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 エルモア・レナードが日本で広く知られるようになったのは『グリッツ』からだ。当時は新しいタイプの犯罪小説の書き手として紹介されることが多かったと記憶するが、けっこう下積みは長かったようで、レナードが作家として大成功するのは、結局デビューから二十年以上が過ぎてからのことである。しかし、その実力が認められてからは順風満帆、八十年代には『グリッツ』や『プロント』をはじめとする傑作を次々とものにし、最後は巨匠とまで呼ばれるようになったのだから大したものだ。
 今月号のミステリマガジンでは、そんなレナードの追悼特集が組まれていた。そう、レナードはこの八月に亡くなったばかりなのだ。
 ご多分に漏れず、管理人がレナードを初めて読んだの、『グリッツ』からである。一時期はけっこうはまった作家だったが、最近はすっかりご無沙汰。未読の作品もずいぶん多くなってしまって、こんな機会でもないと読まないというのはちょっとアレな感じだが、まあ読まないよりはましだろうと、『ママ、大変、うちにコヨーテがいるよ!』に手を出してみた。

 こんな話。主人公はハリウッドの丘に住む若きコヨーテ、アントワン。自由な生活をこよなく 愛し、群れのボスも期待されているリーダー格のコヨーテだが、あるときひょんなことから人間に飼われているシェパードのバディと知り合いになる。するとバディがアントワンに、互いの立場を入れ替えてみないかと相談を持ちかけてきて……。

 ママ、大変、うちにコヨーテがいるよ!

 エルモア・レナードが孫のために書いたという動物小説である。形としてはYA(ヤングアダルト)向けということになろうが、さすがレナードが書いただけのことはあって、むしろ大人のためのファンタジーという雰囲気を醸し出している。
 まあ、ミステリ作家が動物を主人公にして書いた小説というのは今どき珍しくもないわけだが、これがことハードボイルドや犯罪小説の作家に限ると、さすがにレアではなかろうか。いま管理人が思い出せるのはマイケル・Z・リューインの『のら犬ローヴァー町を行く』ぐらいだ。

 たまたまだろうが『のら犬ローヴァー町を行く』と『ママ、大変、うちにコヨーテがいるよ!』の二作は、けっこう表面的なテーマが似ている。
 主人公はともに野生の犬orコヨーテである。彼らは安定した日々を送れているわけではないが、自然を謳歌し、自由を愛する。人間に依存する生活などプライドが許さないし、考えたこともない。それが単なる自然礼賛といったテーマではなく、人間の社会を投影させたものであることは簡単に想像できるだろう。

 面白いのはこの両者、テーマが似ているとはいえ、そのアプローチはけっこう異なる。例えばリューインは義侠心溢れる主人公を設定し、あくまでシリアスに語ってゆく。正にハードボイルドそのままの味で、主人公ローヴァーはあくまで卑しい町をゆく騎士なのである。
 一方のレナードの描いた物語は、彼が普段から描いていた犯罪小説の世界を、そのままコヨーテと犬の世界に置き換えたようなイメージ。主人公は騎士などではなく、あくまで小悪党。才覚と好奇心の働くままに行動し、なめた口をきいては周囲を苛立たせる。その騒動をコミカル&シニカルに描いていく。もちろんYA向けなので多少はソフトに抑えられてはいるが、レナードの語りは健在である。

 ここで最初の話に戻るのだけれど、おそらく本書の本当のテーマは自然礼賛でも、実は格差社会の批判でもないと思っている。
 コヨーテと飼い犬たちは互いを敵視しているところからスタートし、やがて相手を理解し、敬うこともできるようになる。だが、最終的に彼らの間には越えられない最後の一線があり、やがて各々は元の生活に戻ってゆく。どちらがいいとか悪いとかではなく、それぞれの生き方を尊重し合うことの大切さである。
 ややもすると人は互いの生き方や考え、趣味、文化、宗教を否定するところから関係をスタートしたりもするのだが、その馬鹿らしさや愚かさをレナードは笑っているのである。
 とりわけクライマックスを過ぎてから後のエピソードが絶品で、アントワンとバディがある場所で語り合うシーンは深い余韻を残す。

 とまあ固っくるしく書いてはみたけれど、実はそんなことを考えながら読む必要はまったくない。そもそもが楽しいお話なのであり、読んでいれば自然に笑えるし、自然に心に染みてくる一冊なのである。素直に読んで全然OK。おすすめ。


テーマ:児童文学 - ジャンル:本・雑誌



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