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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

山田英生/編『書痴まんが』(ちくま文庫)

 今年最初の本買い。山田風太郎の『赤い蠟人形』、柴田錬三郎の『第八監房』アンソロジーの『桜 文豪怪談ライバルズ!』なんてところを探していると、ちくま文庫の棚に山田英生/編『書痴まんが』というのがある。本をテーマにした漫画のアンソロジーだが、そういえば昨年も同じような『ビブリオ漫画文庫』というのを読んで楽しめた記憶がある。編者も同じ人で、どうやら同じシリーズのようだ。漫画を集め出すと本当に際限がなくなってしまうので極力買わないようにはしているのだが、これは本に関する漫画なのでまあいいかと、よくわからない理由で買ってしまい、その日のうちに読んでしまう(だから漫画は危険なのだ)。

 書痴まんが

1 愛書狂
辰巳ヨシヒロ「愛書狂」
西村ツチカ「きょうのひと」
山川直人「古いほん」

2 本が選ぶ
うらたじゅん「新宿泥棒神田日記」
こうの史代「俺様!」
コマツシンヤ「屋上読書 魅惑の書店街 船の図書館」
森泉岳士「ほんのささやかな」

3 奇書と事件
水木しげる「巻物の怪」
諸星大二郎「殺人者の蔵書印」
石原はるひこ「鏡」
大橋裕之「八百屋」
黒田硫黄「男と女」

4 漫画愛
山本おさむ「雨とポプラレター」
松本正彦「劇画バカたち!! 第一話」
永島慎二「僕の手塚治虫先生」

おわりに
つげ義春「蒸発」

 収録作は以上。前作『ビブリオ漫画文庫』同様に、本というテーマはあるが内容はバラエティに富み、作者もベテランから若手まで幅広い。ただ、タイトルに「書痴」とある割には、書痴そのものを扱った作品は意外に少なく、それが少し残念。とはいえ意外にハートフルな作品が多く、読後の印象はすこぶる良い。

 個人的な好みはフローベールの同題作品を翻案した「愛書狂」、得意の妖怪ものかと思いきや予想外のオチが待っている「巻物の怪」、サスペンスが秀逸なホラー+ミステリの「殺人者の蔵書印」、ストーリーとキャラクターが魅力的で映画にしてほしいぐらいの「男と女」、文句なしに傑作の「蒸発」といったところ。
 当たり前ではあるが粒揃いの作品ばかりで、基本的には本好きに関係なく広くおすすめしたい一冊。


山田英生/編『ビブリオ漫画文庫』(ちくま文庫)

 昨日、勤め帰りに施川ユウキの『バーナード嬢曰く。』の5巻を購入し、帰りの電車で一気読みした。学校の図書館に集う本好き男女の読書アルアルをコミカルに描くギャグ漫画で相変わらずの面白さ。心にジンとくるエピソードもいいのだけれど、やはり本好きの下衆なところ、恥ずかしいところをピックアップするエピソードが堪らない。十年で五冊というスローペースだが、ぜひ末長く続けてもらいたいものである。

 久しぶりに本関係の漫画を読んだせいか、もうちょっとソレ系の漫画を読みたくなり、積ん読のなかから山田英生/編『ビブリオ漫画文庫』を引っ張り出す。中身はタイトルどおり本をネタにした漫画のアンソロジーで、これが滅法面白かった。
 ちなみに漫画を『探偵小説三昧』で取りあげるのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 ビブリオ漫画文庫

Ⅰ 古書吟遊
山川直人「古本堂主人」
松本零士「古本屋古本堂」

Ⅱ 古本奇譚
水木しげる「古道具屋の怪」
おんちみどり「古本海岸」
諸星大二郎「古本地獄屋敷」/「栞と紙魚子」より
豊田徹也「古書月の屋買取行」

Ⅲ 本をめぐる奇人たち
楳図かずお「本」
湊谷夢吉「粗骨の果」
つげ忠男「古本詠歌」

Ⅳ 本の掌篇
Q.B.B.(作・久住昌之、画・久住卓也)「古本屋台」
いしいひさいち「文豪春秋」

Ⅴ 貸本屋とその周辺
西岸良平「キンタロウ文庫」/「三丁目の夕日」より
うらたじゅん「中之島の図書館で」
辰巳ヨシヒロ「古本・とんま堂主人」

Ⅴ 恋と古本
つげ義春「古本と少女」
南日れん「舞子」
近藤ようこ「夢」
山川直人「コートと青空」
    ※
永島慎二「ある道化師の一日」

 収録作は以上。本という共通項で縛ってはいるけれど、ロマンスやギャグ、幻想、ホラー、ミステリっぽいものまでバラエティに富んだ構成である。もちろんこちらが本好きなので、かなりの補正はかかってしまうけれど、正直どれをとっても面白い作品ばかりである。
 ここまで楽しめるとあまり優劣をつけたくはないが、強いていえば「古本地獄屋敷」とか「古本屋台」とか「古本と少女」が好み。ビブリオミステリを読んでいるときにはあまり感じたことはないが、ビブリオ漫画には、古本や貸本、昭和を感じさせるノスタルジックな世界観がよく似合う。
 とりあえずは堪能。もっと早く読めばよかった。


日下三蔵/編『乱歩の幻影』(ちくま文庫)

 本日の読了本は日下三蔵/編『乱歩の幻影』。かの江戸川乱歩にまつわる短編を集めたアンソロジーで、収録作は以下のとおり。

高木彬光「小説 江戸川乱歩」
山田風太郎「伊賀の散歩者」
角田喜久雄「沼垂の女」
竹本健治「月の下の鏡のような犯罪」
中井英夫「緑青期」
蘭光生「乱歩を読みすぎた男」
服部正「龍の玉」
芦辺拓「屋根裏の乱歩者」
島田荘司「乱歩の幻影」
中島河太郎「伝記小説 江戸川乱歩」

 それぞれの作者がどのように大乱歩を料理しているのか、あまり難しくは考えずに楽しんだ。乱歩の作品をモチーフにしたもの、乱歩自身を主人公にしたもの、風太郎のように徹底的に遊んだものまでさまざま。完成度の高さから言えば表題作でもある島田荘司「乱歩の幻影」が一歩抜き出ている。雰囲気で言えば竹本健治「月の下の鏡のような犯罪」、角田喜久雄「沼垂の女」も好み。

 でも最初読むときに最も気になったのが、実は蘭光生「乱歩を読みすぎた男」。とにかくあの大ポルノ作家、蘭光生である。氏がどのような作品をものしたのか、これに注目しなくて何に注目せよと言うのか。
 とはいえ、蘭光生という名は氏の一面に過ぎない。実はワセミスの出身であり、間羊太郎名義でミステリ評論を書いていたり、式貴士名義でSFを書いていることもまた有名な事実だ。本書収録のタイトルだってウィリアム・ブルテンの有名なパロディシリーズ「○○を読みすぎた男」シリーズを踏まえている。蘭光生名義ながら、ここは意表を突いてガチガチのミステリを書いていたと読むところが、通というものであろう。
 そして一読……ポルノやん、やっぱ(笑)。

 ちなみに管理人はフリー時代に某出版社で、たまたま蘭光生氏の隣で仕事をしていたことがある。氏は缶詰状態だったはずだが、何でもあまり静かではかえって仕事がのらないらしく、わざわざ人のざわついているところで執筆していたそうだ。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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