先月末は、コロンボ役で有名なピーター・フォーク氏、特撮や香山滋研究などで知られる竹内博氏など、訃報が相次いだ。心よりご冥福をお祈りいたします。
ちょっとTwitterに乗せられすぎというか、最近、評判になる新刊が多すぎで大変危険である(苦笑)。あまり気にしていなかったのにTwitterで話題になっていたから買った本が、ここ最近でも『夜の真義を』とか『犯罪』とか『最初の刑事』とか『二流小説家』とか、もう枚挙にいとまがない。
別に仕事じゃないんだから、無理して新刊をすぐに読む必要はないわけなのだが、ついつい買ってしまうのは、まあ今買っておかないと……という強迫観念以外の何ものでもない。ま、あまり情報を仕入れすぎると自分で探す楽しみも減ってしまうし、もうちょい加減しないとなぁ。
本日の読了本はローレンス・トリートの『被害者のV』。今では警察小説の元祖として知られる、刑事ミッチ・テイラーや鑑識課のジャブ・フリーマンを主人公とするシリーズ。作品によってどちらがが主人公となるかはいろいろと変わるらしく、これは後に、マクベインが87分署シリーズで発展して使った手だ。名探偵というスーパースターによる捜査ではなく、警察という組織によるチームプレイに主眼を置き、警察の活動や警察官の生活をリアルに描くところがポイントである。
こんな話。管轄内で起きた轢き逃げ事件の現場に駆けつけた三級刑事ミッチ・テイラー。目撃者の証言によると、なぜか事故の直前に悲鳴があがったという。釈然としないミッチは目撃者の証言を軽んじる発言をしてしまい、その場を繕うために鑑識を呼ぶことにする。しかし、鑑識からやってきたジャブ・フリーマンとともに捜査を進めるうち、次第に関係者の複雑な人間関係が明らかになってきて……。

うん、これは悪くない。「警察小説の元祖」という表現だけでは、ややもすると歴史的な価値しかないと思われがちだが、いやいや警察小説としてはもう既に完成形ではないか。
主人公はどこにでもいるような普通の警察官たち。そこにはメグレやフレンチのような鋭い推理を発揮する名刑事はいない。だが、地道な証拠集めや聞き込みなど、チーム全体の働きで小さな事実を積み重ね、真相に近づいてゆく。名探偵ではないからときには間違いもするし、真実を前にして見極めがつかないこともある。事なかれ主義に陥ることもあれば、そこそこの出世もしたい。そういった警察官たちの心情なども巧みに織り交ぜつつ、最終的には組織プレイのメリットが発揮され……という結構である。三歩進んで二歩下がる。そんな試行錯誤の感じが読みどころといっていいだろう。
特に面白かったのは、鑑識捜査に関する部分である。本作が書かれたのは1945年。まだ、鑑識捜査というものが警察全体に定着していない頃で、鑑識課のジャブ・フリーマンが発見した事実の意味するところを、周囲の刑事が理解できないでいる。ここがある意味、本書の胆で、この鑑識の証拠を受けての反応ややりとりがストーリーをひっぱっていく。
いかんせん事件が小粒なのでちょっと食い足りない感じはある。とはいえ謎解きも盛り込まれているし、何よりミッチ・テイラーとジャブ・フリーマンの今後が気になる。シリーズ全作とは言わないまでも、もう少し紹介してもらってもいいのだが。