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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ダグラス・マッキノン『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』

 Twitterでも少しつぶやいたが、立川へ出かけて『SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁』を観てきた。BBCドラマの『SHERLOCK/シャーロック』の映画版、しかも舞台は現代ではなく、ヴィクトリア朝時代の19世紀のロンドンに移した正調ホームズ譚らしいというのでけっこう楽しみにしていたのだが、ううむ、これはいただけない。

 1895年、冬のロンドン。トーマス・リコレッティの夫人が突如、街中で発砲事件を起こし、最後には自殺を図るという事件が起こる。そして数時間後、夫の前に死んだはずのリコレッティ夫人がウェディングドレス姿で現れ、今度はトーマスを銃殺する。遺体安置所には確かに夫人の遺体があるものの、夫のトーマスが夫人を見間違えるはずもない、トーマスの前に現れたのは霊界からの使者だったのか? そして事件はこれだけでは終わらなかった……。

 SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁

 今回にかぎりヴィクトリア朝時代の設定でやるのでテレビ版を観ていない人もこの機会にぜひ、とか、あるいはテレビ版のファンのためのサービス的なものだったら、多少内容がおそまつでも気にならなかったと思うのだが、なんというか恐ろしいほど一見さんお断りな作りにちょっと引いてしまったのが正直なところだ。
 要は原作はもとより、テレビ版『SHERLOCK/シャーロック』を観ていないとまったく楽しめない内容なのである。なんせヴィクトリア朝時代を舞台にするというからてっきり正統派でくると思っていたら、現代がしっかり絡んでくるわけで、結局テレビ版のシリーズの補足をするような内容なのである。だから原作を読んでいないのはしょうがないとしても、少なくともテレビ版を観ていない人はまず話が見えないだろう。
 テレビ版のスペシャルならともかく、これをロードショーでやりますかって話なのだが、なんと本国ではやはりテレビで放映されたものらしい。それを日本ではロードショーとして公開したわけで、まあ商売熱心だこと。

 物足りなさはあるけれど、ヴィクトリア朝時代のパートはまあ悪くはない。「マスグレーヴ家の儀式」の冒頭に登場する”語られざる事件”をベースに「オレンジの種五つ」をまぶしたりホラーテイストにまとめるなど、それなりにまとめている。相変わらず事件の再現や推理部分の見せ方など、演出は素晴らしい。
 加えて役者さんも同じキャラクターを現代とヴィクトリア朝時代で微妙に演じ分けていたりしているのはさすが。

 まあ、キャラクターありきで観るならそれなりに楽しめるだろうが、見る人おいてけぼりのシナリオは辛すぎる。現代とヴィクトリア朝時代を行き来するのが悪いとはいわないが、基本的に本編一本で勝負できない内容は個人的にはご免こうむりたい。


ビリー・ワイルダー『シャーロック・ホームズの冒険』

 1970年に公開(日本は1971年)されたビリー・ワイルダー監督による映画『シャーロック・ホームズの冒険』を観る。
 もともとは四つのエピソードを盛り込んだ四時間近い超大作として撮られたが、公開にあたって二時間ほどに編集されたという曰く付きの一本。その際、エピソードも削られ、謎の美女とネス湖の怪物を中心とした話にまとめられたという。

 ストーリーは完全オリジナルである。ホームズの私生活に深く関わるため、当時未発表だったエピソードが、ワトスンの死後50年を経て公開されたという設定で、物語は幕を開ける。
 さて舞台は変わって19世紀末のロンドン。あるときホームズはロシアのバレリーナから強引な求婚を受けてしまうが、ワトスンと同性愛の関係にあるからと偽って逃れることに成功する。ワトソンは自分の名誉が汚されたと激怒するが……といったところがプロローグ。ここでホームズとワトソンの生活ぶりが楽しめるわけで、本筋はここから。
 ある日、彼らのもとに記憶喪失の女性が運び込まれる。やがて記憶を取り戻した女性ガブリエルの依頼で、ホームズは彼女の夫を探し始めるが、そんな彼らの前にホームズの兄マイクロフトが現れ、調査の中止を勧告する……。

 シャーロック・ホームズの冒険

 ロバート・スティーブンス演じるホームズの造型は悪くないが、個性が弱いか。やや冷たさに欠けるというか、それなりに雰囲気は出ているけれど物足りなさは残る。本筋とは関係ないが化粧が濃いのもちょい気になった(苦笑)。
 一方のワトソンはコリン・ブレークリーが演じており、こちらはえらくお調子者。一般に定着しているまぬけなワトソン像もどうかと思うが、こっちも微妙だ。
 それでも二人とも一応は基本に忠実にやっている感じではあるので、これはこれでありだろう。むしろ記憶喪失の女性ガブリエルが、どことなくアイリーン・アドラーを思わせる雰囲気でかなりよい。後のホームズもの映画やテレビにけっこう影響しているのではないだろうか。

 内容の方はといえば、ビリー・ワイルダーらしいコメディ色の強いものだが、ホームズ譚のポイントはきっちりと押さえているうえ、ミステリー映画としても予想以上に伏線や推理の部分が効いており、個人的には非常に楽しめた。
 謎解きのシーン、ホームズとワトソンの関係、コカインやバイオリンなどお馴染みの小道具の使い方、マイクロフト(なんとクリストファー・リーが演じている)の登場、当時の街並みや221Bの部屋の雰囲気、どれもこれもがいい感じ。目新しさはないが、どうすればファンが楽しめるかがわかっている。
 おすすめ。


『SHERLOCK(シャーロック) VOL.3/大いなるゲーム』

 『SHERLOCK(シャーロック)』の第2シーズンが放映されるということで、見逃していた第1シーズンの「ピンク色の研究」「死を呼ぶ暗号」をDVDでせっせと消化していたのだが、ついでなので『SHERLOCK(シャーロック)VOL.3/大いなるゲーム』の感想もアップしておくことにする。
 といっても、これだけは昨年の放映時になんとか録画で観ることができて、実は感想もそのときアップしている。ただ、ファーストインプレッションの衝撃が強かったせいか、シリーズ全般の話に終始しているので、ちょっと作品自体のことも残しておこうと思った次第。まあ、そんな大層なもんじゃなくて、自分用のメモみたいなものなんだけど。

 シャーロックの元へ兄マイクロフトからの依頼があった。国家機密に関わる担当者が、線路上で死体となって発見されたのだ。その担当者はミサイル防衛システムの設計図を入れたフラッシュメモリーを持っていたはずだが、そのフラッシュメモリーが見つからないのだという。しかしシャーロックはまったく気のないそぶりを見せるばかり。
 同じころ、アパートの爆破事件がシャーロックたちの家のすぐ目の前で発生する。そして現場にはシャーロック宛ての携帯電話が……。そこに残されたメッセージと画像が示していたのは、5つの爆破殺人の予告と謎解きの挑戦だった。シャーロックはわずかなヒントをもとに、爆弾を仕掛けられた人質を救出しなければならない。謎の爆弾魔との大いなるゲームが幕を開けた。

 SHERLOCK(シャーロック) VOL.3/大いなるゲーム

 爆弾魔からの挑戦ひとつひとつがそれだけで十分楽しめるエピソードになっており、さらにそれらの事件をつなぐ興味もあるわけで。いってみれば連作短編集の趣。しかも、うっちゃられたはずのミサイル防衛システムの設計図の事件についても、結局は終盤に絡んでくるという構成は、予想どおりとはいえ見事なお手並み。
 若干、詰め込みすぎのきらいがあったり、ゴーレムのエピソードとか正直ピンとこないネタもあったのだけれど、第1シーズンのなかでは、本作がもっとも推理するということを前面に押し出しており、二回目の視聴にもかかわらず非常に楽しめた。
 ちなみに設計図をもった男が線路で死体となって発見されるというのは、「ブルースパティントン設計書」ですな。

 ラストはもう強烈の一言。ホームズ以上にどんな役者がモリアーティを演じるのか興味があったのだが、このアンドリュー・スコットという役者さんは抜群の存在感だ。演技力も豊かだし、エキセントリックなモリアーティというまたひと味違ったイメージを打ち出したのには感心した。
 そしてトドメのクリフハンガー。ここまでロコツな引っ張りは久しぶりに味わったが、まあ、これだけやってくれると逆に潔いともいえる(苦笑)。

 個人的には第1シーズンでもっとも楽しめた作品。たまたま管理人はこれを最初に観たわけだが、ある意味、それがよかったのかもしれない。第2シーズンの感想は、またいずれ。


『SHERLOCK(シャーロック) VOL.2/死を呼ぶ暗号』

 本日よりNHK-BSで『SHERLOCK(シャーロック)』の第2シーズンが始まるので、その前に未見の『SHERLOCK(シャーロック) VOL.2/死を呼ぶ暗号』をDVDで視聴する。

 銀行の6階フロアにある一室に何ものかが侵入し、壁に黄色いペンキでメッセージと見られる落書きを残していった。調査を始めたホームズとワトソンはまもなく事件に関係したと見られる行員の死体を発見するが、さらに、あるジャーナリストが同様のメッセージを見た後に殺される事件が発生。共通点は密室状態での殺害、そして黄色の文字のメッセージだった……。

 SHERLOCK(シャーロック) VOL.2/死を呼ぶ暗号

 二作目も十分に堪能。連続殺人を結びつける暗号の謎で前半をひっぱり、後半は真相を探るホームズとワトソンの前に立ちふさがる中国系の秘密結社という寸法だ。
 ホームズ譚で暗号といえば「踊る人形」が有名だが、あとは「グロリア・スコット号事件」あたりか。秘密結社の方だと「オレンジの種五つ」や「恐怖の谷」あたりが元ネタだろうか。
 ただ本作に限っては、謎解きよりもアクションやサスペンスがメインのような印象。暗号も正直いまひとつで、これならそのものズバリで「踊る人形」を出してくれた方がよかった。ラストもワトソンの方が目立っていたような。

 ワトソンといえば、本作ではワトソンの恋愛も見ものである。いや、正確にいうとワトソンの恋愛によって浮かび上がるホームズとワトソンの関係といった方がよいだろう(笑)。二人の関係の微妙さをちくちく炙り出しているようなところも窺えて、いやはやスタッフもいろいろ考えるわ(笑)。

 とりあえず「VOL.3「大いなるゲーム」は先に観ているので、これでシーズン2への準備は万端。さあ、今晩はスコッチでも横に置いてゆっくりと楽しまねば。あ、でもホームズってウィスキーはあまり飲まないんだっけ?


『SHERLOCK(シャーロック) VOL.1/ピンク色の研究』

 先日届いたばかりのDVD『SHERLOCK(シャーロック)』からVOL.1「ピンク色の研究」を視聴。
 なんせ昨年NHK-BSの放送時では、きっちりVOL.1とVOL.2を見逃しているので、今回のDVD発売が決まったときから楽しみにしていた作品。基本、テレビドラマはごく一部を除いてミステリ系すらほとんど観ないのだが、こればかりは別格である。VOL.3「大いなるゲーム」で初めてこのシリーズに触れたときには、推理という行為をここまでスタイリッシュにヴィジュアル化したことに感動すらすら覚えたほどで、アッという間にファンになってしまった。

 SHERLOCK(シャーロック)VOL1/ピンク色の研究

 で、VOL.1「ピンク色の研究」。タイトルは言うまでもなく原典『緋色の研究』のもじりだが、話はまったく別物。ロンドンで起こる不可解な連続自殺事件をめぐり、ホームズが活躍する。レストレード警部は助力を求めるものの、周囲はホームズの変人ぶりに引き気味。
 一方、アフガン帰りの医師、ジョン・ワトソンは、家賃節約のために知人からルームシェアの相手を紹介されるが……。

 他者による連続自殺事件ということがそもそも可能なのか、ミステリドラマとしての胆はそこに絞られる。まあ、蓋を開けてみれば驚くほどのネタではないけれど、やはり演出が上手く、テンポもいいので、一気に引き込まれる。上でも少し書いたが、本来ならセリフでダラダラ説明するしかない「推理するという行為」を、さまざまな工夫でここまで魅力的に見せてくれるところが最大の見どころといえる。

 また、第一作ということで、ホームズとワトソンの出会いがあり、さらにはハドソン夫人やレストレード警部、マイクロフトがひととおり顔を揃えているところも楽しい趣向だし、ラストではある有名人の名もしっかり登場し、シリーズ全体の流れも示唆してくれる。加えて、ここかしこにマニア向けのネタを忍ばせているのも楽しい。
 昔からのホームズファン、初めて本作でホームズに触れるファン、どちらも楽しめる良質のミステリドラマ。お進めです。


ガイ・リッチー『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』

 本日、『探偵小説三昧』が40万アクセスを達成いたしました。加えてすっかり忘れておりましたが、今月18日でブログをスタートして五年が過ぎたのでありました。ちなみに日記自体を書き始めてからは十年ということで、こんなに長く続けられるとは当時夢にも思いませんでした。これもひとえにご来訪いただいている皆様方のおかげと、心より御礼申し上げます。今後とも『探偵小説三昧』をご贔屓のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。



 本日はワーナー・マイカル・シネマズむさし村山で、公開されたばかりの『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』を鑑賞。監督は前作同様、ガイ・リッチー。
 本作では前作のラストで少しだけ顔を見せたホームズ生涯のライバル、モリアーティ教授が全面的に登場する。ヨーロッパの政情を混乱させ、莫大な利益を上げようとしているモリアーティに対し、ホームズは新婚旅行に出かけたはずのワトソン医師を巻き込み、さらには兄のマイクロフト、ジプシー一味とも協力して、モリアーティの野望を阻止しようとする、というお話。

 シャーロック・ホームス#12441; シャト#12441;ウケ#12441;ーム

 まあ、聖典からはかなり遠いところにきたロバート・ダウニー・Jr版ホームズだが(笑)、いやほんと、これはこれで十分に楽しい。
 正直、謎解きという要素はもうほとんど皆無に近くて、魅力のほとんどはキャラクターやアクション頼み。それでも前半のバタバタと思っていたシーンが実はけっこう伏線だったりして、それをラストで一気に回収するところなどはなかなか見事であった。

 ただ、あれだ。製作者がどの程度意識しているのかわからないが、ホームズとワトソンの関係がまあ、何ともBL的で(笑)。特にワトソンの男っぽさ、活躍ぶりは前作以上で、ホームズの危機を救うことも一度ならず。そりゃホームズもたまらんだろうなぁ。とはいえ、それをツンデレで返すところがいかにもホームズではある(笑)。

 聖典ありき、という人はしんどいだろうが、エンターテインメントとしては十分合格点。今後も楽しみなシリーズになってきたかな。


『SHERLOCK(シャーロック)/大いなるゲーム』

 NHK-BSの『SHERLOCK(シャーロック)』を観る。といっても、1話、2話をすっかり見逃しているので、かろうじて録画しておいた3話「大いなるゲーム」からという始末。

 とりあえず出来映えの方は満足できるレベル、っていうか、噂どおりかなり面白いわ、これ。
 シャーロック・ホームズ譚の世界観やキャラクター設定を現代にアレンジし、そこかしこに原作のエッセンスを盛り込んで見せる。シナリオはオリジナルだが、推理の要素をきちんと前面に押し出した物語なので、ミステリファンも納得。
 原作を読み込んでいれば楽しさもさらに倍、ってところか。

 何よりいいのは、ビジュアル面。
 単にファッショナブル、クールというのであれば、これまでのミステリ映画やドラマでもあったが、本作ではそれらに加えて「推理するという行為」を非常にスタイリッシュに見せてくれる。映像を重ねたり、コマ送りやクローズアップ、さまざまな手法を用い、「推理する行為」をここまで演出して盛り上げることができるというのが素晴らしい。映画『シャーロック・ホームズ』でも独特の見せ方をしていたが、それをさらに進化させた感じ。

 ラストシーンひとつとっても、制作者たちの意欲が伝わってくるようで、とにかく要注目のシリーズになりそう。
 見逃した分はNHKオンデマンドでも視聴できるようだが、ううむ、面倒だからDVD出ないかね、早く。


ガイ・リッチー『シャーロック・ホームズ』

 第一回翻訳ミステリー大賞贈呈式&コンベンションが無事に終了したようで。ちなみに大賞はドン・ウィンズロウの『犬の力』。順当と言えば順当だが、絶対注目作の『ミレニアム』を退けての受賞はやはり興味深い。この結果は一応、今後の大賞の方向性を決定づけるはずだが、さて来年はどうなるか。
 ちなみにノミネートから作品を絞っていく形も悪くはないんだが、サプライズという意味ではどうしても落ちる。いきなり発表ではだめなのかしら。
 ま、そんなことより来年は何とか参加してみたいもんだなぁ。


 テレビニュースでも被害状況を報道していたが、昨日の突風はいったい何だったのか。夜中に風で目が覚めるなんて台風でもそうそうないぞ。
 朝、おそるおそる外へ出てみたら、玄関脇に置いてあったポリバケツや庭用具がその辺に転がってるし、自転車は倒れてるし。何より一番ビックリしたのは3mぐらいある植木が倒れていたこと。しかも門の金具にビニールの紐で固定していたというのに。ま、場所によっては電柱も倒れたらしいから、これぐらいで済んでよかったのか。


 ガイ・リッチー監督による『シャーロック・ホームズ』を観にいってきた。気になるキャストはホームズにロバート・ダウニーJr.、ワトスンにジュード・ロウという布陣。
 制作者サイドは、これが忠実なホームズ映画なんて言っているけど、そういうのは宣伝文句だから話半分に聞いておく方が吉。ロバート・ダウニーJr.を起用した時点で、原典に忠実なホームズ映画を作る気がないのは百も承知。そもそもグラナダホームズがある以上、シリアスに作ってこれを越えるのは並大抵のことではない。彼らにできるのはシャーロキアンの顰蹙を買いつつも、どこまで自分たちのホームズ物語を提案し、面白い映画にしてくれるか、である。ま、想像ですけど(笑)。

 シャーロック・ホームズ

 さて実際に観た感想だが、これがけっこう楽しめてしまった。

 あちらこちらで書かれているとおり、ま、欠点はいろいろある。
 その最たるものは事件のトリックが、非常に地味というかちゃちいこと。
 百歩譲ってトリックがちゃちいのは許すとしても、ラストでせっかく謎解きシーンがあるのに、全然ロジカルでないからミステリとしての醍醐味はほぼ皆無。最悪、トリックはしょぼくてもいいから、ラストで何らかのサプライズは欲しかった。

 また、やはりホームズのキャラがあまりに違いすぎるのは気になる。冷徹なホームズのイメージが、何ともセクシーで愛嬌あるアンちゃんになってしまったのは、気になる人は気になるだろう。ただ、これに関しては、それを承知で観にいっているわけだから、個人的には実は文句がない。
 嫌だったのはそのセクシーなホームズ像をワトスンとのBL的演出に絡めてしまったこと。アイリーン・アドラーとの恋愛は全然いいけれど、さすがにこっちの路線は余計だ。そういう興味で観る人がいるのはかまわないが、作り手がそれを意識すると下品なだけである。
 ちょっと話はそれるが、いわゆる「バカミス」も作者が意識して書くバカミスは、本来、バカミスの定義から外れると思うし、あまり好きな風潮ではない。

 とまあ、欠点だけでけっこう長々と書いてしまったが、それでもこの映画は嫌いではない。
 最低限の設定というか世界観を守りつつ、そのなかで上質のエンターテインメントを目指していることはわかる。英国の冒険ものの流れをちゃんと受け継いでおり、アクションありユーモアありでバランスがいい。例えていうと007が近いか。舞台こそ19世紀末のロンドンだが、その時代を巧みに用いて近未来アクション映画を作っているイメージ。

 演出も悪くない。特にホームズが観察&推理したうえで、それを実行するという見せ方は気に入った。あれをアクションだけではなく、普通の推理シーンでやってくれればもっと良かったのだが。難しそうだけど。
 キャラクターもいいぞ。ダウニーだってホームズだと思わなければ、非常に魅力的だし、堅物ワトスンとの対比もいい。ちなみにキャストで一番はまっていると思ったのが、このワトスン。
 レイチェル・マクアダムスのアドラーは小悪魔的イメージが強く出過ぎていて、もう少し大人びた感じの方がイメージではないだろうか。ケリー・ライリーのメアリーはどんぴしゃ。レストレード警部はもう少し細身の感じじゃないかな。ま、この辺は個人的なイメージなのであまり真面目に受け止めないでくだされ。
 あと、衣装やロンドンの町並みの再現も○。

 結局、ホームズの映画化という部分さえ気にしなければ(それが一番大事じゃんという話もあるけれど)、これはこれであり。上で007と書いたけれど、こういうテイストってけっこうあるよね。『ルパン3世』とか『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか。
 つまり成功するエンターテインメントの必要条件を、この映画もまたある程度はなぞっているということ。過大な期待をかけない、シャーロキアンは粗探しをしない、この二点を守っていただければ、普通に楽しめる映画である。
 最近のヒーローもの映画におなじみの、「ラストでとりあえず次作への伏線」もしっかりあるので、興行成績がよければパート2ももちろん作るはず。この伏線だったら、次作こそぜひ観てみたいものだが。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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