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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

北原尚彦『シャーロック・ホームズ語辞典』(誠文堂新光社)

 北原尚彦の『シャーロック・ホームズ語辞典』を読む。シャーロック・ホームズの原作に登場する主要なキャラクターを中心にまとめたホームズ辞典である。頭からガッツリと読むような本でもないので、とりあえず全体を斜め読み、気になったところを拾い読みという感じでサラッと目を通してみた。

 シャーロック・ホームズ語辞典

 ホームズの関連本は多く、本書のような辞典タイプのものだって珍しくはないのだが、本作ならではの特徴というと、原作以外のテレビドラマとかマンガなど対象を広くとり、しかもできるだけ最近のものまでフォローしたところだろう。あと、大量のイラストを「えのころ工房」さんが担当していて、こちらはクスッと笑えるような1コマ漫画のテイストが楽しめる。
 というわけで全体の印象として浅く広く、ハードルは低め。辞典という形は一見マニアックではあるものの、その根底に流れているのはファンブックに近いものがあるだろう。原作をひと通り読んで、これからホームズ世界をもう少し深く楽しみたいという人や、あるいは最近のドラマやアニメで興味が湧き、これから原作も読んでみようかという人にオススメの一冊といえる。

 実は管理人もかつてこういう本をいくつか作っていたことがあるので(ミステリではなくゲーム関係だが)よくわかるのだが、こういうタイプの本は、作っている側が一番、楽しかったりする。
 逆にいうと、当人たちがどこまで楽しめるか、それが出来栄えに大きく影響するわけだ。とんとん相撲や双六など、付録もいろいろ工夫された本書は、そういう意味で十分作り手が楽しんでおり、結果、読者も楽しめる一冊になったといえるだろう。


北原尚彦『シャーロック・ホームズ 秘宝の研究』(宝島SUGOI文庫)

 北原尚彦の『シャーロック・ホームズ 秘宝の研究』を読む。熱烈なシャーロキアンとして知られる北原氏がこれまで集めてきたシャーロック・ホームズ関係の映画・ドラマ・翻案小説・コミックスなどのコレクションを紹介する本。
 まあ、それ以上でもそれ以下でもないのだけれど、ホームズファンはもちろん単なるミステリファンであっても十分に楽しい一冊だろう。

 シャーロック・ホームズ秘宝の研究

 管理人はミステリマニアだとは自覚しているが、決してシャーロキアンではない。それでもホームズという存在は別格であり、その映画やコミックなどがあるとやはり気になるわけで、ホームズ本がたびたび出版されるのも、そうしたミステリマニアの奥底に響くものがあるからだろう。
 個人的には映像系の話が興味深く 、特にソ連系ホームズのネタはなかなか。反対にカンバーバッチの『SHERLOCK(シャーロック)』はいい加減食傷気味で、人気にあやかりたい気持ちはわかるが、他にもっと紹介すべきものはあると思うけどね。

 ところで、こういう本が出るとたびたびマニアの自己満足本みたいな書かれ方をすることもあるのだが、その道のマニアの成果がこうした形で一般に還元されるというのは非常にいいことである。ともすれば本当に所有者個人で楽しんで終わりという美術品などもあるわけで、どんなジャンルにせよ、やはりそれぞれの方面の研究を進めるうえで、こうした発表はどんどんやったほうがよい。
 惜しむらくはせっかくこれだけのモノを集めているのだから、もう少し巻末資料などでデータベースとしての機能を加えてほしかったところだ。


北原尚彦/監修『別冊宝島1965 シャーロック・ホームズ完全解読』(宝島社)

 昨日紹介した『別冊宝島1957 増補改訂版 刑事コロンボ完全捜査記録』といっしょに買った本をもう一冊。こちらも同じく「別冊宝島」のシリーズで、『別冊宝島1965 シャーロック・ホームズ完全解読』。これまでの「別冊宝島」のミステリ系ガイド本と同様に、聖典のホームズ譚全六十作を解説した作りである。
 BBCのテレビドラマ『SHERLOCK(シャーロック) 』のヒットが少なからず影響しているのではあろうが、いいかげんホームズ関係も食傷気味ではある(苦笑)。これとは別に『SHERLOCK(シャーロック) 』の翻訳物のガイド本『シャーロック・ケースブック』も出ているが、こちらは何となくデザインがそそらないのでスルー。ぬるいファンで申し訳ない(笑)。

 別冊宝島1965 シャーロック・ホームズ完全解読

 さて『別冊宝島1965 シャーロック・ホームズ完全解読』だが、こちらは聖典のガイドブックとしてはなかなか良書である。
 ホームズの評論やガイドブックは聖典のみならず映像関係に焦点を当てたものや贋作を紹介したものまで山ほど出ているが、こちらはイラストを交えて全作をわかりやすく解説したもの。この全作というのがミソで、これが今までありそうでなかったのだ。犯行現場の図や蘊蓄、初出などのスペックも入れているし、こういう形で見られるのはなかなか便利。シャーロキアンの方々には物足りない内容だろうが、「何かテレビや映画も面白かったし原作も読んでみようか」という人には間違いなくおすすめ。
 正直、これだけで元はとれると思うが、ほかにもドイルやベーカー街、登場人物や映像や贋作、書影などをさらっとコラムレベルでご紹介。最近のホームズ本の例にもれず『SHERLOCK(シャーロック) 』に相当なページをあてているのはうんざりだが、まあこれは売ることを考えたら仕方ないか。

 個人的にやってほしかった企画としては、原作のエピソードがどの映画やテレビに使われているかという検証。逆はよくあるんだよね、このホームズ映画にはこれこれのネタが使われているとか。本書にもそういう記事はある。ただし、この作品がどの映画どのドラマで使われたかという逆引きはあまり見当たらない。何のため、とは聞かないように(笑)。単なる個人的な興味の問題である。
 あと、不満な点としては、これも「別冊宝島」でちょくちょく見られるのだが、意味のない捨てカット。正直ページの埋め草としか思えないイラストの使い方はどうかと思う。しかもレベル的にもやや厳しい。イラスト自体に大きな意味がある記事が多い本で、この使い方はないよなぁ。

 ま、そんな欠点もありながらトータルでは満足。パラパラ眺めているだけでも楽しい一冊である。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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