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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

森英俊・野村宏平/編著『本の探偵2 戦後探偵小説資料集I 飛鳥高/大河内常平/楠田匡介/栗田信』(盛林堂ミステリアス文庫)

 先日、盛林堂さんでいくつか購入した同人系の本のなかから、本日は森英俊・野村宏平の両氏による『本の探偵2 戦後探偵小説資料集Ⅰ 飛鳥高/大河内常平/楠田匡介/栗田信』を読んでみた。といっても題名にあるとおり資料集なので、とりあえず気になったところをパラパラと斜め読みした感じである。
ちなみにもう六年も前のことになるのだが、同じ盛林堂ミステリアス文庫から『本の探偵1 偕成社ジュニア探偵小説資料集』というのが出て、本書はそのシリーズの第二弾となる。

 本の探偵2戦後探偵小説資料集I

 内容はいたってシンプル。戦後の探偵作家のなかでとりわけレアなところを見繕って、その作家の書誌データと内容、書影をできるかぎり載せた本である。取りあげられた作家は、飛鳥高/大河内常平/楠田匡介/栗田信の四名で、探偵小説マニアの琴線に響くところを見事にチョイスしてくる。
 近年、多くの戦前戦後の探偵小説が復刊されたり、新たに作品集が編まれたりしたおかげで、さすがに初見の作家はいないけれども、復刊されたとはいっても、それは全体からするとほんの一部。本書に紹介された本をみると、初めて見る小説がごろごろしている。この時代の読み物は貸本だけでしか出版されなかったものも多いし、とにかく入手難度の高さは尋常ではないので、そういう意味では研究者にとっても非常に有益な一冊だろう(これらの作家の研究者がどれだけいるのかという話もあるが)。
 もちろん管理人のようなファンにとっては単に目の毒でしかないのだが、とりあえず老後のコレクションのための手引きとして大事にとっておきたい(笑)。

森英俊、野村宏平/編著『本の探偵1 偕成社ジュニア探偵小説資料集』(盛林堂ミステリアス文庫)

 毎回、意欲的な企画でレア作品を復刻してくれている盛林堂ミステリアス文庫だが、今回の配本はなんと小説ではなく、戦後に人気を集めた少年少女向け探偵小説の資料集である。
 名付けて『偕成社ジュニア探偵小説資料集』。編著者は森英俊、野村宏平のお二方。
 これらの情報から思い出されるのが、かつて平凡社から出た『少年少女 昭和ミステリ美術館』だろう。こちらは"美術館"と銘打っているとおり、書影を見せることに主眼が置かれていたようで、その内容に十分満足はしているものの、本や絵師さんについての解説が少ないという不満があった。
 それは作り手の方々も同様だったようで、本書ではそんな心残りを解消すべく、少年少女向け探偵小説の中身もたっぷりと触れながら紹介しようという試みらしい。

 偕成社ジュニア探偵小説資料集

 さて、かくいう管理人も探偵小説の入り口は偕成社やポプラ社の少年少女向け探偵小説であった。本書に掲載されている本のなかにはリアルタイムで読んだものもいくつかあり、まずは懐かしさが先に立つ。
 そういうときに思い出されるのが、名探偵や怪人といった魅力的で怪しげな登場人物、そして破天荒なストーリーだ。ただ、さすがに年を経た今となってはそのままの楽しみ方はできない。これらの小説は面白さ優先で細かいところは無視するから、大抵の場合は突っ込みどころも満載。先に挙げた魅力とこれらの突っ込みどころが混沌としているからこそ、実は少年少女向け探偵小説は今読むと面白いのである。
 しかし、本書の「あとがき」によるとそんな混沌の中にも、後に通じる発見があったりするようで、ううむ、このジャンルも奥が深い。

 本書ではそんな魅力的な探偵小説が山のように紹介されている(しかも偕成社の分だけだというのに)。読もうと思ったら、古書か図書館に頼るしかない今、こういう形で全貌が少しずつ明らかになっていくのは実にありがたい。
 値段は少々高いが、この内容、掛けた時間や手間、少部数というところまで考えれば、これは致し方ないところだろう。あくまでマニア、好事家限定商品ではあるが、興味ある方はぜひどうぞ。

森英俊・野村宏平/編著『少年少女 昭和ミステリ美術館』(平凡社)

 買ったときにTwitterでも少しつぶやいたのが森英俊・野村宏平/編著『少年少女 昭和ミステリ美術館』。戦前から戦後にかけて書かれた少年少女向けのミステリーを、装丁という観点で振り返ろうというヴィジュアルブック。本書に収められた書影は何とオールカラーで約400点に及ぶ。
 B5判上製という造りのため、さすがに通勤に持ち歩いていくのも面倒なので、合間をぬってぼちぼち読んできた(眺めてきた)本である。

 少年少女昭和ミステリの世界

 ミステリにはまる年齢やきっかけは人それぞれだと思うのだが、やはり小学生ぐらいで読んだ子ども向けの年探偵団やホームズ、ルパンがきっかけ、という人は多いのではないだろうか。
 管理人も完全にその口で、たまたま近所に住む従兄弟が買ったポプラ社版ホームズを借りて読んだところ完全にはまり、それならってんで親にせがんで買ってもらったのがポプラ社版江戸川乱歩全集であった。ときを同じくして、また別の従兄弟はなんとポプラ社版ルパンを買ってもらい、三人ですべてを回し読んでいた記憶がある。まあ今思えばよくこんな素敵なコンボができたものだが、従兄弟同士にライバル心みたいなものがあったことは否めない。あいつがあれを買ってもらったのなら俺はこれ、みたいな感じですか(苦笑)。
 そこからあとはもう手当たり次第。買ってもらったものもいくつかあるが、別にお金持ちでも何でもないので、やはりメインは学校図書館や私立図書館だった。中学校に入るあたりでいよいよ大人向け、つまり創元推理文庫に移行していくのだが、それまでの三年ほどでジュヴナイルはかなり読んだはずだ。
 特に記憶に残っているのが、あかね書房の「少年少女世界推理文学全集」と講談社の「少年版江戸川乱歩選集」であった。前者はミステリファンの間ではけっこう定番みたいな存在になった感があるが、他の子ども向けにはあまり見られないハイソな(死語)造りに心惹かれたものだった。後者も子ども向けとは思えない造りだったが、その理由は全く異なり、生頼範義が描く函絵があまりにも怖かったことだった(これらも本書に収録されています)。

 ま、そんな昔語りを思わずしたくなるほど、本書はノスタルジーをかき立ててくれる。今では入手困難なレア本なども多く収録されているし、そちらも確かにありがたいのだが、やはり自分が最もミステリを純粋に読んで楽しんでいた頃の本というのは最高の存在なのである。このときこうして本が好きになっていなかったら、少なくとも今の仕事はやってないものなぁ。

 とうわけで管理人同様、年配のミステリファン(笑い)にはぜひともオススメしたい一冊。
 詳しい中身については、管理人なんかが語るよりも、本を編集した藤原編集室さんのHP「本棚の中の骸骨」に詳しいのでそちらをどうぞ。

 なお、ひとつだけ注文をつけるとすれば、せっかく装丁や絵を軸にして「ミステリ美術館」という縛りで作られたのだから、エッセイについては、画家やイラストレーターへの説明や言及がもっと欲しかったところだ。少年少女向けのミステリーの変遷といった流れも確かに興味深いのだが、当時の画家さんについてはまとまった画集や資料などがない人も多く、非常に気になるのである。次はぜひそんなまとめでも作ってもらえると嬉しいです>藤原編集室さん


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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