論創ミステリ叢書から『山下利三郎探偵小説選II』を読む。
昨年に読んだ第一巻のほう、『山下利三郎探偵小説選I』では主に前期の作品が採られていた。つまり乱歩が情操派と呼んだ作品の数々だが、以前の記事でも書いたとおり、正直、面白みは薄かった。時代を考えると探偵小説としてのスタイルはまずまず整っているのだが、当時の探偵小説にありがちなぶっとんだ部分が弱く、作品としての魅力には欠けていたように思う。
一方、第二巻となる本書では、山下利三郎が巻き返しを図るべく「山下平八郎」と改名した後の作品が中心。探偵小説作家として十年あまりのキャリアを積んでいるからある程度も知名度はあったはず。そこを敢えて改名に踏み切った利三郎の覚悟やいかに? 果たしてその作風などに変化はあったのか? その辺りが本書の読みどころのひとつであろう。
収録作は以下のとおり。利三郎名義の作品で前巻から漏れたものも入っているけれど、基本的には『山下平八郎探偵小説選』といってよい。
ちなみに下ではあまりの多さにタイトルを省いたけれど、本書では随筆も相当数、収録されている。結果、『山下利三郎探偵小説選I』と合わせればほぼ全集といってよい構成で、いつものことながら見事な仕事ぶりに拍手。
「横顔はたしか彼奴」
「歳末とりとめな記」
「運ちやん行状記」
「見えぬ紙片」
「野呂家の秘密」
「深夜の悲報」
「小奈祇の亡魂」
「越中どの三番勝負」

肝心の中身だが、がらっというほどではないけれど、やはり第一巻とはだいぶ異なる。
大雑把にいうと長い作品が多くなり、内容も凝ったものが増えた印象だ。まあ、これだけでは大した違いがないように思えるかもしれないが、もともと著者はアクは少ないけれど丁寧には書く作家である。単純にボリュームが増えるだけで、その持ち味がけっこう生きるようになったのではないだろうか。少なくとも第一巻のような失望感はそれほど感じなかった。
特に「横顔はたしか彼奴」「見えぬ紙片」「野呂家の秘密」あたりは悪くない。もちろん謎解きなどに成果を期待してはいけないが、「横顔はたしか彼奴」の真っ当さは評価したいし、「見えぬ紙片」などは伝奇小説的な要素も含めて個人的には好み。
とはいえ諸手を挙げてオススメする気は毛頭ないので念のため(苦笑)。あくまで探偵小説黎明期の息吹を感じたい人だけが読めば十分だろう。