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 ジェイムズ・ヤッフェといえば、ハヤカワミステリや創元推理文庫から出ているママ・シリーズが、海外ミステリファンには知られているところだろう。本日の読了本『不可能犯罪課の事件簿』は、ヤッフェの創造したもう一人の名探偵、ニューヨーク市警不可能犯罪課のポール・ドーンを主人公にした短編集である。

 しかし、これがただの短編集ではない。

 ヤッフェは不可能犯罪課の短篇によって、あのエラリー・クイーンのミステリ雑誌『EQMM』でデビューした。以後、数年にわたってシリーズを書き続けたのだが、驚くべきはそのデビューが若干十五歳のときであり、そこから数ヶ月に一作ずつというペースで短篇を発表していったことだ。しかも掲載時には、作品それぞれにクイーンが詳細なルーブリック(作者や作品の解説)をつけていた。
 それは単なる紹介や解説というより、この若き作家に対しての実に温かい指導であり教育といったような内容だった。ときには作品の瑕をあえて修正せずに掲載して批評したこともあるし、あるときには書き直しさせたこともあったようだ。

 本書にはヤッフェのママ・シリーズ以外の全短篇が収録されている。不可能犯罪課の全六作とノン・シリーズの二作だが、これらはデビュー以後十三年にわたって書かれたもので、すべて時系列で並べられている。
 つまり本書は、ヤッフェがデビューからどのように作家として成長していったか、その軌跡を追える短編集なのである。結果的に似たような趣向の短編集は他にもあるかもしれないが、ここまで若い作者の例はそう見当たらないし、しかもミステリファンにとってはクイーンの編集者としてのスタンスを伺いしることができるのが何よりの魅力である。

 不可能犯罪課の事件簿

D. I. C.:Department of Impossible Crimes「不可能犯罪課」
Mr. Kiroshibu's Ashes「キロシブ氏の遺骨」
The Seventh Drink「七口目の水」
Cul-De-Sac「袋小路」
The Problem of the Emperor's Mushrooms「皇帝のキノコの秘密」
The Comic Opera Murders「喜歌劇殺人事件」
On the Brink「間一髪」
One of the Family「家族の一人」

 収録作は以上。「不可能犯罪課」から「喜歌劇殺人事件」までが不可能犯罪課のポール・ドーン・シリーズで、十五歳から十八歳までに書かれたもの。お終いの二作「間一髪」「家族の一人」がノン・シリーズで、それぞれ二十五歳、二十八歳のときに書かれている。

 で、肝心の内容だが、やはり若いときに書かれた不可能犯罪課はかなり辛い。
 トリックに致命的ミスのある作品、設定に無理があって作品世界に没入できない作品。トリックはいまひとつだがプロットは光るものがあるというような解説もあるが、それはかなり好意的な見方であり、正直、プロットもそれほどとは思えない。何より当時のヤッフェがかっこいいと思っているレトリックや登場人物たちの描写が痛い。唯一の例外として、「皇帝のキノコの秘密」があり、本作だけはトリックもきれいでストーリーもうまく落としているといえるだろう。

 というわけで、いくら作家の成長を楽しめるといっても、やはりミステリとしてつまらなければ意味がない。本書を半分ぐらい読んだ時点で絶望的な気分になっていたのだが、実は後半で持ち直した。
 二十代に入って書かれたノン・シリーズになると、格段に上手くなっているのである。
 本格ミステリではなく心理サスペンスだが、ラストもキレがあるし、雰囲気作りも悪くない。それこそ十代ではダメダメだった人間の描写などはすっかりプロらしくなっている。特に「家族の一人」は最後の一行まで出来がよく、個人的にはこれを読めただけで満足である。
 ただ、コストパフォーマンスはさすがに落ちるので、必読かと聞かれれば、やはり「ノー」と答えざるをえない。ヤッフェのファン、あとはクイーンの熱烈なファンなら、といったところだろう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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