ここ最近の文芸関係のビッグニュースというとやはり芥川賞・直木賞の発表だが、個人的にはエドワード・D・ホックの訃報である。七十七歳ということだが、急死らしく詳しいことはまだわかってないようだ。不可能犯罪を追い求め、膨大な作品を作り続けてきた作家だっただけに、ミステリ界には実に大きな損失である。合掌。
もうひとつニュース。東京創元社からのメールマガジンによると、フィリップ・マクドナルドの『ライノクス殺人事件』が文庫化されるとのこと。もちろんあの六興キャンドルミステリーズの一冊である。これ自体は評価したいが、長らくストップしたままになっている企画や自社の絶版物も頼んまっせ、ほんと。

読了本はジム・トンプスンの『鬼警部アイアンサイド』。あのノワールの巨匠がTVドラマ『鬼警部アイアンサイド』の設定を借りて書き下ろした、オリジナルのストーリーである。
個人的にはリアルタイムでのTV放映を観てはいたが、初放映時か再放送かは定かでない。また、車椅子の警官という設定のせいか、当時の記憶ではかなり硬派な印象があり、コロンボなどのように熱中した覚えもない。
したがって実は「アイアンサイド」に対してそれほど思い入れがあるわけではないのだが、気になるのはジム・トンプスンがその設定をどう料理したかである。トンプスンはもともと構成やプロットに優れた作家というわけではなく、文章やセンスが先行するタイプだ。オリジナルとはいえTVのイメージが確立しているからにはそこから大きく逸脱するわけにもいかず、ジム・トンプスンの長所が打ち消されるのではないかと危惧したのである。
だが、それはまったくの杞憂であった。逆に多少の縛りがいい方向に流れたのではないかと思えるほど、物語としてきっちりまとまっている。よくよく考えれば小説では奔放な作品をものにしてきたトンプスンだが、同時に映画やテレビの脚本もこなしているわけであり、やはり一級の職人だったのである。
作中で直接的に、あるいは比喩的に言及される正義と悪の概念。そしてTV版ではおそらくなかったろう激しい暴力シーン。ジム・トンプスンらしさも残しつつ、こうしてTVのノヴェライゼーションとして形になった作品だが、そこらのノヴェライゼーションとは明らかに一線を画す出来であり、トンプスンのファンならずとも読んで損はない一冊である。