山尾悠子の『ラピスラズリ』を読む。恥ずかしながら、これが初山尾悠子。
十年ほど前に『山尾悠子作品集成』が出て幻想小説方面をドッと賑わせ、それは強く印象に残っているのだが、まあこちらは幻想小説がメインストリームではないこともあって、ちょっと様子見してはや十年(笑)。
それが先頃、第二長篇の『ラピスラズリ』が文庫化されたこともあって、ようやく手を出した次第である。

とりあえず結論から書いておくと、まあ凄い小説である。
褒めたいところはいろいろあるが、まず惹かれるのはその文体か。平易なのだけれど硬質、でもねっとり絡んでくるという、個人的に最も好きなタイプ。
陳腐な表現で申し訳ないが、やはり絵画的なのである。書かれている内容自体は幻想的でときに意味を掴みかねる場合もあるのだが、言葉を重ねることでその抽象的な絵を徐々にイメージできるようになる。
何より秀逸なのはプロットだ。
物語は長篇というか連作短篇というか、すでにそのスタイル自体が読者を煙に巻く。
全五章から成り、一章「銅版」では三つの不思議な絵が紹介される。そこで描かれるキーワードは冬眠者であったり、人形であったり、単体では意味を成しにくいものばかり。
二章「閑日」、三章「寵の秋」では、その絵に描かれた世界の物語がゆるゆると流れてゆく。ここはそれなりにストレートで、徐々に冬眠者やその世界の有り様が描かれ、物語が動いていく。だが、その世界の真理、作者の意図を掴むにはまだハードルが高い。
そして四章「トピアス」、五章「青金石」。ここでは異なる軸での物語が展開される。ただ、これまでの世界と共通するシステムが開示され、それらを重ね合わせることで真理が見えてくるという結構なのである。
センスがいいだけではない。とてつもなく緻密に計算もされた小説なのだ。
正直、サクッと理解できる物語ではないけれど、ページを繰りつ戻りつしながら、できるだけ噛みしめて味わいたい。読書の愉悦、なんて言葉が心底似合う一冊である。