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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

レイ・ブラッドベリ『お菓子の髑髏 ブラッドベリ初期ミステリ短編集』(ちくま文庫)

 昨晩の帰宅時の話。台風四号が絶好調で、通勤に使っている中央線は案の定ストップしている。仕方なく災害には滅法強いといわれる都営新宿線>京王線というルートを利用するが、これがまさかの強風ストップ。ううむ、震災のときですらイチ早く動いた京王線なのに。だが止まった駅が幸いにも明大前、そこからなぜか元気に動いている井の頭線で吉祥寺へ向かう。その頃には総武線のみちらほら動いているような状況だったが、三鷹までなら遅い電車を待つ必要もなし。ここからはちょいと高いがタクシーか、と思ったものの考えることはみな同じ。駅前のタクシーは長蛇の列である。そこで暴風のなかを駅から少し離れると、あっさりタクシーをゲット、ようやく帰宅できたのであった。まるでクエストをひとつクリアした気分である。


 話は変わるが、今月は偉大な二人の幻想作家が立て続けに逝去した。言うまでもなくレイ・ブラッドベリと赤江爆のお二方である。まるで何かの符合のようでもあり、二人が仕掛けた悪い冗談のようでもある。特にブラッドベリは新刊が五月、六月と二冊も出たばかりなので、ちょっとにわかには信じがたかった。ともかく心より追悼の意を表したい。

 故人を偲び、本日の読了本はブラッドベリ。ちくま文庫で出たばかりの『お菓子の髑髏 ブラッドベリ初期ミステリ短編集』である。副題にあるとおり、若き日のブラッドベリが書いた、ミステリ系の作品をまとめた短編集。時代的には40年代後半の作品が中心である。

 お菓子の髑髏

The Small Assassin「幼い刺客」
A Careful Men Dies「用心深い男の死」
It Burns Me Up !「わが怒りの炎」
Half-Pint Homicide「悪党の処理引き受けます」
Four-Way Funeral「悪党どもは地獄へ行け」
The Long Night「長い夜」
Corpse Carnival「屍体カーニバル」
Hell's Half Hour「地獄の三十分」
The Long Way Home「はるかな家路」
Wake for the Living「生ける葬儀」
I'm Not So Dumb ! 「ぼくはそれほどばかじゃない ! 」
The Trunk Lady「トランク・レディ」
Yesterday I Lived !「銀幕の女王の死」
Dead Men Rise Up Never「死者は甦らず」
The Candy Skull「お菓子の髑髏」

 収録作は以上。本書はもともと徳間文庫『悪夢のカーニバル』として出たものの改題版で、収録作はそれとまったく同じ。
 まあ、出してくれるだけでも偉いとは思うが、できれば改題版なんかではなく新しく編纂したりはできなかったのだろうか。せめてボーナストラックを入れるとか。そうすれば新しいファンだけでなく従来からのファンも楽しめるのに。ちょっともったいないなぁ。

 のっけからケチをつけたが、中身はブラッドベリの味が存分に発揮されたミステリ短編集である。とはいってもブラッドベリのことだから、普通のミステリなどほとんどない。幻想的なものから叙情的なもの、あるいはブラックな笑いに包まれたものまで、ブラッドベリの奇想がてんこ盛りである。
 若干、そのアイディアがうまく文章に昇華されていないというか、表現や言い回しがもたついているものもあるのは惜しい。それは若書きのゆえか、あるいは翻訳のせいなのかは不明だが、全体に訳文は硬くブラッドベリにはちょっと合わないイメージもある。特に子供や若者などが主人公の「長い夜」「屍体カーニバル」「ぼくはそれほどばかじゃない ! 」などはもう少し柔らかく湿気のある文体がいいのではないかと思う次第。

 個人的な好みはまず「幼い刺客」。これは昔から好きな作品で何度読んでも怖い。
 他には「用心深い男の死」「屍体カーニバル」「地獄の三十分」「ぼくはそれほどばかじゃない ! 」「お菓子の髑髏」あたり。不謹慎かもしれないが、ここまで「死」を茶化し、同時に薄ら寒い何かを感じさせるセンスはブラッドベリならでは。
 個人的には、この紙一重を楽しむことこそ、ブラッドベリを読む醍醐味なのである。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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