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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

極私的ベストテン2013

 今年も早いものでもう大晦日である。とりわけ仕事の面ではいろいろと新しいことが多く、これがまた来年も引っ張ることもあって、しばらくは精神的に疲れることが多くなりそうだ。幸い今年の年末年始は久々の大型連休なので、まずはここでゆっくり疲れをとることに専念しなければ。しなければしなければ。


 とりあえず2013年最後のブログ更新は、恒例の極私的ベストテンである。ここ数年の読書量が年間七十冊程度に落ち込んでいるので、だんだん粒が揃わなくなってきている危険もあるが、まあ、細かいことは気にせず今年もいってみよう。

1位 連城三紀彦『戻り川心中』(講談社文庫)
2位 松本清張『点と線』(新潮文庫)
3位 フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(東京創元社)
4位 瀬下耽『瀬下耽探偵小説選』(論創社)
5位 ローレンス・ブロック『償いの報酬』(二見文庫)
6位 マックス・ブルックス『WORLD WAR Z(上・下)』(文春文庫)
7位 大坪砂男『大坪砂男全集2天狗』(創元推理文庫)
8位 ドナルド・A・スタンウッド『エヴァ・ライカーの記憶』(創元推理文庫)
9位 梶龍雄『龍神池の小さな死体』(ケイブンシャ文庫)
10位 ジェフリー・ディーヴァー『ポーカー・レッスン』(文春文庫)

 この極私的ベストテンは管理人が今年読んだ本の中からベストテンを選ぶというもの。ルールは無きに等しいが、強いてあげるなら、一応は小説に限定することと、再読本は入れないということぐらいである。
 だが、今年はその禁を破って、あまりの面白さにとうとう再読本をベストテンに入れてしまった。しかもワンツーフィニッシュである(笑)。まあ再読といっても二十年ぶりぐらいにはなるし、『戻り川心中』にしても『点と線』にしても、管理人がいまさら「あーだこーだ」言う必要のないミステリ史に輝く傑作である。これを入れずして何を入れるかという話なので、どうかひとつご容赦のほど(笑)。
 3位の『コリーニ事件』はいわゆる謎解きミステリではなく、人間そのものの存在に踏み込んでいく物語であり、短いながらも読み応え十分。
 ちなみに1位から3位に共通するものとして挙げられるのは、なぜ罪を犯すに至ったかという点をきちんと踏まえた作品であるということ。それが謎解き興味と美しいまでに融合していれば言うことはない。4位の瀬下耽や5位のブロックも味つけはまったく異なるけれど、結局そういう意味で上位に持ってきている。
 6位は少々なめてかかったら思った以上に楽しめた作品。一見あざといけれどこれは力作。決してゾンビ小説として読むべきではない。
 7位は『大坪砂男全集1立春大吉』と合わせ技で。いわゆる動機とか文学味とかを超越したところにこの人の魅力はある。
 8位は見事なまでのエンターテインメント。これを今まで放っておいたのは不覚だった。これでもう少しキャラクターに魅力があったら、もっと上位だったのだが。
 9位は昨年からお気に入りに加わった梶龍雄の代表作のひとつ。本格としては抜群に面白いけれど、個人的には『海を見ないで陸を見よう』のようなテイストの方が好み。
 10位はディーヴァーの短編集。どんでん返しの連発で文句なく面白いのだが、いわゆる異色作家短編集を読んだときに感じられる独特の満足感が不足気味。

 以上が2013年のベストテン。惜しくもベストテンに漏れた作品としては、ヘレン・マクロイ『小鬼の市』高城高『夜明け遠き街よ』中町信『模倣の殺意』D・M・ディヴァイン『跡形なく沈む』あたりを挙げておきたい。
 本ベストテンの常連であるマクロイとディヴァインは悪くはなかったのだが、いつもよりはちょっと落ちるということで今年は一回休み。高城高も内容がやや人を選ぶため外したが、ハードボイルド好きなら読んでおいて損はない。
 悩んだのは中町信『模倣の殺意』。今年は氏の作品を五冊読んだが、やはり最初の一冊がイチ押しである。ベストテンに入れたいとは思ったのだが、最終的には外してしまった。テクニックに驚きはするのだけれど、それを支える他の魅力にやや欠けているのが惜しまれる。

 小説以外での収穫としては、まずジョン・ラフリー『別名S・S・ヴァン・ダイン ファイロ・ヴァンスを創造した男』。もうね、すべての本格ミステリファンは読むべしと書いておく。これまでのヴァン・ダイン観を根底からくつがえす良書である。
 谷口基『変格探偵小説入門 奇想の遺産』もおすすめ。戦前の探偵小説シーンを解説する本そのものが圧倒的に少ないだけに、この類の本は大歓迎である。ふと思いついたのだが、論創ミステリ叢書の解説を一冊にまとめるとけっこうなガイドブックになるのではないか。百巻記念とかでどうでしょう>論創社さん

 さてさて、『探偵小説三昧』も今年の営業はそろそろお終いを迎えようとしております。今年も管理人の戯れ言におつきあいいただき誠にありがとうございました。
 それでは皆様、よいお年を!
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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