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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

J・K・バングズ『ラッフルズ・ホームズの冒険』(論創海外ミステリ)

 J・K・バングズの『ラッフルズ・ホームズの冒険』を読む。
 タイトルからも想像できるように、シャーロック・ホームズのパロディ小説である。注目すべきは本書が数あるホームズパロディのなかでもおそらくは最初期に書かれたものだということ。しかも二種類の連作短編が入ったお得版である。

 作者のJ・K・バングズは主にユーモア小説を発表したアメリカの作家。ホームズ物語の熱烈なファンだったらしく、執筆の動機がふるっている。ホームズがモリアーティ教授と格闘の末にライヘンバッハの滝に沈んだのはファンなら誰もが知る有名なエピソード。リアルタイムでそれを読んでいたバングズはそれにショックを受け、これ以上新作が読めないなら自分で書いてしまおうと思いたったらしい。

 本書には、先に書いたように二種類の連作が収録されている。収録作は以下のとおり。

『ラッフルズ・ホームズの冒険』
Introducing Mr. Raffles Holmes「ラッフルズ・ホームズ氏のご紹介」
The Adventure of the Dorrington Ruby Seal「ドリントン・ルビーの印章事件」
The Adventure of Mrs. Burlingame's Diamond Stomacher「バーリンゲーム夫人のダイヤモンドの胸飾り事件」
The Adventure of the Missing Pendants「ペンダント盗難事件」
The Adventure of the Brass Check「真鍮の引き替え札事件」
The Adventure of the Hired Burglar「雇われ強盗事件」
The Redemption of Young Billington Rand「ビリントン・ランド青年の贖罪」
The Nostalgia of Nervy Jim the Snatcher「ひったくり犯にして厚顔無恥のジムの思い出」
The Adventure of Room 407「四〇七号室事件」
The Major-General's Pepper-pots「将軍の黄金の胡椒入れ」

『シャイロック・ホームズの冒険』
Mr. Homes Radiates a Wireless Message「ホームズ氏、霊界から通信を発する」
Mr. Homes Makes an Important Confession「ホームズ氏、ある重大な告白をする」
Mr. Homes Foils a Consoracy and Gains a Fortune「ホームズ氏、悪巧みに失敗しつつも一山当てる」
Mr. Homes Reaches an Unhistorical Conclusion「ホームズ氏、歴史をひっくり返す」
Mr. Homes Shatters an Alibi「ホームズ氏、アリバイを粉みじんにする」
Mr. Homes Solves a Quesion of Authorship「ホームズ氏、著者問題を解決する」
Mr. Homes Tackles a "Hard Case"「ホームズ氏、「難事件」にとりくむ」
Mr. Homes Acts as Attorney for Solomon「ホームズ氏、ソロモンの弁護士として活動する」
Mr. Homes Shatters a Tradition「ホームズ氏、伝説を粉砕する」
Mr. Homes' Final Problem「ホームズ氏、最後の事件」

 ラッフルズ・ホームズの冒険

 表題にもなっている『ラッフルズ・ホームズの冒険』は、ホームズだけでなく、同時代に活躍した怪盗ラッフルズのパロディにもなっているという凝りよう。ラッフルズを祖父に、ホームズを父に持つラッフルズ・ホームズの活躍を描いている。
 見どころはラッフルズ・ホームズを、祖父ラッフルズと父ホームズの二面性を持ったキャラクターとなっていることだろう。ラッフルズが強いときは盗癖がむずむずし、ホームズが強いときは正義の人として振る舞う。結果として、自分が盗んだために起きた盗難事件を、自分で解決して報酬をいただくというとんでもないストーリーが展開される。
 ただし、盗むのは概ねそれなりの事情があるし、基本的には勧善懲悪にまとめられているので、読者としては素直に喝采をあげられるのがよい。ときにはどうしようもなく盗みたいという欲求だけが先に立つ場合もあるが、そんなときは前もって、ワトソン役のジェンキンスにどんなことをしてでも止めてくれとお願いしているので一安心。いや、安心じゃないか(笑)。
 本格風味はそれなりのレベルだが、ホームズとワトソン役ジェンキンスの出会い、ラッフルズ・ホームズの誕生秘話なども書かれており、アホだなぁと思いながらも全体的には楽しく読める。

 『シャイロック・ホームズの冒険』も馬鹿馬鹿しさでは負けていない。こちらはライヘンバッハの滝に落ちて死んだホームズが、霊界でも名探偵として活躍するという物語である。『ラッフルズ・ホームズの冒険』にしても『シャイロック・ホームズの冒険』にしても、当時のファンからすると噴飯ものの気がしないでもないが(苦笑)、こちらもそれなりに楽しい。
 こちらの見どころは、ただの事件にするのではなく、歴史上の有名人を依頼人など事件の関係者に仕立てているところ。特にルコック警部を完全な引き立て役に設定するのは爆笑ものだが、これ、フランスからクレームが来なかったのかね? ただ、歴史上の有名人ではあるのだが、こちらの教養不足でそれ誰?というのが多くて困った。
 ちなみに解説によると、本家のホームズが復活した際、それを受けてちゃんとこのシリーズを終了させたらしい。ちょっといい話。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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