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 グラント・アレンの『ヒルダ・ウェード』を読む。日本で紹介されているのは論創海外ミステリの『アフリカの百万長者』しかないが、本国では百冊以上の著作を残した。ただし、最初はもっぱら本業の科学者としての著作ばかりで、小説を書くようになったのは教授職を退き、英国に帰ってからのことなる。
 また、小説にしてもミステリプロパーというわけではなく、あくまで大衆文学、ただし、扱うテーマは科学や宗教、哲学など、実に幅広いものだったようだ。

 そんなアレンの多彩な著作にあって、本作は『アフリカの百万長者』と同様、比較的珍しいミステリ寄りの作品である。雑誌連載中にアレンが亡くなったため、最終回をあのコナン・ドイルが書き上げたといういわくつきの一作でもある。二人が友人ということもあって出版社もドイルに白羽の矢を立てたようだが、二人の関係はドイルの自伝『わが思い出と冒険』にも言及がある。

 ヒルダ・ウェード

 さて、肝心の『ヒルダ・ウェード』だが、こんな話。
 聖ナサニエル病院に勤める看護婦ヒルダ・ウェード。しかし、彼女はただの看護婦ではなく、その類い稀な洞察力や記憶力によって、医学博士たちからも一目を置かれるほど優秀な看護婦だった。ヒルダは偉大な医学者として知られるセバスチャン教授のもとで働き始めたが、それは彼女のある大きな目的のための第一歩だった。
 そんなヒルダに思いを寄せるセバスチャン教授の助手、ヒューバート・カンバーレッジ。彼はヒルダの力になろうとするが、それによって自らも大冒険の中に飛び込んでゆく羽目になる……。

 ヴィクトリア朝時代の女性探偵ものであり、〈シャーロック・ホームズの姉妹たち〉を企画した平山雄一氏の翻訳なので、てっきり本作もその系統の短編集だろうと思って読み始めたが、これが予想とはちょっと違う路線で、それがかえって面白かった。
 確かに最初の一話、二話こそ連作短編っぽいミステリなのだが、早々にそのパターンは崩れ、ヒルダの目的が父の汚名を晴らすことにあり、そのカギを握るのがセバスチャン教授であることが明らかになる。そして二人の対立構造が明らかになると舞台は海外に移り、冒険小説さながらの展開となってゆく。
 まあ、ホームズもそうだけれど、この頃の英国ミステリはミステリといいつつ冒険小説や歴史小説、ゴシックロマンの成分が多い作品も少なくない。本作もそんなタイプの一つなのだろうが、この時代にあって自立する女性を描いたところがやはり注目に値するだろう。
 女性がまだ一段低く見られている時代にあって、多彩な能力を発揮し、男を逆にうまくコントロールする女性の姿は(少々あざといところもあるが)、当時、実に新鮮だったはずで、読者の心を強く打ったのではないだろうか。
 書かれた時代と物語の設定上、差別的表現が多くなるのは致し方ないところだが、全体的には楽しい一冊であった。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 論創海外ミステリで“ホームズのライヴァルたち”シリーズの一冊として刊行されたグラント・アレンの『アフリカの百万長者』を読む。まずは収録作。

The Episode of the Mexican Seer「メキシコの千里眼」
The Episode of the Diamond Links「ダイヤのカフリンクス」
The Episode of the Old Master「レンブラントの肖像画」
The Episode of the Tyrolean Castle「チロルの城」
The Episode of the Drawn Game「ドロー・ゲーム」
The Episode of the German Professor「ドイツ人の教授」
The Episode of the Arrest of the Colonel「クレイ大佐の逮捕」
The Episode of the Seldom Gold-Mine「セルドン金山」
The Episode of the Japanned Dispatch-Box「漆塗りの書類箱」
The Episode of the Game of Poker「ポーカー勝負」
The Episode of the Bertillon Method「ベルティヨン法」
The Episode of the Old Bailey「中央刑事裁判所」

 アフリカの百万長者

 本作は「クイーンの定員」にも選ばれた名短編集だが、ただの本格ミステリ短編集ではない。というより実は本格ミステリですらなく、百万長者と詐欺師の対決を描くコンゲームを扱った連作集なのだ。
 主要登場人物は南アフリカの百万長者サー・チャールズ・ヴァンドリフトと、その秘書を務める語り手のウェントワース(チャールズの義弟でもある)、そして二人と対決する詐欺師のクレイ大佐だ。

 対決とは書いたが、基本的にはクレイ大佐のワンサイドゲームである。毎回、手を変え品を変え、クレイ大佐がチャールズを見事に騙し、金を巻き上げていくという趣向。
 もちろんチャールズにしても莫大な資産を一代にして築いた男。頭も回るし、度胸もある。逆にクレイ大佐を罠にかけようと知恵を絞るのだが、こと犯罪の場においては相手が一枚も二枚も上手で、結局は一杯くわされる羽目になる。

 正直、詐欺のテクニックはそれほどのものではない。別人に変装できるというクレイ大佐の特技ありきのところもあり、コンゲームとしての魅力もまあそれに準ずるといったところだろう。短編とはいえそれらを続けて読まされると、少々飽きやすいのも事実だ。

 ただし、そういう単調になりがちなところを補っているのが、連作形式ならではのストーリーの膨らませ方だろう。最初は普通の詐欺話なのだが、同じ手を食わぬとばかりに相手の裏をかこうとし、それがまた裏をかかれて……という具合。
 それは単に詐欺のテクニックということだけでなく、チャールズとクレイ大佐の駆け引き、いわば心理戦に及ぶから面白いのである。しかもウェントワースも物語の語り手という立場以上に絡んでくるなど、ときには三すくみの駆け引きとなる。加えて互いに対する心情の変化やクレイ大佐の秘密が小出しになるなど、シリーズを引っ張る工夫もある。
 だから短編を単独で読んでも一応は楽しめるが、やはりこれは順番に読んだ方がいいだろう。一冊読んで初めて真価がわかるところもあるし、単にミステリ的興味だけで評価してほしくはない短編集である。

 しかし実は気になる点もないではない。それはクレイ大佐のチャールズに対する粘着ぶりだ。義賊があこぎな富豪を狙うというのはよくある構図だけれど、チャールズは確かに金には汚いのだが決して悪党ではない。なのにこれだけクレイが狙う理由や動機がいまひとつ伝わってこないのである。
 借金取り立てのために一家離散した家族の恨みを晴らすとか、それぐらいならこちらもクレイ大佐に喝采をあげたいのだが、いやいやこれではチャールズ可哀想すぎない?というのが正直なところ。
 このへん感じ方に個人差はあるだろうけれど、実はけっこう物語の原動力的なところだけに、最後まで気になった次第である。

 とはいえ本書のオリジナリティは高く評価したいし、今読んでも普通に楽しめるのは本当にすごいことだ(原作はなんと1897年刊行)。クラシックミステリ・ファンの一般教養として、必読といってもいいんではなかろうか。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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