fc2ブログ

探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジェフ・ニコルスン『装飾庭園殺人事件』(扶桑社ミステリー)

 iPhoneを持ち始めてもう二年ほどになるが、このたびアンドロイドも使うことになった。ものはMEDIAS PP N-01D。Xi対応で大容量バッテリー、スーパー有機ELディスプレイ搭載、防水機能なんてところが売りだが、意外に一番気持ちいいのは「おくだけ充電」だったりする(笑)。
 まだ一日しか触っていない程度での感想だが、機能性はやはりiPhoneが一枚も二枚も上。だがネットの体感速度や重さなどはMEDIASが優れている感じだ。まあ、管理人のiPhoneは3GSなんで比較するのは無茶な気もするが。

 装飾庭園殺人事件

 読了本はジェフ・ニコルスンの『装飾庭園殺人事件』。これがまあ噂どおりの変なミステリであった。
 冒頭はまるでB級ハードボイルドのノリだ。語り手はホテル専属の探偵で、彼はある日、ホテルの一室で高名な造園家リチャード・ウィズデンが自殺しているのを発見する。一週間後、そこへ現れたのが造園家の未亡人リビー。彼女は夫が自殺したのではなく、殺されたのだと主張する。探偵は内心、自殺だと思いつつ、依頼料に目がくらんで捜査を引き受ける……。

 ここまでは実によくある展開だ。問題はここから。
 次の章で、語り手は女精神科医に交代する。今度は彼女の目を通して事件が語られるわけだが、その「彼女の目の前に現れるのがまたしても未亡人リビー。リビーは夫がその女医に診察を受けていたことから、彼女にしかわからないことがあるはずだと主張し、捜査を依頼するのである。

 この調子でリビーは次々と夫の関係者に捜査を依頼し、そのたびに語り手も変わっていくという、誠にややこしいプロットの物語が展開されていくわけである。関係者は十六人。それぞれの立場からリチャードがどういう人物だったか明かされ、その隠された面が浮き彫りになってゆく。
 ただし、この語り手たちが誰も彼も胡散臭く個性的な連中であるため、それがすべて真実であるとは思えないのが曲者。おまけに未亡人のリビーすら非常に不可解な人物に設定されており、彼女が単なる理由から捜査を依頼しているとも思えない。まあ読者を煙に巻くだけ巻いてやろうという作者の底意地の悪さがうかがえるわけだ(笑)。

 しかし、こういうミステリは嫌いではない。本格やハードボイルドのような、いってみれば様式美を求めるミステリも楽しいのだが、スタイルにとらわれず、ミステリの可能性を探るような作品もまた大歓迎である。
 いや、そもそも作者にミステリを書こうという意志があったかどうかも怪しい。ラストまで読めばわかるように、この結末では通常のミステリという意味で読者を驚かせることは難しいだろう。
 だがそういう謎解きから一歩離れて本書を読むと、人間や物事に秘められた多様性、真実のもつ意味や価値、庭園が意味するところなど、なかなか深読みしやすい材料がごろごろ転がっているわけである。ミステリ的興味だけでなく、そういった様々なアプローチこそが、本書を読む最大の楽しみなのではないかと思う次第。

 ま、騙されたと思って読んでみてください。

 ところでいつも密かに感心しているのだが、扶桑社ミステリーってのは、他社の落ち穂拾いをはじめとして、埋もれた良品を拾ってくるのが上手いなぁ。こういうところはちゃんと本を買って応援してあげたいものである。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー