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 洋泉社から刊行されたばかりの『横溝正史 全小説案内』を購入。
 なんせ「全小説案内」である。こちらもつい相当な期待でもって書店に向かったのだが……ううん、これはかなり微妙だ。

 横溝正史全小説案内

 まず内容を紹介しておこう。
 本書はタイトルどおり、横溝正史の全小説を網羅した一冊である。シリーズキャラクターやジャンル等で作品を大きく九つにカテゴライズし、それぞれのカテゴリーの代表作紹介および書誌でまとめている。
 この他、巻頭グラビアによるカバーアートや雑誌掲載時の装画の紹介。そして最大の売りと思われる「中絶・単行本未収録作品」の収録。
 目次はこんな感じである。

横溝正史キャラクターズ
カバーアートの世界
横溝正史の挿画世界
二松学舎大学の横溝研究
横溝正史その生涯
【第1章】金田一耕助の世界
【第2章】由利麟太郎の世界
【第3章】人形佐七捕物帳の世界
【第4章】捕物帳の世界
【第5章】時代・伝奇小説の世界
【第6章】耽美小説の世界
【第7章】短編小説の世界
【第8章】中・長編小説の世界
【第9章】少年小説の世界
作品再録「黒い蝶」「夜光蟲」「石膏魔」

 こうして見ていると、相当充実しているように思われるかもしれない。もちろんこれまで単行本未収録の「黒い蝶」「夜光蟲」「石膏魔」の掲載は素晴らしいのだけれど、何というか、その他の記事はいろいろと残念なところが多い。

 そもそも本書がどういう読者に向けて、何を作ろうとしたのか、ということだろう。
 というのも本書の内容はそのほとんどが書誌なのである。つまり横溝正史全小説のデータベース。上で書いたように作品をカテゴライズして表でまとめ、初出等のデータを記載している本なのだ。
 まあ、それだけでも資料性としてはすこぶる高いし、ありがたといえばありがたい。ただ、どう考えてもこれはマニア相手の代物であり、果たしてこれを「小説の案内」といっていいものかどうか。

 個人的に考える「小説の案内」は書誌データではなく、あくまで粗筋や解説を含む作品紹介である。これから横溝正史を読み込みたいとか、できれば金田一耕助以外にもいろいろ読みたいとか、「全小説案内」と謳うからには、そういう人に向けた、全小説についての解説本とすべきなのではないか。まあ、いくつかの有名作品については1〜2ページの作品紹介はあるのだが、この手の資料をほしがるのは相当マニアックな方々だろうし、いまさら『本陣殺人事件』や『犬神家の一族』の紹介でもないだろう。
 数が数だから、1作品1ページとは言わない。100字200字でもいいのだ。ただし書名にもあるように、それを全作品やってほしい。それがあるとないとでは、本としての価値や楽しさがまったく異なる。制作スタッフは、「案内」にしたがって横溝本を読もう、という人のことなど考もしなかったのか?

 では、書名の件は脇において、マニア向けデータベース本として見た場合はどうか。実はそこでもいくつか気になる点がある。
 ひとつは、データベースとしての物足りなさである。全作品を網羅した資料が初出データだけというのはあまりに寂しい。商品としての書誌データなら、書影や粗筋、解説、収録されている書名ぐらいは掲載するべきだろう。
 ふたつめは短編データの並び方。他のデータではすべて発表年代順なのだが、なぜか短編だけはあいうえお順なのである。これに関しては正直、理由が思い浮かばない。単にミス?
 みっつめ。この手の本において索引は必須だろうけど、それも無し。不親切この上ない。

 繰り返しになるけれど、やはり作り手が誰に読ませたいのか見えていないのが問題なのだ。マニア相手のデータベースでも、入門者向けガイドブックでも、全方位対応の最強横溝本でもいいんだけれど、それが固まっていないから企画が詰め切れず、本全体のバランスが中途半端になってしまっている。
 「全小説案内」を作りたいんなら細かいことは考えず、それこそ徹底的に全小説の書影、書誌、粗筋、解説文、掲載本(品切れ絶版はもちろん可)をすべて収録して、おまけにエッセイの類も全部加えて、最強ガイドブックにすればいい。だったら個人的には一万円でも買うんだけどなぁ。

 とまあ、ここまで書いておいてなんだが、本書を買う人は結局、「黒い蝶」、「夜光蟲」「石膏魔」目当てなんだろうけど(苦笑)。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌



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