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 アンドリュウ・ガーヴの『殺人者の湿地』を読む。しばらく前に読んだ『運河の追跡』と同様、論創海外ミステリからの一冊。
 『運河の追跡』は小粒ながらもきっちりまとまったサスペンスで悪くなかったが、本作もなかなかの出来。いや面白さでいえばこちらの方が一枚上だろう。

 殺人者の湿地

 まずはストーリー。
 英国ケンブリッジ州のトレーラー販売会社に勤めるセールスマンの青年、アラン・ハント。ノルウェーに休暇で出かけ、両親と旅行に来ていたグウェンダと知り合いになり、ひとときの情事を楽しむことに成功する。実は富豪の娘と婚約中の身だったアランは、最初から浮気目的で旅行に来ていたため、後腐れのないようグウェンダには偽の連絡先を教え、ケンブリッジに戻っていった。
 ところが程なくしてアランの前にグウェンダが現れる。しかも彼女はなんと妊娠しているという。このままでは富豪の娘との婚約が危ない。アランはこの危機を乗り越えるため、グウェンダを始末する計画を練るが……。

 以上のような案配で、アランという青年を軸にして幕を開ける本作。最初は女たらしの青年の犯罪を描く、単純な倒叙ものだと思っていると、第二部に入って少々様相が変わってくる。
 ある者の密告をきっかけにして、グウェンダが消息不明になっている事実が明らかになるのだが、ここで物語の牽引役がアランから警察側に移るのである。以後はダイソンとニールドという二人の刑事が流れを作っていく。クロフツあたりにありそうな半倒叙的ストーリー展開だが、ここで容疑者として浮かび上がるのがもちろんアラン。
 しかし状況証拠は十分だが肝心の証拠がない。アランが単なる女たらしではなく、道徳や倫理観がまったく欠如した男であることも明らかになり、もうアランしか犯人はいないだろうとなるのだが、それでもやはり決め手は掴めない。さあ、いったいアランはどういう手を使ったのだ?というのが最大の読みどころである。

 事件そのものは非常にシンプルで小粒ながら、ワンアイディアでカチッと決めてみせたという印象。最近の作家ならダイソンとニールドという両刑事の関係や過去をけっこう語りたくなるところだが、そこをガーヴはあっさり流し、あくまでアイディア一本勝負なのがいい。
 まあ、トリッキーとはいえシンプルな設定なので少々ネタは読みやすいが、それでもコンパクトにまとめる潔さ、読後感なども含め、トータルでの戦闘力はなかなかのものではないか。やはりガーヴはもっと読んでおくべきだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 アンドリュウ・ガーヴは主に五十~七十年代にかけて活躍したイギリスのミステリ作家。シリーズものはほとんど書かず、毎回、趣向を凝らしたノンシリーズのサスペンスで勝負し、人気を集めた。長篇も五十作近く残しており、その半数近くがポケミスで邦訳もされている。
 だが悲しいかなその人気はミステリマニア止まりのようで、文庫化されたものはハヤカワと創元で各一冊ずつという寂しさ。知られている作品はおそらく悪女ものの傑作『ヒルダよ眠れ』ぐらいである。ここ二十年ほど、日本ではほとんど忘れられた作家となっていたのが現状だ。
 そんな状況を打破してくれたのが例によって論創社。昨年秋頃に『殺人者の湿地』、そして今年は『運河の追跡』と、比較的短い間隔で刊行しているのが嬉しいかぎりだ。

 などと書いておきながら、実は管理人もこれまでに読んだのは先に挙げたハヤカワ文庫の『ヒルダよ眠れ』、創元推理文庫の『諜報作戦/D13峰登頂』のみ。ああ恥ずかしい。これではいかんというわけで、本日の読了本はアンドリュウ・ガーヴの『運河の追跡』。

 主婦のかたわらモデル業もこなすクレア・ハンター。やり手のビジネスマンの夫、アーノルド、一歳になる娘のクリスティーンと暮らし、傍目からは恵まれた一家だった。だが、徐々に明らかになるアーノルドの破綻した性格。クレアはそんな生活に耐えきれず、離婚を決意する。
 ところが離婚を承諾しないアーノルド。業を煮やしたクレアは娘を連れて別居するが、なんとアーノルドは娘を拉致し、返してほしければ離婚を取りやめろと脅迫する。クレアはやむなく警察に届けで、アーノルドはとうとう逮捕された。
 これで一件落着かに思えた。ところがアーノルドは、量刑が重くなろうともクリスティーンの居所を明かすつもりはないと宣言する。途方に暮れるクレアだったが、遂に自力で娘を捜索することを決心した……。

 運河の追跡

 小粒ながらキチッとまとめられた佳作。
 まず娘が拉致されるまでの序盤で、一気に物語に引き込まれる。倫理観の欠片もない夫アーノルドの性格破綻振りが凄まじく、どのようにこの男と対決するのだろうという期待が高まる。
 ところが中程で呆気なく夫は逮捕。実は物語のメインが夫との対決ではなく、娘を捜索する主人公たちの旅にあることが明らかになるという結構だ。
 こうして後半は主人公のクレアとカメラマンのコンビによる捜索の旅がメインになる。しかもただの捜索行ではなく、ボートに乗った運河の旅というのがひと味違う。いかにして娘を発見するかという興味はもちろんだが、ボートの操縦や田園の光景などがけっこう細かく描写され、冒険小説好きとかアウトドア好きにもアピールする趣向といえばいいか。

 惜しむらくは、この運河の旅に入ると、それまでの緊張感が薄れてしまうところ。秀逸な夫のキャラクターで前半を引っ張るだけに、それまでのハラハラ感がギアを一段落とした感じになり、サスペンスとしては少々物足りなさを感じてしまった。
 とはいえ、オリジナリティの高さ、ほどよいボリューム感、感情移入しやすい登場人物たちなど、そつなくツボを押さえた作りはさすが職人芸。気軽に読めるエンターテインメントとしてオススメである。
 これをきっかけに翻訳や復刊が進むことを切に希望する次第。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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