ううむ、ほんとに最近は夜に弱くなってしまった。寝る前の読書もそうだが、午前様まで飲んでいると、いっそうそれを痛感する。それほど飲んだわけではないのに、結局、本日の午前はつぶれて使いものにならず。昼に武蔵野うどんを食いにでかけ、ようやく復活する。
ようやくといえばスティーグ・ラーソン『ミレニアム1ドラゴン・タトゥーの女(下)』もやっと読了。
上巻では少々まどろこしかった展開も後半に入って徐々に動き出す。事件の糸口が掴め、少しずつ見えてくる事件の様相。そしてその過程において、二人の主人公、ミカエルとリスベットがついに出会うことになる。そこから先はまさに怒濤の急展開。驚愕の真相が明らかになり、さらにはミカエルとリスベットがそれぞれ抱える問題にも、ひとつの決着がつけられようとする。

うむ、面白い。エンターテインメントとして十分に魅力的だ。当時の年末ベストテンを賑わせたのも当然と思わせる作品である。
ただ、同じベストテンにランクインするような他の作品と比べ、圧倒的に差があるわけではない。むしろ気になる部分もいろいろと感じられ、世界的ベストセラーとなった理由までは正直わからん(苦笑)。
まあ思いつくままにポイントを挙げてみよう。
まずミステリとしての趣向をいろいろ盛り込んでいるところは、やはり評価されていい。
嵐の山荘パターン、見立て殺人、暗号など、ミステリ好きを惹きつける手として効果的なのはもちろんだが、これは事件を様々な角度から考えさせることになるし、ストーリー的な伏線としても巧いやり方をとっている。ただ、ひとつひとつがそれほど凝ったネタとはいえず、アッと驚くほどのトリックがないのは残念。
ミステリという部分では、むしろ一枚の写真をベースにしてそこから想像と推理を広げ、次々と手がかりを連鎖させてゆく展開に感心した。この辺りはさすがジャーナリストの面目躍如といったところか、手がかりをひとつひとつ検証しつつ駒を進めるといった趣で、知的スリルもあり、非常にワクワクさせてくれる。
そのくせハッキングでストーリーに関わる重要なネタを入手したりというのは、あまりに都合主義的でいただけない。これはミステリ要素だけでなく、小説の要素としてもかなり痛い部分だ。これがジェフリー・ディーヴァー辺りであればハッキングで得た情報をさらにひねったりするところだが、残念ながらそれはない。
リスベットというスーパーウーマンのキャラクターは非常に魅力的なのだが、あまりに特殊能力を与えすぎたのは著者の失敗だろう。これによってストーリーが安易に流れすぎている個所は意外に多い。
ミステリから離れたところでは、やはりスウェーデンが抱える社会問題を告発している部分は見逃せない。巧いなと思ったのは、経済や報道の在り方といったソーシャルな問題はミカエル、差別や薬物問題といった個人の抱える問題はリスベット、メインの事件ではまた別のテーマというように切り分け、主要な登場人物とリンクさせてテーマを掘り下げていく部分。
ただし、狙いはいいが、それほどこなれていないのが惜しい。それぞれのテーマにまつわる展開が独立しすぎており、非常にちぐはぐな印象を与えるのである。テーマ自体は上巻でけっこうしっかりと書き込まれている。それがストーリーが進むにつれ融合していくのが理想なのだが、結局のところミカエルはミカエル、リスベットはリスベットでそれぞれの問題を追求するにとどまり、互いに干渉することはない。この平行線は最後まで続くのだが、もともとそういう狙いなのか、それとも盛り込んだはいいが、まとめきれなかっただけなのか。
それが最もストーリーに悪影響を与えているのが、いわゆる後日談的ストーリー。事件が一応の解決をみたあとが長すぎるのである。余韻を味わう暇もあらばこそ、ミカエルとリスベットそれぞれのテーマに通じる内容がけっこうな分量で入ってしまい、本来の事件の意味合いが薄れてしまうのである。しかもストーリーをメールのやりとりで見せるなど、あまり意味のない演出がわずらわしい。
ううむ、なんだかケチの方が多くなってしまったが、最初に書いたようにトータルでは十分面白いので念のため。真相は驚くべきものだし、基本的なストーリー展開も面白い。キャラクター設定もテーマも悪くない。スウェーデンという馴染みの少ない国についての実情も知ることができるなど、情報小説としての価値もある。読み物としては十分な出来なのである。
ただ、それらの評価も、ミステリというよりは、やはりエンターテインメントとしてのものだという気はする。
近いうちに2も読み始める予定だが、こちらは1以上に評価が高いそうなので一応は期待しておこう。