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 ロバート・ルイス・スティーヴンスンとその義理の息子であるロイド・オズボーンの共著、『引き潮』を読む。
 海洋冒険小説の名作『宝島』を著したスティーヴンスンは、他にもいくつかの海洋ものを残している。たとえば以前にはポケミスから『難破船』という作品が翻訳されたこともあって、そちらも楽しめる作品ではあるのだけれど、いわゆる海洋冒険小説としての面白さとは別種なもので、ちょっと肩すかしを食った感もあった。
 さて本作はどうか、というところである。

 こんな話。十九世紀末のこと。南太平洋タヒチの浜辺で、食べる物も住むところもなくたむろする三人の男がいた。オックスフォード大学卒業のインテリ・ヘリック、商船の元船長デイヴィス、ロンドン下町育ちの元店員ヒュイッシュ。みなヨーロッパの出身であり、それぞれの事情があって海外に身を投じたものの、見事に失敗してどん底に落ちてしまった者ばかりである。
 しかし、そんな彼らに脱出のチャンスが巡ってきた。天然痘の発生で乗り手がいなくなった帆船を見つけ、荷物運搬を肩代わりしようというのである。しかし、元船長デイヴィスの狙いは別にあった。積み荷を適当に売りさばき、そのまま船で逃げようというのである。犯罪に加担するわけにはいかないし、そもそも船員の経験もないヘリックは最初は断るものの、結局は承諾し、三人は航海の旅に出発するのだが……。

 引き潮

 とりあえず結果から書くと、スタイルとしては海洋冒険ものといってもよいだろう。本作は大きく二部構成になっており、一部では主人公たちのどん底生活から航海の様子までが描かれ、二部では彼らが立ち寄った孤島で巻き込まれたある事件が描かれる。
 ただ、表面的には海洋冒険ものなのだが、著者の書きたいものはそういった血湧き肉躍る活劇ではなく、善と悪の間で葛藤し、揺れ動く三人の姿であり、それによって人間の倫理とは結局どういうものなのかを探ろうとする。

 スティーヴンスンはとにかく三人を不安定な状況に置く。そういう極限的な状況でこそ、人が人としてすべてをさらけ出すわけで、そんなエピソードが次から次へと描かれる。ときには正義感から、ときには目の前の損得から行動する彼らだが、やがて最悪の状況が近づくと、その本性がむき出しになる。
 ただ、喉元過ぎれば、という言葉もあるように、とりあえずひと山を超えるとまた油断してしまうのが人間の悲しいところだ。同じ過ちを彼らはまた繰り返してしまい、最後にはのっぴきならない状況に追い込まれてゆく。そのとき人はどう行動するのか。そういう話である。

 巧いなあと思うのは、目の前の困難に対し、三人のダメっぷりをきちんと描き分けていること。性格の違いによって、そのダメっぷりがまた異なるわけで、長所短所の振り幅もきちんと見せつつ、実はだんだんとドツボにはまっていく展開がなんとも薄ら寒く、同時に先が読みたくて仕方なくなってくるのだ。
 訳者あとがきで本作は『宝島』というより『ジキル博士とハイド氏』なのだというような指摘があったが、確かにそのとおりだろう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 R・L・スティーヴンスンとL・オズボーンの合作『難破船』を読む。スティーヴンスンは言うまでもなく『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で知られる英国を代表する作家。一方のオズボーンはスティーヴンスンの義理の息子である。

 実業家の父の希望に背き、芸術で身を立てようとするラウドン・ドッド。そして芸術家としての道をあきらめ、実業家として立とうとするジム・ピンカートン。二人の青年はパリの学校で知り合い、お互いをリスペクトしつつも一度は袂を分かつ。だが、刻が過ぎ、ドッドの破産をきっかけに二人は再び出会い、アメリカで事業をスタートさせる。
 そして事業が軌道に乗り始めたとき、二人のもとに南洋ミッドウェイ沖で座礁した難破船の情報が飛び込んできた。船が積んでいるという財宝を目当てに、二人は乾坤一擲の大勝負に出るが……。

 難破船

 帯の惹句が”大人版『宝島』”とあるので、てっきり血湧き肉躍る冒険小説かと思っていたが、これがまったく予想外の物語。難破船をめぐっての冒険要素もあるにはあるが、読み終わっての印象は、むしろ主人公ドッドの半生を語る大河小説の趣である。
 しかもその舞台は大自然どころかビジネスの世界が主。実際、難破船がどうこうという話は全体の半分を超えないと登場しない始末である。

 では本書がつまらなかったのかというと、まったくそんなことはなくて、これがけっこう楽しめる。スタイル自体はさすがに古めかしいものの、人間ドラマを丁寧に描いており、とりわけキャラクターの立たせ方はお見事。なんだビジネス小説か、というような偏見はさくっと捨てて、ドッドとジム、二人の生き方や考え方をじっくり味わいつつ読むのがよろしい。
 また、スタイルが古めかしいとは書いたものの、実は当時流行し始めていたミステリのスタイルに拒否反応を示したスティーヴンスンが、あえて選んだ形らしい。まあ、日本でも探偵小説芸術論などで賑わった過去があったわけだが、やはり時代を考えると、当時の普通小説の書き手にとって、ミステリがある種の脅威になりつつあったことが想像できる。
 ただ、そういう立ち位置を選んだはずのスティーヴンスンが、結局は本書でミステリ寄りの仕掛けを用いていることは興味深い。

 まあ、ポケミスの一冊、大人版『宝島』というようなイメージをもって読み始めると逆効果な気はするけれど、いったんそういった先入観をチャラにしてしまえば、これはなかなか拾いものの一冊といえるだろう。


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