先日、『ピーターラビットと仲間たち』という映画のDVDを店頭で見かけたのだが、これがけっこう珍品というか。あのピーターラビットの物語を着ぐるみで再現し、しかもセリフが一切無く、英国ロイヤル・バレエ団が物語をすべてダンスで披露するというのである。
こういう子ども向けの物語も基本的には嫌いじゃないので思わず買ってみたのだが、よく考えると、そもそも管理人はピーターラビットの物語をすべて読んでいるわけではない。もちろんピーターの話ぐらいは知っているが、この物語は絵本とはいえもともと全部で23巻もある。そんな原作の映画を、しかもセリフもない映画をぶっつけで観るのはちょっと厳しいかなと考え、まずは嫁さんが所蔵する『ピーターラビットの絵本 全24巻』をイッキ読みしてみた。
というわけで本日の読了本はビアトリクス・ポターの『ピーターラビットの絵本 全24巻』。
なお、全24巻なのは日本だけで、これは「ずるいねこのはなし」がラフスケッチだけのイラストで、公式には『ピーターラビットの絵本』に含まれていないからだそう。したがって海外では全23巻とのこと。

著者のビアトリクス・ポターはロンドン出身。裕福な家庭の出身だったのはよいけれど、ヴィクトリア朝時代の裕福な子供たち、特に女子は学校にやられず、家庭教師などがついて大事に箱入り娘として育てられた。その結果、他の子供たちとあまり関わることができず、自然に回りで見かけたり飼ったりした小動物や虫などに興味を示すようになる。やがてはペットなどをスケッチするようになり、その興味はスコットランド湖水地方へ出かけるようになるとさらに大きくなっていった。
そして自分がかつて家庭教師として教えた少年が病気になったとき、ポターはお見舞いの手紙として、うさぎのお話をイラスト付きで書くようになる。これを私家版として出版したのがそもそもの始まりである。この本は評判を呼び、かのコナン・ドイルも良い本だとポターに賛辞を送ったという。
中身の方は絵本なので、さすがにわざわざ書くまでもないか。湖水地方の豊かな自然を舞台に、ピーターラビットをはじめとする擬人化された動物たちが繰り広げる日常のお話である。
興味深かったのは、ただのほんわかしたお話ではなく、けっこうガッツリした教育的配慮が為されていることか。まあ、有名な話ではあるけれど、ピーターのお父さんなどは物語の始めから既に人間に捕まってパイにされて食べられたという設定である。ほかにも表面的には仲良くしていてもキツネは常にアヒルを食事の対象として見ているし、ネズミに食われそうになる子猫もいる。
こういった容赦の無い描写は意外なほど多く、食われそうになる登場キャラクターの何と多いことか(苦笑)。自然の掟や摂理というものをポターが執拗に組み入れていたのはかなり意識的ではあるのだろう。
ただ、さすがに最終的な悲劇にまで至ることはないのだが、これは子供たちに対する配慮というより、むしろ自分が置かれていた当時の境遇を重ね合わせていたのかも、と考えるのは少々穿ちすぎだろうか。
ともあれ予想以上に楽しい読書のひとときではありました。