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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2023年版』(宝島社)

 年末の風物詩、各誌のベストテンランキングも『このミステリーがすごい!2023年版』で打ち止めか。ただ、買ってはいたがネットで結果がチラチラ出てくるので、なんだか読んだ気になってしまい、ようやく目を通してみる。

 このミステリーがすごい!2023年版

 海外編のランキングについては想像していたとおり、やはり『ミステリマガジン』の「ミステリーが読みたい!」、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」とも似通っており、1位、2位は三誌とも同じである。ベスト5も非常に似ている。
 まあ、1位に関しては『われら闇より天を見る』がくるだろうとは思っていたが、相変わらずホロヴィッツが強いのには驚きだ。『殺しへのライン』も別に悪い作品ではないが、今年はいい作品が多いから、せいぜいベスト10にギリギリ入るくらい、でもホロヴィッツは固定ファンがプッシュするから6位あたりには入るかなと予想していたら、まさかの2位である。今年はオリジナリティの高いものが多かったし、そちらをこそ評価してあげたいものだがなあ。みなさん、ちょっとカササギのインパクトを引きずりすぎではないか。
 個人的には『捜索者』『異常』の低さが非常に残念。どちらもベスト1候補だと思ったのになあ。

 内容については相変わらずで、「私のベスト6」と「我が社の隠し球」が情報として役に立つけれど、他は特に新味はない。ただ、今年は西村京太郎のプチ追悼特集がちょっと面白かった。ボリュームがないのが惜しいが、担当編集者の座談会はいい企画だ。ただ、追悼特集をやるなら、他の作家にももっと着目してほしい。

 あと、いつも気になるのだが、表紙と巻頭インタビューの不思議。今年は荒木飛呂彦氏へのインタビューなのだが、氏にまったく罪はないし、むしろ氏の漫画は好きだけれど、このミスで取り上げる意味がよくわからない。ベストテンとはなんの関係もないのに、192ページのうち20ページほど占めるというのはすごいバランスだよなあ。 ミステリを盛り上げようという気持ちでこの本を作っているなら、ミステリで稼がせてもらうのなら、せめて一位の作家に関連する表紙にするとか、巻頭インタビューは一位の作家にするとか、もう少しミステリに対する敬意を持ってほしいものだ。それこそ荒木飛呂彦氏を起用するなら、1位作品のイメージで表紙を描いてもらうとか、荒木氏もミステリ好きなのだから、やりようはいくらでもあるのにねえ。

 昨年は少しフォローすることも書いたのだけれど、今年は結局、文句ばかりになってしまった。頼むからもっと頑張れ、編集者。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2022年版』(宝島社)

 『このミステリーがすごい!2022年版』が出ていたので買って帰る。昨日は「ミステリーベスト10」が発表された『週刊文春』も出ており、先日の『ミステリマガジン』と合わせて、早くも三つのベストテンが出揃ってしまった。

 このミステリーがすごい!2022年版

 パラパラと中身を見たが、まあ、いつもどおりではある。「私のベスト6」と「我が社の隠し球」は情報として参考になるが、いわゆる企画記事はないに等しい。もちろん作家さんのインタビュー等はあるけれど、そういうのは企画とは言わない。そもそも一位を獲得した作家へのインタビューはいいとして、なぜそれを差し置いて、畑違いの人のインタビューを巻頭に載せるかな。ベストテンで商売するなら1位の作家には敬意を払うべきだし、これはさすがに失礼だろう。
 唯一、企画らしい企画もないではない。それが「館ミステリー座談会」なんだけど、これも出席する若手作家に罪はないが、如何せんネタの振り幅が狭くて、もう少しバラエティに富んだ人選でないと話が広がらない。それをサポートする記事もあるにはあるが、2ページほどなので駆け足の作品紹介で終わっていて物足りない。
 今の形はどう見ても、最初から毎年の台割が決まっていて、それに沿って記事をもらってくるだけのように思える。ともかく編集者は、まずその年のテーマなりコンセプトをしっかり固めた方が良い。前年やその年の作品傾向をしっかり分析して、旬のテーマを決める。それさえ決まれば、あとはどう形にするか考えるだけだろうに。

 ただ、少しだけ彼らの立場で考えると、非常に手間がかかる本であることは想像に難くない。なんせ、作家や評論家、書評家、出版社、関係団体……やりとりや確認する相手が多すぎる。これは確かに面倒だ。おそらく締め切りとか守らない輩も多いだろう(苦笑)。
 おそらく省力化しにくいタイプの本であり、基本的に力技で乗り切らなければならない作業が多いのだろう。それでいて(ここは偉いところだが)、価格はかなり抑えている。当の編集者にしてみれば、「これ以上、企画を考えるとか、勘弁してくれ」というのが正直なところなのだろう。
 ただし、そうは言っても無策のままでは困るわけで、ここは値段を上げてでもいいから、少し人や企画、増ページにお金を使った方がいいのではないか。

 肝心のランキングについては、ほか二つのランキングと大きな差はなく、これも例年どおりで面白くない要素の一つだろう。今年は『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」で、とうとう異なる1位が出て少しホッとしたけれど、それでもツートップは同じだからなぁ。むしろ各ランキングの特徴は十位以降から顕著であり、この辺りは後日また。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2021年版』(宝島社)

 昨日の記事でミステリの年末ベストテンについてグダグダ描いてみたけれど、本日は大トリである、このミスこと『このミステリーがすごい!2021年版』が発売されていたので、さっそく買ってみた。

このミステリーがすごい!2021年版

 ランキングについては、嫌な予感が見事に的中して、『その裁きは死』が怒涛の三連覇。文春ベスト10の権威主義的なところが嫌だと言って新たなベストテンを提唱したこのミスだが、この結果をどう見ているのかな。下位は多少の個性も見られるが、そんなものは当たり前で、上位で差別化しないでどうする。

 それでもランキングは一応、投票の結果だから仕方ない面はあるけれど(本当は仕方なくないのだけれど)、企画記事がほぼないという構成はさすがにどうなんだろう。
 唯一の企画が『名探偵コナン』なのだけれど、そんなものをわざわざ年イチのミステリランキング本でやるかね。ぶっちゃけコナンのファン層に頼っているだけではないか。ミステリ小説のランキング本なのだから、少しはランキングに入った作家に誌面を割いたらどうか。ミステリ愛すら欠如しているようで、このミスもいよいよその役目を終えようとしているのかもしれない。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2020年版』(宝島社)

 今週は仕事が何かと忙しなく、ようやく『このミステリーがすごい!2020年版』をパラパラと。

 このミステリーがすごい!2020年版

 今ではなんだかんだ言われることも増えた『このミス』だが、ミステリのランキング本では一応、真打。たんに最後に出るだけという話もあるが(苦笑)、それでも信頼性がほかのランキングより多少なりとも高い気がするのは、やはりその出自(文春ミステリーベスト10のアンチテーゼとして誕生)、そして中立性の高さゆえだろう(公平を期すために自社の本は対象外としている)。

 とはいえ、かつて『このミス』の売りだった座談会をはじめとする企画ページがほぼない現状は、さすがに物足りない。アンソニー・ホロヴィッツの寄稿や皆川博子×辻真先の対談は悪くないが、これらはランキング紹介の延長みたいなもので、決して“企画”というレベルじゃないしなぁ。
 表紙を飾った白石麻衣のインタビューも、白石麻衣自身に罪はないけれど、この本の読者にどれだけ響いていることやら。

 ランキングについては、もう正直どのベストテンを見てもそこまでの差はない。なんせ今年の1位は「ミステリが読みたい」も「文春ミステリーベスト10」も同じ結果、アンソニー・ホロヴィッツの『メインテーマは殺人』である。しかも二年連続ホロヴィッツの三冠なので、ここは意地でも『このミス』なりの尖ったところを見せてほしかったかな。それだけ作品が良かったということでもあるので、仕方ない部分もあるのだけれど。
 それでもニクラス・ナット・オ・ダーグ『1793』、ハーラン・エリスン『愛なんてセックスの書き間違い』、マイケル・オンダーチェ『戦火の淡き光』あたりがベスト20に入っているところは『このミス』の特徴が出ているのかもしれない。

 まあ、そのうち恒例のランキング比較もやってみたいので、そこでより特徴が見えてくるかも。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2019年版』(宝島社)

 『このミステリーがすごい!2019年版』にざっと目を通す。例によって管理人は国産の現代物をほとんど読まないので海外中心ではありますが。

 このミステリーがすごい!2019年版

 ランキング結果は案の定『カササギ殺人事件』がトップで、これはもう鉄板だと思っていたが、二位の『そしてミランダを殺す』には正直ちょっと驚いてしまった。確か文春、早川の各ベストテンでも二位だったはずで、今年はワンツーフィニッシュをすべてこの二作で独占という結果なのだ。
 しかしカササギはともかく、ミランダってそこまで凄かったかな。面白くは読めたが、まさかそこまで評価されるとは。ちなみにこの二作とも創元推理文庫ということで、創元は昨年からベストテン争いがなかなか好調ですな。

 ランキング以外に目をやると今年は30周年記念企画ということで、歴代一位作品を集めてそれでベストテンを行う「キング・オブ・キングス」、歴代ベストテンをまとめた小冊子をつけているのが目を惹く。まあ新しいファンには便利なのだろうが、すべてリアルタイムで買って持っている身としてはそこまでのものではない。というか、ネットで見ることができるものなぁ。
 というわけで今年も楽しく読めるのは「我が社の隠し球」と投票者たちのコメント「My BEST 6」ぐらいか。特に隠し球の方では、国書刊行会から刊行予定の『評伝モーリス・ルブラン』が個人的に期待大である。ルブランはルパンものも含めてけっこう読み残しが多いので、このタイミングで読破する手もあるなぁ。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2018年版』(宝島社)

 今年も早いもので、もう年末の各種ミステリベストテンがほぼほぼ発表されたようだ。
 だいたいいつもは講談社の『IN★POCKET』が「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で先陣を切り、続いて『ミステリマガジン』の「ミステリが読みたい!」、『2018本格ミステリ・ベスト10』、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」あたりが雪崩れ込んできて、ラストを『このミステリーがすごい!』が締めるという感じだろう。
 このなかで個人的にチェックしているのは、「ミステリが読みたい!」、「ミステリーベスト10」、『このミステリーがすごい!』ぐらいか。
 講談社の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」は露骨な自社本推しに嫌気がさして読むのを止め、『2018本格ミステリ・ベスト10』はジャンルの狭さが好みではないこともあって読んでいない。

 このミステリーがすごい!2018年版

 で、昨日は『このミステリーがすごい!2018年版』をようやく買ってパラパラと眺めていたのだが、まず目を惹いたのは30周年記念企画として「誕生号」を丸ごと巻頭に収録していること。今読むと実にコンパクトなものだが、『週刊文春』の「ミステリーベスト10」しかなかった当時としては、これでも十分なインパクトと情報量だった。一時期は内容的にも先鋭化したものだったが、最近では他ランキングとそれほど差別化もできておらず、マンネリ化は避けられないようだ。
 本書の「誕生号を丸ごと収録」にしても、インパクトは多少はあれども企画としては安易この上ないし、そのほか力の入っているのは作家らによる座談会や対談ばかりで、まあ、これは内容としては面白く読めたのだけれど(綾辻×宮部とか、新人作家7人とか)、企画や独自性というほどのものでもない。編集部も集計やら原稿収集の手間やらでけっこう大変だとは思うが、もう少し頑張ってもらいたいものだ。

 肝心のランキングにも少し触れておくと(例によって本ブログでは海外編のみ)、 どうやら今年は『フロスト始末』と『13・67』の一騎打ちの様相を見せており、ここに『湖畔荘』と『東の果て、夜へ』がどこまで絡むかといったところが基本的構図のようだ。
 ということで、このミスの結果も先行したランキング本とそれほど変わらない結果で面白みは少ない。ライバルであるべき『週刊文春』の「ミステリーベスト10」とはベストテンのうち六作がかぶるのはまあ仕方ないにしても、上位四作の顔ぶれがまったく同じなのはいかがなものか。昨年もこういう状況に少し文句を垂れたのだけれど、このままではほんと意味ないよなぁ。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2017年版』(宝島社)

 宝島社の『このミステリがすごい!2017年版』にようやく目を通す。昨年の記事で、各誌ランキングの同一化を憂えてみたりしたのだが、今年もそれほどの差はないようだ。トップグループは似たような顔ぶれで、下位グループに多少は個性が出ているような感じか。

 このミステリーがすごい!2017年版

 作り自体はいつものとおりで、基本的にはあっさり目。まあ、「このミス」もけっこう長く続いているから、今さら簡単に面白い企画が出るとも思えないが、それでも今年は「海外短編ミステリーベストテン」をやってくれているし、国産作家のエッセイ「私と海外ミステリー」があるので、まずまず楽しめる。
 本当は初心に帰ってもっと尖った内容にしてほしい気持ちはあるのだが、そのあたりはこの際ガマンするから、せめて普通にランキングそのものや紹介原稿のクオリティをあげてくれればいいのかなとも思う。
 ちなみにランキングのクオリティをあげるというと変な話に思えるが、これは要するに回答者を他誌と差別化し、独自性を強めてほしいということ。そもそもそういう成り立ちの本なのだから。

 本日、体調不良のため今日はこの辺で。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)

 週刊文春、ミステリマガジンのベストテンに続いて、『このミステリーがすごい!2016年版』を購入。例によって海外編のみ目を通すと、1位の『スキン・コレクター』をはじめとして、案の定ほとんどの作品がかぶっており、昨年あたりから顕著になってきたランキングの同一化はますます進んでいるような印象だ。

 このミステリーがすごい!2016年版

 しかし印象だけではなんなので、今回は各ランキングの20位までを見比べてみることにした。ついでに平均順位も。データの正確性をできるだけ高めるために、このミスでしか発表していない20位以下は割愛。あくまで20以内にランクインしている作品のみ対象にしている。また、ランキングによって対象となる刊行時期が異なるため(ミステリマガジンのみ1ケ月早いのである)、1つしかランクインしていないものは省き、2つのランキングにランクインしているもののみ取り上げている。

2016年ランキング

 で、その結果がこちら。
 ミステリマガジンでは刊行時期の対象になっていない『悲しみのイレーヌ』と『スキンコレクター』が1位を分け合っている。ミステリマガジンのみ『ありふれた祈り』なのだが、この上位二作品がミステリマガジンでも対象になっていれば、ランキングはますます似たような結果になったことだろう。
 下位ランクになれば多少のばらつきはあるが、まあベストテンあたりまでは本当にそっくりで、この傾向はここ数年で一気に加速した感があり、これではわざわざ三つもランキングを発表する意味がない。少なくとも以前は、このミスと文春に関してはきっちりと違いがあって比較するのも面白かった。そもそもこのミス誕生のきっかけが、文春ランキングに対する批判精神から出たことを思うと寂しいかぎりだ。
 昨年も書いたが、原因はやはり情報の共有化が進みすぎていること、また、これは調べてみないとわからないが、ランキングの投票者がかなりかぶっているのではないかということも考えられる。
 まあ、所詮遊びなんだけれど、遊びだからこそ真剣にやってほしい。

 あと、今年だけの問題でもないのだが、ミステリマガジンの対象期間だけはなんとかしてほしい。
 そもそもどれも2016年版と謳っているのだから、本来は2015年中に刊行された作品が対象になっていなければならない。しかし商売上、他社よりも早く出したいのだろう。文春とこのミスは10月末までが対象で、これだって11月12月の作品は来年度にこぼれるというのに、ミステリマガジンに至っては9月末で締めている。おかげで他のランキングではワンツーフィニッシュの圧倒的二作品がミステリマガジンでは欠片も触れられていないという始末。
 版元も暮れにかけて目玉作品を出すところは多いと思うのだが、それがせっかくのランキングに載らないのはもったいない話で、なんのためのランキングなのかよくわからなくなってくる。来年度版に載るからいいじゃないか、なんてのは単なる言い訳にすぎず、2016年版というなら2016年に出た作品でやってくれよというシンプルな話である。読者にとっては迷惑でしかない。

 『このミステリーがすごい!2016年版』に話を戻すと、こちらもいっこうに士気が上がらない。ここ数年の劣化は目に余るものがあり、企画ものはほとんどなし。作家と出版社の隠し球ぐらいしか読むところがない。
 ランキング載せてよしとするならネットや雑誌でいいものなぁ。なんでこんなにしょぼくなったのかなぁ。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2015年版』(宝島社)

 年末恒例ベストテンもこれで打ち止め、『このミステリーがすごい!2015年版』を読む。

 このミステリーがすごい!2015年版

 つい先日の『週刊文春』2014年12月11日号「ミステリーベスト10」の記事で、『このミス』までトップ3が一緒になったら嫌だな、なんて話を書いたのだが、これがまあ見事に予感的中。順位までしっかり同じで、思わず腰から砕けてしまった(笑)。
 すなわち一位『その女アレックス』、二位『秘密』、三位『ゴーストマン 時限紙幣』である。

 その作品がダントツに面白いというのであれば、まあ一位独占はあるかもしれないし、それが『その女アレックス』でも全然かまわないのだが、三位まで一緒というのはどうなんだろうな。
 これも前の記事の繰り返しになってしまうが、やはりネットの影響で情報が共有されすぎているのが、最も大きな原因なのだろう。投票者にしても一年間に読む冊数は限られているわけで、当然ながらむやみやたらに読むわけではないだろう。巷で話題になっているもの、出版社がプッシュするものなど、何らかの情報を受けての選択のはずである。
 したがって、現在のランキングの多くが得票ポイントで決められている以上、まずは投票者の目に多く触れたものが圧倒的に有利になるのは必然だろう。
 それでも本格ミステリ限定だとか、『週刊文春』の権威主義的ベストテンに対するアンチテーゼとか、いろいろと方向性を打ち出していればベストテンにもそれなりのカラーが出て楽しめるのだが、そういう方向性も今ではあまり感じられない。ごくごく普通にベストを出すだけだものなぁ。

 普通にやるしかないのなら、せめてベストテンの価値を高めるためにも、該当作品の八割を読んだ者しか投票できないとか、八割が難しいなら責任を持たせる意味で投票者の読んだ本のリストをさらすとか、あるいは加算ポイントではなく投票点のアベレージで競うとか、いろいろ手はあるんだがなぁ。そういう企画はないのかい?

 『このミス』の企画記事もここのところ低調だ。
 今回の目玉は国内短篇のオールタイムベストテン。まあ、この企画自体の意義は認めるものの、いかんせんオーソドックスすぎる。こういう特集こそ文春あたりに任せて、『このミス』はもっとチャレンジすべきだろう。「ミステリが読みたい!」が雑誌に入ってしまって書籍でのライバルがいなくなったせいか、昨年あたりから急に保守的になった気がする。
 とにかくランキングが同じ、企画記事もありきたりではでは『このミス』を買う意味がどんどん薄れてしまう。創刊当時のいかがわしさと熱気をぜひ取り戻してほしいものだ。


『このミステリーがすごい!』編集部/編『このミステリーがすごい!2014年版』(宝島社)

 年末恒例ランキング本の締めくくりとして『このミステリーがすごい!2014年版』に目を通す。
 が、この数年『このミス』に期待することは正直まったくない。
 かつて自社の作品や話題作ばかりをランクインさせていた『週刊文春』のベスト10に対するアンチテーゼとして登場した『このミス』。そんな熱き精神はどこへやら、今では自社の大賞作家の作品を毎回載せているぐらいだから何をかいわんや、である。今年も某作家の作品が相変わらず載っているのだが、短編どころか抄録というのだから恐れ入る。
 まあ、それでも資料としては便利なので、買う価値がないとは言わない。むしろ管理人などは毎年のように買っているのだから、もう少しそんな読者の気持ちを考えた本作りはできないものだろうか?

 このミステリーがすごい!2014年版

 のっけから辛いことを書いてしまったが、一応、2014年度版ならではの好企画もないではない。
 「復刊希望!幻の名作はコレだ!」は、「このミス」誕生以前の名作を取り上げようということで、最初の東京オリンピックが開催された1964年から「このミス」創刊の1988年に絞って、名作をランキングするというもの。国内編は『本格ミステリフラッシュバック』とかなり期間がかぶるのであまり旨味はないのだが、海外編はそれなりに役に立つのではなかろうか。オールタイムベストではひっかからない作品が拾えるという意味ではナイスである。
 ただ、企画としては悪くないのだから、どうせやるならもっときちんとした形でやってほしい。対象となる時代を考えると選者をもっとしっかり選定すべきだし、期間も適当にオリンピック合わせにするのではなく、より意義のあるものにした方がよい。
 現状はそれこそ単なる人気投票レベルであり、うまくすりゃこれで一冊ムックができそうな企画だけに、適当にやっつけた感が惜しまれる。

 肝心のベストテンだが(例によって拙サイトでは海外もののみを対象としております)、キング堂々の一位。ここへミネット・ウォルターズ、ウィングフィールドが続くのだが、今年は本当に大御所が強くてまったく波乱なし。どのベストもほんとに似たような結果である。
 先日の日記でも書いたばかりだが、ここまでベストテンが似てくると三つも四つも要らなくなるんだよなぁ。それでもビジネスとして続けたいのであれば、やはり他所には負けない企画をやってほしいものである。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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