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 新年あけましておめでとうございます。

 今年もいつもと同じように寝正月で過ごす。朝イチで雑煮をつくり、おせち料理をつまみながら昼からワインを一本空け、近場の神社へ初詣。
 あとは特別変わったこともなく、暮れに録画してあった「RIZIN」を見ながらまたお酒とおせちという流れ。夜は早めにベッドへもぐりこんで読書三昧。いやあ、久々にゆっくりできて嬉しい。


 さて、今年一発目の読了本は論創ミステリ叢書から『牧逸馬探偵小説選』。
 牧逸馬は本名、長谷川介太郎。牧逸馬以外にも林不忘、谷譲次という三つのペンネームを駆使して戦前に活躍した作家である。
 論創ミステリ叢書からは林不忘名義の作品を集めた『林不忘探偵小説選』も出ているが、そちらは時代物がメイン。かたや牧逸馬名義の作品は犯罪実話もので有名だが、本書では初期のより探偵小説的な作品を集めている。また、米国体験記を多く発表した谷譲次名義の作品とはけっこう境界が曖昧らしく、これまでも単行本化される際にあまり厳密なルールはなかったようだが、本書でも発表時に谷譲次名義だった作品がいくつか混じっている。
 収録作は以下のとおり。

「都会冒険」
   「夜汽車」
   「襯衣」
   「一五三八七四号」
   「昼興行」
   「コン・マンといふ職業」
   「靴と財布」
   「島の人々」
   「うめぐさ」
   「首から下げる時計」
   「ネクタイ・ピン」
   「トムとサム」
「上海された男」
「神々の笑ひ」
「死三題」
   「鉋屑」
   「ある作家の死」
   「一つの死」
「百日紅」
「ジンから出た話」
「助五郎余罪」
「民さんの恋」
「山口君の場合」
「東京G街怪事件」
「砂」
「爪」
「赤んぼと半鐘」
「舞馬」
「一九二七年度の挿話」
「十二時半」
「ヤトラカン・サミ博士の椅子」
「碁盤池事件顛末」
「真夜中の煙草」
   「舶来百物語」
   「競馬の怪談」
   「西洋怪異談」
「七時〇三分」

 牧逸馬探偵小説選

 あくまで本書の作品にかぎっていうなら、牧逸馬の探偵小説の魅力はいい意味での軽さだろう。なかには重苦しい殺人などを扱ったものもあるけれど、オチを狙った小粋な作品に楽しめるものが多い。

 作品別に見ると、特にそれを表しているのが冒頭の「都会冒険」。ニューヨークの新聞記者ヘンリイ・フリント君を主人公にした連作短編で、ほぼ全編コン・ゲームを扱っているのが面白い。まあ、そうはいっても当時のコン・ゲームなので、今読むと内容的にはそれほど大したものではなく、まるでコントのような他愛ない作品がほとんど。だが映画のワンシーンを思わせるような雰囲気は悪くない。
 「上海された男」は巻き込まれ型のサスペンス風。こちらは軽みとは対極の作品になるが、終盤の展開が思いもよらないインパクトを生む。本書のベストだろう。
 「ジンから出た話」は入れ子細工が印象的でちょっと鬱陶しいぐらいだが、なかなか洒落た一席。
 「民さんの恋」は床屋の主人が客の喉をかき切るという出だしが衝撃的。その裏にある事件性も悪くない。

 まあ、一作ずつ見ると正直そこまでの作品はないのだが、こじゃれた雰囲気や文章が平易なこともあって、戦前の作品とは思えないぐらいすいすい読めるのはありがたい。これは当時であればかなり貴重なエッセンスだったはずで、人気の理由のひとつだったのではなかろうか。
 個人的な好みにはなるが、『林不忘探偵小説選』よりは楽しめたので満足である。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 論創ミステリ叢書から『林不忘探偵小説選』を読む。
 著者の本名は長谷川海太郎。三十五歳にして急逝したため活躍した時期は十年あまりと短いが、林不忘の他にも牧逸馬、谷譲次のペンネームで小説を量産した昭和初期の作家である。
 林不忘の名前では時代物、牧逸馬では犯罪実話小説、谷譲次では米国体験記というふうに、作品によってペンネームを使い分けていたが、最も知られているのは林不忘名義で残した”丹下左膳”のシリーズであろう。
 本書ではそんな林不忘名義で書かれた二つの捕物帖が収められている。ひとつは「釘抜藤吉捕物覚書」、もうひとつは「早耳三次捕物聞書」である。

 林不忘探偵小説選

『釘抜藤吉捕物覚書』
「のの字の刀痕」
「宇治の茶箱」
「怪談抜地獄」
「梅雨に咲く花」
「三つの足跡」
「槍祭夏の夜話」
「お茶漬音頭」
「巷説蒲鉾供養」
「怨霊首人形」
「無明の夜」
「宙に浮く屍骸」
「雪の初午」
「悲願百両」
「影人形」

『早耳三次捕物聞書』
「霙橋辻斬夜話」
「うし紅珊瑚」
「浮世芝居女看板」
「海へ帰る女」

 収録作は以上。牧逸馬名義の犯罪実話小説は現代教養文庫版で読んでいるが、林不忘名義の作品は短篇をいくつか読んだ程度で、まとめて読むのはこれが初めて。
 まあ時代小説は元からそんなに読む方ではなく、人形佐七とか若さま侍とか、ミステリ畑の作者が書いた捕物帖ぐらいでないと食指が動かない。一応、本書も帯には「丹下左膳の原作者による時代探偵小説」とあるのが心強い。

 さて実際に読んだ感想となると、ううむ、悪くはないが個人的にはあまり入り込めなかった。
 時代探偵小説という言葉に嘘はない。人情ものに偏ることなく、フェアとまではいかないがきちんと手がかりなども散りばめており、まずまず探偵小説としての要件は備えている。ミステリ成分は若さま侍あたりと比べても遜色ないといえるだろう。
 中にはどうみて怪談先行的な作品もあってジャンル統一感の無さは目立つけれども、若さま侍シリーズでも同様に本格探偵小説的作品と伝奇小説的作品が混ざっていたりするわけで、当時はこういうところが大らかというかルーズである。
 むしろ気になったのは、主人公キャラクターの造型の弱さ。釘抜藤吉、早耳三次ともにいまひとつ個性に欠け、印象が薄い。物語の出来そのものが他の捕物帖に比べて水を空けられているわけではないので、このキャラクターの弱さは惜しい。他の捕物帖のように現代まで読み継がれていないのは、正にこの点に原因があるのではないか。

 あと、これは個人的な好みになるけれども、文体がいかにも時代劇といった名調子のため、逆に物語に入っていけないのが困った。普通の文体ならもっと素直に読めるのだろうが、何かこう作りすぎる感じがして受けつけないのである。
 もちろん著者にすれば雰囲気作りに工夫した結果だろうから、筋違いっちゃ筋違いの文句ではある(笑)。

 というわけで少々ネガティヴな感想にはなってしまったが、出来そのものは決して悪くないし、捕物帖ファンなら押さえておくべき一冊とは言えるだろう。

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