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論創ミステリ叢書から『新羽精之探偵小説選II』を読む。
 デビュー時から主な活躍媒体としていた推理小説雑誌『宝石』が廃刊になり、新羽精之はそれ以後、『推理ストーリー』や『推理界』、『推理文学』、地元の新聞など、さまざまな媒体に作品を発表することになる。本書はそんな新羽精之の後期作品を収めた作品集である。

 新羽精之探偵小説選II

「河豚の恋」
「幻の蝶」
「ボンベイ土産」
「ロマンス航路」
「華やかなる開館」
「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」
「時代おくれの町」
「平等の条件」
「自由の敵」
「ニコライ伯父さん」
「日本西教記」
「偽眼(にせめ)のマドンナ」
「卑弥呼の裔」
「黄金の鵜」
「天童奇蹟」
「薔薇色の賭」
「幻の怪人二十面相」

 収録作は以上。基本は奇妙な味といってもよいが、その内容は意外なほどバラエティに富んでなかなか読ませるなぁというのが前巻『新羽精之探偵小説選I』での感想だったが、テイストはそのままに後期作品はより上手くなっているというのが本書の第一印象。似たようなアイディアを使い回す癖は本書でも見られるが、それさえ目を瞑れば全体的には十分楽しめる。これまでまとまった作品集がなかったのが不思議なほどである。

 「河豚の恋」は本格仕立て。フグの中毒を利用するネタ、板前の見習いという探偵役、ほのかなロマンスなど、バランスよくまとめた佳品。ただ、長崎が舞台なのに主人公がべらんめえ口調なのが気になった。どこかに東京出身とかいう描写があったかな?

 「幻の蝶」も悪くない。蝶の修正を利用したアイディア、無数の蝶が舞う描写、犯人と被害者の対決など、盛りだくさんでなかなかの力作である。しかし、新羽精之は本当によくこれだけ動物ネタを考えつくなぁ。

 インドに出かけた主人公が麻薬の運び屋を頼まれる「ボンベイ土産」。怪しげなインド人との出会いの場面が魅力的で一気に引き込まれるが、そこから意外な展開をみせつつ、最後にはどんでん返し。鮮やか、というほどのオチではないが、ちょっと捻った倒叙ものとして楽しめる。

 豪華客船に出没する怪盗の正体は? 「ロマンス航路」は誰が怪盗なのかという興味でひっぱりつつ、ロマンスも盛大に盛り込み、ラストのオチで「あ、道理で」となる。ちょっと星新一の作品を思い出した。

 「華やかなる開館」は短いながらもひねりの効いた倒叙もの。内容は悪くないのだけれど、プロットが「ボンベイ土産」と似ていて、著者の悪い癖が出た一作。

 「動物四重奏(アニマル・クァルテット)」は動物ネタのショートショート四連発。軽い小咄だが、ここでもネタの焼き直しがあるのがマイナス点。

 古い田舎町の因習や風習の怖さをテーマにした「時代おくれの町」は奇妙な味の秀作。短編だとこの種の怖さを表現しきれないリスクもあるのだが、著者は意外なほど鮮やかにまとめている。

 「平等の条件」は小さいころから主従関係にあった二人の男の物語。ラストの逆転劇で爽快感を生むはずが、それほどの切れ味はない。

 「自由の敵」は学生運動真っ盛りの大学に忍び込んだ泥棒の物語。他愛ないショートショートといったら身も蓋もないが、まあ、そのレベル。

 「ニコライ伯父さん」は奇妙な味というよりは怪奇小説寄りの作品。ロシアを舞台にしており、そんな長い作品でもないのによく下調べしているなあと感心して読んだが、評論家の中島河太郎によると「こういう趣向は設定が変わっているだけで、氏自身にとっても目新しいとはいえない」と、なかなか手厳しい(苦笑)。

 「日本西教記」は本書の目玉、本邦初のキリシタン推理小説である。フランシスコ・ザビエルの布教の様子が、自らの手記、ザビエルに同行したメンデス・ピントの手記、同じくアントアン・ローペの手記で構成され、ザビエルが起こした奇跡の数々の秘密を明かすという物語である。趣向は非常に面白いが、解説でも書かれているように、ピントの手記がザビエルの内容とかぶりすぎでいただけない。

 「偽眼(にせめ)のマドンナ」はどんでん返しを効かせた倒叙もの。ショートショート程度の短さなのでワン・アイディアに頼りすぎなのは仕方ないにしても、類似パターンが多いのがやはり気になる。

 「卑弥呼の裔」は歴史ミステリの力作。数少ない本格仕立ての一作で、初期の「炎の犬」あたりと似てはいるが、題材が面白い。

 「黄金の鵜」は犯罪捜査に協力して売れっ子になった占い師の物語。この題名ではオチを読まれるやすい気がするが、それはともかく小品ながら内容的にはけっこう好み。

 「天童奇蹟」はキリシタンもので「日本西教記」と対をなすような一編。テーマがテーマなだけになかなか印象深いものがある。

 厳格な市長に一泡吹かせるといった内容の「薔薇色の賭」はユーモラスな味わいが売り。まあ、ショートコントといったらそれまでだが(苦笑)。

 トリを飾るのは題名からして唆る「幻の怪人二十面相」。今読むとさすがに手垢のついたネタではあるが、これはなかなか巧く処理している。

 さて、これでようやく『新羽精之探偵小説選I』&『新羽精之探偵小説選II』を読み終えたのだが、いつもの論創ミステリと違って、実はこれで新羽精之全集というわけではない。まあ、長編は含めなくてもよいのだが、『幻影城』に連載された「十二支によるバラード」が収録されていないのである。といってもこの分量ではさすがに厳しかったのだろうが、これはもしかして『新羽精之探偵小説選III』を期待してよいということなのだろうか。期待しています>論創社さん


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 本日は論創ミステリ叢書から『新羽精之探偵小説選I』を読む。
 新羽精之は1969年に探偵小説誌『宝石』でデビューした作家である。以前に感想をアップした著者唯一の長編かつ唯一の著書でもある『鯨の後に鯱がくる』は意外にも社会派ミステリだったが、本来は奇妙な味系の作家として紹介されることが多い作家である。
 とはいえ元々はがっつり本格志向だったようなのだが、『宝石』の短編懸賞で受賞したのが奇妙な味の「進化論の問題」だったため、そういう道もあるのかと方向転換したということらしい。
 まあ、管理人も新羽精之の短編はアンソロジーや探偵小説誌『幻影城』でいくつか読んだだけなので、実はその全貌をあまり理解しているわけではない。
 しかしながら今回本書の刊行によって、まとめて新羽作品に接することができ、その意外なくらいバラエティに富んだ作風を楽しむことができた。

 新羽精之探偵小説選I

「炎の犬」
「火の鳥」
「進化論の問題」
「美容学の問題」
「生存の意志」
「ロンリーマン」
「青いなめくじ」
「タコとカステラ」
「魚と幻想」
「坂」
「実験材料」
「素晴しき老年」
「マドンナの微笑」
「穴」
「罠」
「幻想の系譜」
「チャンピオンのジンクス」
「海賊船」

 収録作は以上。デビュー作の「炎の犬」から始まり、主な活躍媒体だった『宝石』が廃刊になるまでの時期の作品を収めている(以降の作品は『新羽精之探偵小説選II』に収録)。

 上でバラエティに富んだ作風ということを書いたが、本格から奇妙な味、歴史ミステリ、ブラックユーモア、ファンタジーっぽいものなどなど、作品ごとにかなり趣が異なっている。一応は全部まとめて奇妙な味と言えないこともないだろうが、これだけいろいろなアプローチができるなら、変に先入観を植えつけるよりは普通に短編の名手ということもできるだろう。とにかくアイディアという点では十分評価できる。
 また、アイディアだけでなく、そもそも本格好きということで、謎解きやトリック成分も決して低くはなく、いい感じで他ジャンルと融合しているのも良いところだ。

 ただ、着想は良いのだけれど、作品によってはどこかで読んだなとか使いまわしのネタもちらほらあるのは気になった(あくまでこの時期の作品に限ってだが)。
 また、文章も決して上手い方ではなく、ところどころで状況が掴みにくい表現もあるのはいただけない。

 以下、作品ごとの感想など。
 デビュー作の「炎の犬」は田舎の山犬の伝説をベースにした本格作品で、雰囲気も出来もまずまず。ただ、タイトルにもなっている“炎の犬”の正体はひどい(苦笑)。
 ちなみに「火の鳥」も似たようなレベルだが、いかんせん「炎の犬」と同じトリックを使っているのがまずい。よくこれを同じ『宝石』に投稿したものだ。

 代表作とも言える「進化論の問題」はやはり良い。未読の方はぜひ先入観なしに読んでもらいたい。そこはかとないユーモアも含みつつ、徐々にエスカレートする行為が、読者の想像をわしわしと掻き立て、恐怖を募らせる。そんなに文章が洗練されているとは思えないのだが、これはもう純粋にアイディアの勝利。
 そして続く「美容学の問題」がこれまた「進化論の問題」の延長線上で思いついたような内容で、この時期はまだまだアイディアの引き出しが少なかったような印象である。

 「生存の意志」は遭難した二人の若者の物語。著者自らイソップを引き合いに出しているように、大人のためのブラックな寓話である。掌品だが悪くない。

 孤独を愛する学芸員が主人公の「ロンリーマン」は、犯罪小説のような展開から、いつのまにかダークファンタジーでしたという物語。

 「青いなめくじ」は倒叙というか犯罪小説というか本格というか奇妙な味というか。なめくじミステリの佳作である。

 明治時代の佐世保を舞台にした本格という点で印象的なのが「タコとカステラ」。多岐川恭の『異郷の帆』あたりに刺激を受けて書かれたようだが、出来はいまひとつ。

 「魚と幻想」は療養所での看護婦殺人事件を描く。ある患者が素人探偵となり、毛嫌いしている男を犯人とにらんで追及するが、皮肉なラストが待ちかまえる。療養所が舞台というだけで、なんとなく探偵小説っぽさが数ランク上がるから不思議である。

 「坂」は解説でディクスン・カーばり云々とあるとおり、確かにトリックがカーを彷彿とさせて楽しい。これを長編でやられるとさすがに厳しいが、こういうこじんまりとした短編なら許容範囲だろう。

 「実験材料」はダークファンタジーもしくはブラックユーモア的作品。一歩間違えばコントみたいになる話だが、ぎりぎり堪えている感じか。

 「素晴しき老年」もブラックな笑いが効いている一作。アイディアの勝利。

 「マドンナの微笑」は美術品をめぐる事件を描くが、その他の作品に感じられる着眼の良さが出ておらずものたりない。

 「穴」と「罠」は長崎を舞台にした時代物。設定は嫌いじゃないがミステリとしては低調。

 「幻想の系譜」は経験主義を押しつける伯父によって苦悩する青年が主人公。伯父と主人公のやりとりがユーモラスで、構図としては「進化論の問題」を思わせる。どんでん返しはあるが、後味はほろ苦い。

 「チャンピオンのジンクス」は架空の外国を舞台にし、ボクサーを主人公にしたダークファンタジーといった趣。単独で見れば面白い作品なのだが、メインのネタが「進化論の問題」と被っているのがマイナス点。

 最後の航海に出る船に、なぜか荒くれ者ばかりを船員として雇った船長の思惑とは? 「海賊船」は海洋ものという特殊な舞台装置とミステリとしての驚きがうまくミックスされた佳作。若い水夫の眼を通して描かれるが、その構図が小説の味付けとしても、ミステリとしても効いている。

 ということで、欠点もそれなりにあるにはせよ、全体的にはなかなか楽しめる作品集といえる。論創ミステリ叢書も戦後作家が増えてきたせいか、やはりレベルが上がっている感はある。続く『新羽精之探偵小説選II』も期待できそうだ。


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 ちょっと珍しいところで、新羽精之の『鯨のあとに鯱がくる』を読む。かの幻影城ノベルスから刊行されたもので、著者唯一の長編推理。

 新羽精之といえば、短編「進化論の問題」がいくつかのアンソロジーで採られているのでマニアには多少知られているだろうが、一般的な知名度としてはかなり低い方だろう。そもそも若くして亡くなったこともあって著作が少ない。本書の他には短編が十五、六作という程度で、現役で読めるものはほぼないし、しかもそのほとんどが単行本未収録。言ってみれば急速に「幻の作家」化が進行しつつある作家である。
 作風的には奇妙な味タイプのものや動物をモチーフにした作品が多いのだが、唯一の長篇である本作は、なんと社会派ミステリである。

 長崎県佐世保市で公害反対の市民運動を行っていたリーダーの志筑雄一郎が、アクアラングをつけて潜水中に溺死した。当初は事故死として処理されたものの、雄一郎の妹、佐保の恋人であり、新聞記者の兵主有平は、同時刻に起きた自動車盗難事件に不審を抱き、雄一郎の事件との関連性を調べることにする。そして雄一郎の手帳に記されていた「鯨のあとに鯱がくる」という謎の言葉に行き当たる……。

 鯨のあとに鯱がくる

 大企業の地方進出、それに伴う公害や原発問題など、三十年ほど前に日本のあちらこちらで起こっていた問題に真っ向から挑んだ意欲作である。
 著者とすれば初めての長篇ということで相当に気合いも入っていたとは思うのだが、こちらとしては恐怖とユーモアが入り混じった佳作「進化論の問題」のイメージが強かっただけに、最初はバリバリの社会派ミステリということにまず戸惑った。また、問題の背景なども説明しなければならないのはわかるが、それがストーリーに自然に溶け込んでおらず、登場人物の口を借りて非常に説明的に行われているのが気になった。前半はそれが特に目立つ。

 一方、ダイイング・メッセージ的な「鯨のあとに鯱がくる」という言葉の意味、各事件のトリックなどはまずまず。著者お得意の動物を使ったトリックもあったりして、社会派の中に本格マインドを盛り込む、その姿勢は買いたい。

 ただ、繰り返しになるけれど、どうしても社会派という方向性が引っかかるのである。佐世保で生まれ育った著者だから地元の問題を描くことに強い意義はあったのだろうが、作家としての資質は果たしてどちらにあったのか。
 それを見つける前に亡くなったのが何とも残念だ。


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