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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

岸川靖+映画秘宝編集部/編『怖いテレビ』(洋泉社MOOK)

 オリンピックが東京に決まったようで。どうせテレビで見るからどこでやろうと一緒なんだが、ン兆円といわれる経済効果には期待したい。うちの会社にもよき影響が出ればよいけれど、果たして経済効果連鎖はどの辺りまで降りてくるのか(苦笑)。


 一時期、ぼちぼちと買っていた映画秘宝の別冊だが、また面白そうなものが出ていたので買ってみる。岸川靖+映画秘宝編集部/編『怖いテレビ』。

 怖いテレビ

 表紙や題名だけ見ていると何やら怪談の実録ものみたいだが、さにあらず。本書はホラーやミステリー、SFを題材にしたテレビドラマを紹介した一冊で、『トワイライト・ゾーン』をはじめとして『世にも不思議な物語』、『ロアルド・ダール劇場』といった誰もが知る名作から、『ウォーキング・デッド』などの話題の作品まで網羅する。また、この手の本ではあまり紹介されない日本のドラマまで珍しく載っているのがポイントアップである。

 その中であえてナンバーワン記事を選ぶとすれば、『事件記者コルチャック』を挙げたい。管理人もガキの頃にTVで数本観ており、これは海外版の『ウルトラQ』だと虜になったものだが、いかんせん深夜の放送だったので全作観ることはかなわず、悔しい思いをしたものであった。その中途半端な記憶が本書でかなり埋められ、なかなか便利。メインの記事はドラマの全作紹介だが、主演声優の大塚周夫氏のインタビューなどもまとめられているのが嬉しい。
 ジョニー・デップ主演で映画化が進んでいるとか、その原作がハヤカワ文庫で発売されたりとか、日本での注目度も急上昇しているので、これはそろそろDVD-BOXを購入するタイミングなのかもしれない>結局それか(笑)。

 野暮を承知で書くとすれば、別冊映画秘宝は相変わらずデザインやレイアウトがしょぼい。格好悪いとかダサイぐらいなら個人的な好みで片付く問題だが、普通に読みにくいのだから困ってしまう。文字の大きさや行間のバランスが悪く、なぜ、それを改善しようとしないのか不思議で仕方ないぐらいのレベルなのだ(本書はそれでもまだいい方だが)。
 マニアックな本ではあるが、コンビニあたりで売っても興味を惹きやすそうな内容だけに、もっと一般読者にアピールするような、そんな本作りを目指してもらいたいものである。もったいないぞ。


岸川靖+STUDIO28/編著『世界怪獣映画入門!』(洋泉社MOOK)

 別冊映画秘宝からまたまた気になる一冊が出ていたので購入&読了。ものは『世界怪獣映画入門!』。タイトルどおり、古今東西の怪獣映画についていろいろなアプローチで解説を試みた本である。
 怪獣映画そのものがマイナージャンルではあるけれど、それでもゴジラ映画の関連本などは意外に多い。ところが、こと海外の怪獣映画を解説した本となると、これはさすがに珍しい。

 世界怪獣映画入門

 目玉は一応、先日亡くなったばかりのレイ・ハリーハウゼンへの蔵出しインタビュー。あとはこの夏に公開される期待の特撮映画『パシフィック・リム』の紹介。他にもイタリアやイギリスなどの怪獣映画事情、その他もろもろ盛りだくさん。
 資料性はそれほど高くないが、そもそも入門書という位置づけなので気になるレベルではない。まあ、怪獣映画のコラムをドカッとまとめて読めること自体がそうそうないので、普通に楽しめる。マニアはともかく、管理人的にはほどよい感じの一冊でありました。


岸川靖/編『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』(洋泉社)

 『ミステリマガジン』の「2013年度版ミステリが読みたい!」特集や『東西ミステリーベスト100』、『横溝正史 全小説案内』あたりを立て続けに読んだせいか、ガイドブック熱が高まってしまい、ついつい映画関係のガイドブックをいくつかまとめ買いしてしまう。
 『映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター』、『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』、『映画秘宝EX 映画の必修科目03 異次元SF映画100』、『ミステリ映画の大海の中で』の以上四冊。まあ、最後のは評論集であり、ガイドブックといっては失礼になるけれど。

 以前にも書いたかもしれないが、管理人は自分でも仕事でそういうものを作ってきたこともあって、基本的にガイドブックの類が好きである。ミステリにしても、中高生の頃はガイドブックを頼りに読み散らかしてきたし、それ以外にも文学や映画はもちろん、歴史に宗教、自然科学などなど。たとえ興味がない分野であっても、ガイドブックなら読みたいという人間である(苦笑)。

 ところでガイドブックもつまりは入門書の一種であると思うのだが、普通の入門書と決定的に違うのは、書かれている内容がすべてではないということだろう。
 私見だが、ガイドブックはその記述内容に加え、コンセプトがしっかりしているか、構成は工夫されているか、図版が効果的に用いられているか、デザインや写真などビジュアル的に美しいか、読みやすさは考慮されているか、といったトータル性能が重要である。
 初めてその世界に触れる読者に魅力をアピールし、何よりその世界のリピーターになってもらえるような工夫が必要なのである。マニア向けの企画が盛り込まれているに越したことはないが、そればかりでは作り手の自己満足に過ぎず、ガイドブックの役目を考えると本末転倒であろう。

 シャーロック・ホームズ映像読本

 さて、管理人はそんな観点でガイドブックの感想を書いているのだが、本日は先日買ったなかから『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』を取りあげてみたい。
 ホームズのガイドブックはそれこそ山ほど出ているが、なかにはパスティーシュのガイド本『シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ』というものまで出ていぐらい切り口も多様化している。そんな中、本書は映画やテレビ化されたホームズという括りで勝負してきた。他のガイドブックでもコーナー的に取りあげられることは多いが、これだけで一冊というのはありそうでなかった企画。
 この一点だけでもポイントは高いが、肝心の中身も悪くない。

 構成は大きく2章立て。第1章が「21世紀のホームズ」、第2章が「20世紀のホームズ」と題されており、それぞれの時代の代表的な作品を紹介していくというもの(正直、そういう線引きの意味はあまりないと思うのだが)。
 特に力が入っているのが、昨年日本でも放映されて大注目を浴びた『SHERLOCK (シャーロック)』、そしてド定番のグラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』だが、他にはロバート・ダウニーJr.の『シャーロック・ホームズ』や今、海の向こうで人気を博しつつある『Elementary(エレメントリー)』、古いところではベイジル・ラスボーン版ホームズ、ハマー版『バスカヴィル家の犬』、ロシア版ホームズなどにページが割かれている。
 作品紹介以外では「和製ホームズ・岸田森」といった企画もの、「ホームズ映像作品リスト 映画&TV」といったデータベースも押さえている。

 ひとつひとつの特集や記事については力の入ったものも多く、特に『SHERLOCK (シャーロック)』はインタビュー関係が充実しており、ファンには嬉しいところだろう。対してグラナダ版は各話の紹介がメインで、こちらは新規さには乏しいが、こういう形にまとまられている便利さはある。
 ただ、ここは好みの問題になるかと思うが、『SHERLOCK (シャーロック)』とグラナダ版に相当数のページを割きすぎている嫌いはある。まあ、人気を考えればそれも当然ではあるが、やはり情報が入手しにくい古い作品はもう少しフォローしてもよかっただろう。特にロナルド・ハワード版ホームズは今では全作が安く買えることもあるので、こちらもグラナダ版同様、いや、その半分、いやいや三分の一でもいいから、全話の紹介記事がほしかった。
 そもそもあらためてホーズの映像化リストを見ると、こんなにあったのかという驚きしか出てこないわけで、これらを入手しようとか詳細を知りたいという欲求は当然でてくるはず。『横溝正史 全小説案内』の感想でも書いたが、無味乾燥なリストを載せて「はい、おしまい」というスタンスはいかがなものか。

 もうひとつ気になったのは誌面デザインで、正直、まったく垢抜けていない(苦笑)。これは「映画秘宝」全般に言えることなので、もしかするとこういう路線を狙っている可能性もあるのだが、ううむ、個人的にはこれはないなぁ。まあ好みもあるのだが、紙質も含めてもう少しオシャレにならんものか。
 また、写真が多い本なので、巻頭だけでなく、総ページのオールカラー化は考えてもよかったんじゃないだろうか。こちらは予算との相談なので、なかなか難しい注文だろうけれど。

 まあ、気になるところはかようにあるが、情報量自体は多くて読み応えもあり、手元にあると便利な本であることは確か。すべてのミステリファンへ、という縛りでは苦しいかも知れないが、ホームズファンなら十分に楽しめる一冊だろう。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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