』
 そもそも本書を読む気になったのは、この作品のせい。二日ほど前に『島久平名作選 5-1=4』を読んだので、記憶が薄れる前に一気に固めて焼き付けておこうというわけである。『島久平名作選 5-1=4』でも中編の方が印象深かったので、長編もそれなりの期待を持って読んだ。
 密室殺人、ガラスというモチーフ、伝法探偵の謎解きとそれに至るまでのネタ振り(動物園などですね)など、本格探偵小説のエッセンスが詰め込まれてなかなか楽しい。作者の考える本格探偵小説像が見えてくるようだ。全体にトリックについての派手さはないが、けっこう好み。
 ただし、伝法探偵があそこまで事件解決を引っ張るのはあまり意味のない気もする。先日の感想でも書いたが、伝法探偵のキャラクターはいいところを狙っていると思うが、ちょっと性格の設定が強引すぎるのがもったいない。また、短編とは逆にもう少しテンポ良くいった方が、キレイに決まったのではないだろうか?

山沢晴雄『離れた家』
 これはす、すごい。凄すぎる。ここまで凝りまくった本格を読んだのは久しぶり。というかここまでやらなきゃいかんのか。なにせ初出のものがあまりに難解なため、危うく不採用になるところを芦辺拓の主張によって救われた作品らしい。しかも作者に改稿を依頼し、その新稿を採録することになったという条件付きである。そんな話が序文で紹介されているので、こりゃ心してかからんといかん、なんて思っていたにもかかわらず、その激しすぎるネタのオンパレードに思わず知恵熱が出そうになる。謎解きの段階で表解説がつくのだが、私の場合、あれがないとかなり厳しかった。とにかくだまされたと思って一度は読んでおきたい。酔います。

天城一『鬼面の犯罪』
 『離れた家』の後に読んでは、たいていの作品は影が薄くなるのも当然。しかもその作品が『離れた家』以上にわかりにくい……というか説明不足ではないのか、これでは。本書のなかではもっとも期待はずれ。天城一のけっこう有名な作品なので期待はしていたのだが……。

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