嫁さんが友人と寄席にいくというので、こちらは所沢の古書市へ。
今回はミステリ特集コーナーがあって、探す手間がかなり省けるのが助かった。とはいえそれは誰しも同じ条件なので、当然ながら掘り出し物など残っているはずもない。ジェームズ・ハーバートの『鼠』とかリチャード・カーチスの『スクワーム』など、文字どおりのゲテモノを購入してお茶を濁す。
シャーロット・アームストロングの『疑われざる者』読了。
簡単にいうと、恋人を殺された青年フランシスの復讐譚。憎むべき男グランディスンは財産目的で二人の娘を養育しながら、邸宅で暮らしている。そこへ片方の娘マティルダが事故で行方不明ときき、フランシスは証拠集めのため、彼女の婚約者と称して一家のもとへ潜入を果たす。だが、死んだと思っていたマティルダが生きて戻ってきたことから、フランシスに危険が迫る……。
サスペンスの女王と称される著者ならではの凝った設定がみそ。冒頭でネタばらしがすんでいるので、基本的にはフランシス対グランディスンの対決が軸となる。ここにグランディスンの擁護なくしては生きられないマティルダの自立や恋愛などが絡み、物語に膨らみを与えているわけである。だが、このマティルダが曲者。
実は一見すると物語の主人公はフランシスだが、著者の視線は常にマティルダに向けられており、後半はすっかりマティルダが主人公に取って代わってしまうのだ。それにあわせて本書の印象も、恋人を殺された男の復讐譚から、女性の自立物語に変わってしまい、とにかくこのアンバランスさが気になった。それなら素直に初めからマティルダを主人公にして、フランシスの正体を明かさなかった方が、よりミステリアスでサスペンスも盛り上がったように思うのだが。傑作と評されることの多い本書だが、個人的にはいまいち。