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 論創ミステリ叢書から『水谷準探偵小説選』を読む。町医者"瓢庵"を主人公にした捕物帖のシリーズからセレクトした傑作選である。
 なんだ捕物帖か、などと言うなかれ。瓢庵捕物帖は本格探偵小説としても成立するだけの内容をもったシリーズであり、食わず嫌いをするにはちょっともったいない。

 そもそも捕物帖といってもその内容は意外に幅広い。痛快な娯楽ものから人間ドラマを描いた人情もの、あるいは江戸そのものの姿を描こうとするものまで実にさまざま。そして、そのひとつに本格探偵小説としての捕物帖があり、瓢庵捕物帖は正にそれに該当する。
 解説で当時の作家(水谷準、横溝正史、野村胡堂、城昌幸ら)による捕物帖座談会の様子が紹介されているが、そこで水谷準は自ら本格探偵小説としてシリーズを書いていることを認めているし、そればかりか一堂で探偵小説の経験がない時代物系の作家の捕物帖は面白くないとまでぶちあげている(笑)。
 ことほどさように探偵作家は捕物帖を探偵小説の一種として捉えているわけで、一般の認識とは一線を画しているのが興味深い。

 さて、そこで水谷準の瓢庵捕物帖。まずは収録作から。

「稲荷騒動」
「銀杏屋敷」
「女難剣難」
「暗魔天狗」
「巻物談議」
「般若の面」
「地獄の迎ひ」
「ぼら・かんのん」
「へんてこ長屋」
「幻の射手」
「瓢庵逐電す」
「桃の湯事件」
「麒麟火事」
「岩魚の生霊」
「青皿の河童」
「按摩屋敷」
「墓石くずし」
「丹塗りの箱」
「雪折れ忠臣蔵」
「藤棚の女」
「初雪富士」
「にゃんこん騒動」
「月下の婚礼」
「死神かんざし」

 水谷準探偵小説選

 瓢庵捕物帖の最大の特徴はもちろん本格探偵小説としての骨格を備えていることなのだが、とりわけ意識したのがチェスタトンのブラウン神父シリーズだという。
 水谷準は探偵小説に必要なものとして、謎解き興味はもちろんだが、それに加えてユーモアだと考えていた。それは単なるギャグとかではなく、社会批判や文明批判の精神を取り入れたもので、そのお手本にしたのがチェスタトンだったようだ。
 得てしてユーモアは独りよがりになりがちで、作者が匙加減を間違えると読むのが辛くなってくるものだが、本作は江戸という設定がオブラートとして効いているため、多少の誇張された表現などがむしろ心地よい。
 文明批判などと難しく考えなくとも、飄々とした瓢庵先生と香六や豆太郎といったレギュラーメンバーとのやりとりも普通に楽しめる。

 もうひとつの大きな特徴は、なんと横溝正史の人形佐七を借用していることである。
 瓢庵が町医者という立場だから、それとは別に刑事役が必要だったとか、ブラウン神父の主要登場人物の設定を借用したとか、これまた説はいろいろあるようなのだが、わざわざ他の作者の探偵を借りる理由にはなっていない。
 詳細は不明だが、ただ読者にしてみれば、佐七の起用は楽しい試みである。瓢庵が探偵役のときもあれば佐七がメインを務めるときもあるなど、横溝正史に失礼のないようバランスを考えている節もうかがえる。それが内容の変化にもつながっていて結果としては悪くない。

 全体的にみるとムラの小さい非常に安定した短編集で、予想以上に楽しく読める。既刊の瓢庵もの四冊の短篇集から佐七が登場するものすべて、短編集未収録の二篇、出来の良い物を集めた傑作選なので、まあ、これでつまらなかったら、それはそれで困るが(苦笑)。
 捕物帖にありがちなキャラクターありきというだけでなく、謎の提示があり、それをきちんとロジカルに落とし込んでいく。しかも河童や幽霊、麒麟といった物の怪の謎を多く扱っているのもいい。これも現代物でやりすぎると馬鹿馬鹿しくなるところだが、捕物帖であればすんなり成立するのが便利。
 ときとして推理が閃きに頼りすぎたり、新鮮なトリックや仕掛けがあるわけではないという弱さもあるが、各種要素が意外なほどバランスよくまとまっていて、読み物としては十分なレベルだろう。論創ミステリ叢書のなかではおすすめの一冊。



 ちくま文庫の短編集に続いて水谷準を読む。ものは春陽文庫の『殺人狂想曲』。
 収録作は「殺人狂想曲」「闇に呼ぶ声」「瀕死の白鳥」の三作だが、ちくま文庫との恐ろしいほどの作風の違いに愕然としてしまった。犯罪心理やロマンティックな幻想小説とはほど遠く、どれもバリバリの通俗サスペンス。その場その場が面白ければそれでよしという感じで、強引なストーリー展開にはとにかく恐れ入った。あの『新青年』の名編集長として活躍した水谷準が、こういうものも書いていたのだという新鮮な感動(笑)。探偵小説好きなら、だまされたと思って一度は読んでおきたい。以下、各作品の感想。

 「殺人狂想曲」はファントマものを翻案したものらしいが、これが珍品。ファントマを飜倒馬などと充てるのはまだよいとしても(いや、よくはないんだけど)、話を盛り上げるだけ盛り上げて、作者がひとまずペンをおくことにするとかいって、本当に途中で止めちゃうのである。いいのか、これで? ぜんっぜん話が終わってないんだけど。
 「闇に呼ぶ声」もすごい。結婚の約束をした恋人を待たせ、主人公は東京に出稼ぎに出るのだが、途中で悪人に有り金を奪われたばかりか、頭を負傷して記憶喪失になる。世をはかなんだ主人公は、たまたま別の悪漢に助けられ、命じられるままに殺し屋として生きてゆく。果てはその悪漢に代わって組織のボスとなったり、世の中への復讐を思い立ったり……という大河ピカレスクロマンなのだが、作者は途中経過を思い切りすぎるぐらい思い切って省略し、強烈なエピソードで話をつないでゆく。しかも100ページあまりでこれをまとめてしまう力業。そしてこちらもラストは強烈。
 「瀕死の白鳥」も一気呵成の怒濤の展開で、先を読むことはほぼ不可能。でも物語としては本書のなかで一番まとまっている。ただし、「殺人狂想曲」「闇に呼ぶ声」を読んだ後ではややインパクトに欠ける。


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 土曜に福島~草津旅行より帰宅。途中で軽井沢によって、あの古書店をひやかすも大した出物はなし。期待していたのになあ。日曜は一日中、運転疲れでぐったり。

 休み明けの月曜はまだ旅行の疲れがとれておらず、少々体も重い。だが気合いの5時起きで京都日帰り出張に出発。往きの車中では爆睡するも、帰りはなんとか水谷準の短編集を読み終える。日下三蔵編集による『怪奇探偵小説名作選3 水谷準集 お・それ・みを』である。

 本書は大きく二部で構成されている。第一部は戦前の作品から採られた怪奇幻想趣味にあふれる探偵小説が中心。そして第二部は戦後の作品で、著者の興味は犯罪者や被害者の心理を描くことに移っていく。

第一部
「好敵手」
「孤児」
「蝋燭」
「崖の上」
「月光の部屋」
「恋人を喰べる話」
「街の抱擁」
「お・それ・みを」
「空で唄う男の話」
「追いかけられた男の話」
「七つの閨」
「夢男」
「蜘蛛」
「酒壜の中の手記」
「手」
「胡桃園の青白き番人」
「司馬家崩壊」
「屋根裏の亡霊」

第二部
「R夫人の横顔」
「カナカナ姫」
「金箔師」
「窓は敲かれず」
「今宵一夜を」
「東方のヴィーナス」
「ある決闘」
「悪魔の誕生」
「魔女マレーザ」
「まがまがしい心」

 なるほど、戦後の作品も悪くはないが、やはり著者の本領は、幻想的でロマンティックな探偵小説にあるというのを実感。アンソロジーでの定番ともいえる「好敵手」「恋人を喰べる話」「お・それ・みを」「空で唄う男の話」などがやはり印象に残るが、「街の抱擁」もなかなかおしゃれな都市伝説風の話で気に入った。戦後の作品では「まがまがしい心」のラストがぶっとんでいて要注目である。
 なお、水谷準はこのほかユーモア作家という面も併せ持っているが、そちらの作風のものはほとんど収録されていないのがちょっと残念。まあ、本書はなんせ「怪奇探偵小説名作選」であるのでこれは致し方ないところか。


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