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 ちょっと珍しいところで、新羽精之の『鯨のあとに鯱がくる』を読む。かの幻影城ノベルスから刊行されたもので、著者唯一の長編推理。

 新羽精之といえば、短編「進化論の問題」がいくつかのアンソロジーで採られているのでマニアには多少知られているだろうが、一般的な知名度としてはかなり低い方だろう。そもそも若くして亡くなったこともあって著作が少ない。本書の他には短編が十五、六作という程度で、現役で読めるものはほぼないし、しかもそのほとんどが単行本未収録。言ってみれば急速に「幻の作家」化が進行しつつある作家である。
 作風的には奇妙な味タイプのものや動物をモチーフにした作品が多いのだが、唯一の長篇である本作は、なんと社会派ミステリである。

 長崎県佐世保市で公害反対の市民運動を行っていたリーダーの志筑雄一郎が、アクアラングをつけて潜水中に溺死した。当初は事故死として処理されたものの、雄一郎の妹、佐保の恋人であり、新聞記者の兵主有平は、同時刻に起きた自動車盗難事件に不審を抱き、雄一郎の事件との関連性を調べることにする。そして雄一郎の手帳に記されていた「鯨のあとに鯱がくる」という謎の言葉に行き当たる……。

 鯨のあとに鯱がくる

 大企業の地方進出、それに伴う公害や原発問題など、三十年ほど前に日本のあちらこちらで起こっていた問題に真っ向から挑んだ意欲作である。
 著者とすれば初めての長篇ということで相当に気合いも入っていたとは思うのだが、こちらとしては恐怖とユーモアが入り混じった佳作「進化論の問題」のイメージが強かっただけに、最初はバリバリの社会派ミステリということにまず戸惑った。また、問題の背景なども説明しなければならないのはわかるが、それがストーリーに自然に溶け込んでおらず、登場人物の口を借りて非常に説明的に行われているのが気になった。前半はそれが特に目立つ。

 一方、ダイイング・メッセージ的な「鯨のあとに鯱がくる」という言葉の意味、各事件のトリックなどはまずまず。著者お得意の動物を使ったトリックもあったりして、社会派の中に本格マインドを盛り込む、その姿勢は買いたい。

 ただ、繰り返しになるけれど、どうしても社会派という方向性が引っかかるのである。佐世保で生まれ育った著者だから地元の問題を描くことに強い意義はあったのだろうが、作家としての資質は果たしてどちらにあったのか。
 それを見つける前に亡くなったのが何とも残念だ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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