早いもので今年も大晦日。年末年始はほぼ毎年寝正月と決めてはいるが、大掃除やら買い出しやらおせちの準備やらで、意外というべきか当然というべきか、とにかく慌ただしいことこのうえない。年賀状も31日だというのにまったく手つかずであり、関係各位にはこの場を借りてお詫びいたします<(_ _)> 心当たりのあるかた、たぶん届くのは3日です。
で、さっそく恒例の極私的ベストテン発表といきたいのだが、今年は年の瀬になって大変残念なニュースが飛び込んできたので、まずそちらから。
昨日、ニュースが流れたのでご存じの方も多いと思うが、コメディアンにして日本冒険小説協会の会長、内藤陳氏が亡くなられた。個人的には全然面識はないのだが、『読まずに死ねるか!』等の書評やエッセイは実に楽しく読ませてもらい、さまざまな冒険小説、ハードボイルド小説の魅力を教えてもらった。それまで自分のミステリ的興味といえばやはり謎解きものがもっぱらだったのだけれど、そこへマクリーンやライアル、パーカーやブロック、志水辰夫、船戸与一なんてところがどどどっと入ってきて、すっかりやられてしまった。個人的にはその頃、転職をしようか迷っていた頃でもあり、そういう精神状態にもマッチしたように記憶する。こういう出会い方は大きくて、読書がそういう糧にもなり得るのだと初めて実感したときでもある。
ここ数年はガンとの闘病が続いていたようだし、波瀾万丈の人生というイメージもあったのだが、こちらのニュースによると最期の様子は穏やかだったらしい。
偉大なる冒険小説の水先案内人、内藤陳さん。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
さて、気持ちを切り替えて、2011年の極私的ベストテンに移る。
これは国内外発行年ジャンル等は一切問わず、管理人sugataがこの一年で読んだ中から勝手に面白い小説ベストテンを決めようというもの。
ちなみに過去四年は2007年/
高城高『X橋付近』(荒蝦夷)、2008年/
室生犀星『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』(ちくま文庫)、2009年/
宮野村子『宮野村子探偵小説選I』(論創社)、2010年/
トマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』(ハヤカワミステリ)というところが1位に輝いている。おお、我ながらいいじゃないか(笑)。
では今年のベストテン、発表。
1位
フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(東京創元社)2位
渡辺温『アンドロギュノスの裔』(創元推理文庫)3位
狩久『狩久探偵小説選』(論創社)4位
ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』(武田ランダムハウスジャパン)5位
デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(ハヤカワミステリ)6位
ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』(創元推理文庫)7位
D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』(創元推理文庫)8位
ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』(ハヤカワ文庫)9位
ジェフ・リンジー『デクスター 幼き者への挽歌』(ヴィレッジブックス)10位
大倉燁子『大倉燁子探偵小説選』(論創社) 冊数からいうと今年もそんなに読めているわけではなくて案の定、七十冊程度。ここ数年こんな感じだから、どうしてもある程度評判のよいものを精選して読む傾向が強くなってしまい、ベストテンを選ぶのもむちゃくちゃ苦労する羽目になってしまった。
ただ、その中にあっても1位にしようと迷ったのは『犯罪』と『アンドロギュノスの裔』の二作のみ。どちらも短編集で、収録作すべてが傑作というわけではない。しかし独特の世界観がずば抜けていて、この人たちでなければ読めない、というオリジナリティの強さである。最終的に決め手となったのは、もう一冊この著者の作品を読んでみたいという素直な気持ちであった。
3位はいくつか読んだ国産探偵小説のなかでもピカイチのケレンに敬意を表して。
4位は精緻なプロットの勝利。ミステリとはひと味違う知的興奮を味わえる。
5位は2011年の各種ベストテンを総なめにした話題作。面白くないわけがない。この人も二作目が気になる作家だ。
6位と7位は個人的鉄板。それぞれトリッキーというだけでなく、それをさらに効果的にする武器をもつ作家である。この二人はミステリに限らず何を書いても成功した気がする。
8位は今さらながらの一冊だが、いいものはいい、ということでランクイン。若いときに読むと印象も変わったんだろうなぁ(遠い目)。
9位は、それこそオリジナリティだけならダントツであろう。クライマックスがちょっと弱いのでこの位置にしたが、面白さだけならもっと上位でもいい。
10位ももっと上位でもいいんだけれど、他の作品を選んでいるうちに動かせなくなってしまった(苦笑)。論創ミステリ叢書は完結してしまったが、ぜひ第二期を期待したい。
ベストテンは以上だが、他にも
マイクル・コナリー『死角 オーバールック』、
マージェリー・アリンガム『屍衣の流行』、
レオ・ペルッツ『最後の審判の巨匠』、
デニス・レヘイン『ムーンライト・マイル』、
F・W・クロフツ『フレンチ警視最初の事件』、
連城三紀彦『変調二人羽織』あたりは読んで損なし。
また、小説以外では、筒井康隆の自伝風エッセイ式ブックガイドともいうべき
『漂流 本から本へ』が筒井ファンにも本好きにも堪えられない一冊。読めば読むほど本が読みたくなってくるという本、いやあ堪らん。
というわけで、2011年極私的ベストテンはこれにて終了。同時に『探偵小説三昧』の2011年もこれにて営業終了であります。本年はどうもありがとうございました。皆様、よいお年を。