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 中島河太郎/編『航空ミステリー傑作集 恐怖の大空』を読む。
 前にも書いたかもしれないが、以前はアンソロジーって本当に読む気が起こらなかった。実は一作家による個人短編集すら苦手だった時期がある。まったりと長編を読むのが読書、と一途に信仰していたのである。いま考えると「おまえはアホか」と自分に言いたいところだが、その後読書遍歴を重ねてきて、いまやアンソロジーをけっこう楽しんで読んでいる自分がいるから不思議だ。
 アンソロジーのよいところは、手っ取り早く一定の分野もしくはジャンルについて理解を深めることができる、いわば入門書的なところにある(まあ、その目的からして当たり前のことですが)。その副産物として、普段なら絶対読まない作家に接することができるし、すでに読んだことのある作家でも見直すきっかけになったりするわけだ。テーマで楽しむのはもちろんだが、この後者の楽しみ方がけっこう大きいのである。例えば本書ではこんな作品が収録されている。

大藪春彦「羽田上空の罠」
三好徹「スカイジャック」
福本和也「寒冷前線」
海渡英祐「偽りの再会」
赤松光夫「空賊」
酒井嘉七「呪われた航空路」
星田三平「落下傘嬢殺害事件」
斎藤栄「空を飛ぶ殺人」
岡本好古「アロウヘッド」
戸川昌子「黒い餞別」

 航空ミステリー集なのでそれらしいタイトルがずらり並ぶが、もちろん航空ミステリーがそれほど読みたかったわけではない。注目は何といっても酒井嘉七や星田三平といったところである。いずれも戦前に数えるほどしか著作を残さなかった作家で、おまけに今現在、彼らの作品を読もうとするとアンソロジーに頼るしかない。
 ただ、前述のように、こういう機会でもなければ読まない作家もいるわけである。私にとっては、この中では三好徹や福本和也、赤松光夫、斎藤栄などがそれにあたる。そもそもこの人たちが航空ミステリーを書いていたこと自体がけっこう驚きである。だいたい赤松光夫はエロティックなものを書く人ではなかったか? まあ、それをいったらこのメンバーで航空ミステリーというイメージにふさわしいのは福本和也ぐらいなのだが。

 前置きが長くなりすぎた。さて本書の感想を一言で述べると「航空ミステリー」という枠は、アンソロジーにはけっこう適したテーマといえるようで、概ね楽しく読むことができた。物語のスケールはいやがうえにも大きくなるし、パイロットや軍人などの登場人物が多くなるから、キャラクターにも個性的な者が多い。出版された時期が少し古いので(昭和五十一年刊)、航空機に関する描写も時代を感じさせるが、それはそれで楽しいところだ。
 ただ、全般的に、物語の終盤でどたばたしたまとめ方をする作品が多かったのは残念。これは初出時の文字数等の制限のせいであろうか。特に冒頭の三連発。大藪春彦「羽田上空の罠」三好徹「スカイジャック」福本和也「寒冷前線」などは、読んでいる間はけっこう緊迫感を保ついい作品なのだが、何だか妙なオチを持ってきたり、説明が不足気味だったりして、ちょっともったいない。
 私のお好みは、まず海渡英祐「偽りの再会」。当時としては珍しい飛行機のアリバイトリックを扱った点が評価されるのだろうが、私としては疑問と余韻を残すエンディングがなかなかよい。星田三平「落下傘嬢殺害事件」も悪くない。今読めば大したことのない謎解きだが、最後にひとひねり持ってくるところはさすがである。厳密にはミステリじゃないけど、岡本好古「アロウヘッド」の精神世界は読んでいてゾクゾクするものがあるし、戸川昌子「黒い餞別」はサスペンスにあふれた佳作だ。
 そして一番意外性と言う点で評価したいのが、斎藤栄「空を飛ぶ殺人」。この人こんな冒険小説色の強いものを書いていたんだと素直に感心してしまった。これがあるから、アンソロジーは止められないんだよ。うん。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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