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 先日に読んだブッツァーティがなかなか良かったので、既刊本をネットで探していたら、たまたま「ちくまプリマーブックス」の『謎の物語』という本を見つけ、その内容に驚いてしまった。
 「ちくまプリマーブックス」とは筑摩書房がかつて刊行していた叢書の一冊で、中高生向けの入門書・啓蒙書のシリーズである。いまの「ちくまプリマー新書」の前身にあたるのだろうが、当然ながら基本はノンフィクション。ところが『謎の物語』は珍しく小説のアンソロジーだった。
 とはいえ、これだけなら驚くほどのレベルではない。ビックリしたのは、本書が「リドル・ストーリー」をテーマにしたアンソロジーだったことだ。しかも書き手は先ほど挙げたブッツァーティのほか、ホーソーンにデ・ラ・メア、木々高太郎に上田秋成、稲垣足穂等という豪勢なラインナップ。馴染みのない作家も多少いたが、とにかくこれらの作家がみな「リドル・ストーリー」を書いていたという驚き。っていうか何よりこんな面白そうな本が出ていたことを、今までまったく知らなかった自分に腹が立つ。とにかく速攻でネット注文し、読んでみた次第。

 謎の物語

 ここでひとまず、リドル・ストーリーとは何ぞやという人のために、ざっと説明しておこう。
 リドル・ストーリーとは、物語中に示された謎に対し、はっきりとした答えを出さず、読者にその結論を委ねてしまうというスタイルの小説である。
 論理による解明がカタルシスを生む本格ミステリとは、いわば対極に位置するようなスタイル。当然ながら相性がいいのは幻想小説やSFになるのだろう。しかしながらミステリでも「奇妙な味」にはそういうタイプのものもあるし、本書に収められた作品でも、木々高太郎の「新月」は歴とした探偵小説なので、あながち縁がないわけでもなさそうだ。
 ただ、ジャンルにこだわる必要はまったくない。読み終えた後の、このいいようのないモヤモヤ感を、どれぐらいカタルシスとして感じられるか。そこにリドル・ストーリーを楽しめるかどうかが掛かっているわけで、ハッキリ言って出来がどうこうという以前に、まあ、かなり人を選ぶタイプのスタイルだろうなとは思う。
 以下は収録作。

F・R・ストックトン「女か虎か」
C・モフェット「謎のカード」
B・ペロウン「穴のあいた記憶」
D・ブッツァーティ「なにかが起こった」
小泉八雲「茶わんのなか」
N・ホーソーン「ヒギンボタム氏の災難」
木々高太郎「新月」
上田秋成「青頭巾」
W・デ・ラ・メア「なぞ」
稲垣足穂「チョコレット」
H・ジェイコブズ「おもちゃ」

 ちなみに世界でおそらく一番有名だと思われるリドル・ストーリーは、本書巻頭にも収録されているF・R・ストックトンの「女か虎か」だろう。
 以下、リドル・ストーリーがどういうものか、知りたい方のために、敢えて「女か虎か」のストーリーを簡単に紹介する。リドル・ストーリーの性質上、ネタバレはありえないものの、ある意味本編を読んだも同然となるので、楽しみを奪われたくない方は以下ご注意を。

----以下、読まれる方は反転でどうぞ----


 ある国の王女と恋仲になった青年が、王の逆鱗に触れ、処刑されることになる。これが一風変わった処刑方法で、闘技場に青年だけが一人で残され、その前には左右二つの扉が閉ざされている。
 青年はこの扉のうち、どちらかを開けなければならない。だが一つの扉には凶暴な虎が入っており、開ければもちろん命が助かる見込みはない。だが、もうひとつには、素晴らしい美女が入っている。こちらを開ければ無罪放免、しかもその場で美女との結婚式まであげてもらえるというのだ。
 青年にすれば、王女との仲はお終いになるにせよ、罪は許され、おまけに美女と結婚までできるのだから、これは美女の扉がいいに決まっている。だが、果たしてどちらの扉にどちらが入っているのか?
 ここで王女が登場する。この処刑を見守る彼女は、実はどちらの扉に何が入っているのかを知っているのだ。青年は目配せで、王女にどちらを開ければ助かるかを問うのだが……。
 普通であれば、愛する青年を死なせたくない王女は、美女の扉を教えるに決まっている。ところがこの美女、実は王女のおつきの一人であり、王女に隠れてこっそり青年に色目を使っていた節がある。そう、美女は自分の愛する青年を奪おうとした憎き女でもあるのだ。もし青年が助かれば、その二人の結婚式を、王女自ら祝福しなければならない。そんな残酷なことがあろうか。
 かくして王女は決断のときを迎える。
 果たして王女が青年にこっそり合図した扉は、虎の扉なのか、それとも美女の扉なのか?


 とまあ、こんな感じである。結末はまったく明かされず、完全に読者任せという物語だ。
 管理人の粗筋紹介の技術は置いといて(笑)、こういう人を煙に巻く話が好きなら、本書は間違いなく楽しめる。実際には、ここまであからさまな設定ではない作品もあるが、とにかくモヤモヤ感にのたうち回りたい方は絶対オススメ。へたに内容を紹介するとそれだけで終わってしまうので、とにかく現物を読んでもらうしかないだろう。中高生向けというのが引っかかる人もいるだろうが、ルビが少々多めに振られているぐらいなので、それほど気にせず読めるはずだ。
 ちなみに個人的には木々高太郎「新月」が好み。もう三度目ぐらいの再読になるのだが、これまではリドル・ストーリーという視点で読んだことはなかったので、余計に楽しめたかも。事件の真相を解くはずの小説内小説が、かえって読者を混乱に陥れるというとんでもな結末である。
 また、お目当てのブッツァーティ「なにかが起こった」もその筋ではかなり有名な作品らしいが、期待に違わぬ出来である。これ、映画化されると、すごく面白くなるのではないかな。

 残念なのは、本書が絶版なこと。ネットでの古書価も意外にするが、それでも読みたい人は野口英世3人ぐらいで買えるので探してみてくだされ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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