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 横溝正史の『消すな蝋燭』を読む。出版芸術社の「横溝正史探偵小説コレクション」最終巻である。まずは収録作から。

「神楽太夫」
「靨」
「蝋の首」
「消すな蝋燭」
「泣虫小僧」
「空蝉処女」
「鴉」
「首・改訂増補版」

 消すな蝋燭

 このシリーズは埋もれたレア作品を発掘しつつ、各巻ごとに何らかのテーマをもたせるという、非常に素晴らしいコレクションなのだが、今回は岡山を舞台にした作品でまとめられている。
 そのテーマ自体はまあいいのだが、気になるのは、収録作が角川文庫で読めるものばかりだということ。唯一の例外は「首・改定増補版」なのだが、これにしても、つい二年ほど前に戎光祥出版から出た『横溝正史研究〈3〉』に収録されていたものなのである。
 正直、解説を読んだかぎりでもその意図がはっきりしないのだが、要は『横溝正史研究〈3〉』に収録された「首」はけっこう編集段階でのミスが多かったようで、それを改めたものらしい。で、これに絡める形で岡山ものという括りでまとめたというところか。
 まあ、間違いの訂正はやってくれた方がいいし、その他の短編も角川文庫に入っているとはいいながら、とっくの昔に絶版なので、出す意義は一応あるだろう。ただインパクトはこれまでに比べてずいぶん弱くなってしまったのが残念だ。

 純粋に読み物としてみた場合、収録作自体の質は高い。
 ほとんどが戦後間もない頃の作品で、正史がノリにノっている様子が作品を通じてビンビン伝わってくる。戦前作品に通じるロマンチズムと、本格として成立させるロジックの部分がきれいに融合し、しかも皮肉なオチを効かせた作品ばかり。
 似たようなシチュエーションやら人物名を使ってしまうクセは相変わらずで、特に「鴉」と「首・改訂増補版」の冒頭のそっくり度合いはひどいものだが(笑)、まあ、こういう混乱振りを含めて楽しめる。
 戦前作家は数々いれど、同時代の作家と比べると、やはり一枚も二枚も上を行っていた作家なのだなぁと再認識できる読書であった。


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 横溝正史の『迷路荘の怪人』を読む。出版芸術社から「横溝正史探偵小説コレクション」として刊行されている全三巻のシリーズが二巻増えることになり、その第四巻にあたる。

 迷路荘の怪人

 収録作は「旋風劇場」と「迷路荘の怪人」という中篇が二作。
 もちろん新刊とはいっても幻の新作などがあるはずもなく、これは現在、流通している作品『仮面劇場』と『迷路荘の惨劇』の元になった作品である。それぞれ今ではおいそれと読めるようなものではなく、これはこれで十分幻の作品といえるだろう。
 やっかいなのは、いや別にやっかいでもないのだが、これら中篇がそもそもオリジナルを改稿した作品であるということ。「旋風劇場」に至っては改題のみも含めれば、都合四つのバージョンがあるということになる。
 解説によるとこんな感じ。

「仮面劇場」(連載)→「旋風劇場」(加筆改題・単行本化)→「暗闇劇場」(加筆改題・長篇化)→「仮面劇場」(改題)

「迷路荘の怪人」(短篇)→「迷路荘の怪人」(中篇化)→「迷路荘の惨劇」(改題長篇化)

 横溝正史は改稿の多い人で、そういった改稿前のレア作品を集めた本『金田一耕助の新冒険』や『金田一耕助の帰還』もあるくらいだが、本書もその流れを汲む一冊といえる。まさに評論家泣かせ、研究者泣かせ。
 というわけで本来なら原型版や最終版と比べて差異などを検証するのがベストなのだが、とりあえず読めればいい管理人としては、そういう難しいことはやらず素直に感想だけを記すこととす(笑)。まあ、最終版を角川文庫で読んだのはずいぶん前なので、それなりに新鮮。

 まず「旋風劇場」だが、こちらは戦前の作品で探偵役は由利先生となる。まるで棺に見立てたかのようにして流されていた小舟。そこには目、口、耳が不自由な三重苦の美少年の姿。その少年を不憫に思って引き取ったのが災いの始まりだった……という一席。この三重苦の美少年という存在が、いかにも戦前の横溝作品らしく妖しげでよい。一発トリックにストーリー性も豊か、何より雰囲気がいい。
 かたや「迷路荘の怪人」は戦後の作品で金田一もの。こちらもどろどろした人間関係に印象的な殺人現場、旧家の因縁とお膳立てはばっちり。滑車に抜け穴、どんでん返しと、小道具もフル装備で横溝ワールドを満喫できる。ただ、両作品にいえることだが終盤のバタバタした印象がぬぐえず、やはり長篇化は正解だったのだろう。
 あくまでマニア向けの一冊ではあるのだろうが、蘊蓄抜きで読んでも楽しめるのはさすが巨匠の技である。


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 バンクーバー冬季オリンピックが始まりましたな。こういうスポーツイベントは根っから好きなので、時間があれば見る方だが、昨日はとりあえず開会式を堪能。
 で、冬季の開幕式でたまにあるのが、ショーの演出が変にアートに走りすぎる場合(こんなこと思ってるの俺だけ?)。スポーツイベントに過度に意味を持たせすぎる悪い例なのだが、こういうときは往々にして盛り上がりに欠け、見ていても全然わくわくしない。今回はフロアや客席までスクリーンとして使うなど、立体的な演出が多くて、シンプルな構成ながらもスケール感があって良かったんではないかな。ちなみに草原を駆け回っていた少年の演技や表情にすごく感心したんだけど、彼は俳優? モデル?
 選手の入場行進も楽しみのひとつ。一見退屈そうなんだけど、個人的にはこれがイチ押しだったりする。ユニフォームのデザインや着こなしも見どころだけど、入場時の選手たちの態度にお国柄がすごく顕れ、比較しながら観てるとむちゃくちゃ面白い。また、それに対する観客の反応もけっこう興味深い。選手個々は特殊な才能を持ったアスリートたちなんだけど、集団になるとやっぱり国民性がすごく出る。縮図だよなぁ。


 寝る前にベッドでぼちぼち読んでいた『横溝正史探偵小説選III』をようやく読み終える。『~I』『~II』に続いて本書も単行本未収録作が山ほど収録されており、そのボリュームは圧巻。収録作は以下のとおり。

■創作篇―推理小説
三津木俊介・御子柴晋の事件簿
「鋼鉄魔人」
「まほうの金貨」
「のろいの王冠」

「寄木細工の家」
「げんとうどろぼう」
「地獄の花嫁」

■創作篇―時代小説
智慧若捕物帳
「雪だるま」
「とんびの行方」
「幽霊兄弟」

「神変龍巻組」
「奇傑左一平―怪しき猿人吹矢の巻」
「白狼浪人」
「秘文貝殻陣」
「まぼろし小町」
「蝶合戦」

犯人さがし捕物帖「お蝶殺し」

■評論・随筆篇
探偵小説への饑餓/探偵小説と療養生活/
『蝶々殺人事件』の映画化について/映画にしたい探偵小説/
探偵小説の方向/獄門島顛末/めくら蛇におぢず―翻訳誌の思出/
新しい探偵小説/探偵小説の構想/森下雨村の好意―私の処女出版/
還暦感あり/推理小説万歳/推理小説を勉強中/
探偵小説五十年/佐七誕生記/人形佐七捕物控/
私の捕物帳縁起/『ドイル全集』訳者の言葉/
御存じカー好み/怪奇幻想の作家三橋一夫氏に期待す/
過程必備の書/ガードナーを推す/「魔術師」について/
エデン・フィルポッツのこと

 横溝正史探偵小説選III

 基本的には前の巻で収録できなかった現代物のジュヴナイル、そして出版芸術社から出た「横溝正史時代小説コレクション」全六巻からもれた時代小説を中心に編まれている。性格としては拾遺集以外の何者でもないのだが、それでも十分に楽しめる作品が多いのはさすが正史。
 特に、時代物でも子供向けのものがいくつか採られており、これがまたいい味なのである。子供向けということでより派手な展開を意識したか、長篇(中編?)の「神変龍巻組」なんて大人向きにリライトしてもらいたいぐらい楽しい読み物。歴史上では処刑されたはずの秀頼の忘れ形見、国松丸を中心に、敵味方それぞれの見せ場を作りつつ、ラストは……という具合で、いやいや素晴らしい。
 また、智慧若捕物帳と題した「遠山の金さん」の息子が活躍するシリーズは、けっこうしっかりしたミステリ仕立て。これもまた本格ファンをニヤッとさせる内容で満足。

 横溝の時代物といえば、個人的にはこれまで『髑髏検校』や「人形佐七」といった有名どころしか読んでいなかったのだが、出版芸術社や徳間文庫から出ている作品もちゃんと読まないとなぁ。反省。


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 昨日の神田古本まつりは、やはり一度ぐらいはのぞいておこうと思っていたら、小雨が降り出してあえなく玉砕。結局今年は縁がなかったということで。


 読了本は論創ミステリ叢書から『横溝正史探偵小説選II』。未発表作品「霧の夜の出来事」を含む『横溝正史探偵小説選I』も悪くはなかったが、本書でも単行本初収録となる作品をどかっと詰め込んだ大盤振る舞い。ジュヴナイル拾遺集ゆえの品質がちょいと気になるとはいえ、御大の未読作品がまだまだ読めるという事実に感謝。古本を探さなくとも古い作品は読めるのである、って負け惜しみですか。

 溝正史探偵小説選II

■創作篇
※三津木俊助・御子柴進の事件簿
「孔雀扇の秘密」
「赤いチューリップ」
「魔人都市」
「鉄仮面王」
「怪盗X・Y・Z/おりの中の男」

「怪人魔人」
「爆発手紙」
「渦巻く濃霧」、
「曲馬団に咲く花」
「変幻幽霊盗賊」
「笑ふ紳士」
「鋼鉄仮面王」
「薊を持つ支那娘」

※誰が犯人か?
「匂う抽斗」
「目撃者」

■随筆篇
「「大迷宮」について」
「子供のための探偵小説」
「ミステリー好きの少年少女諸君へ」

 収録作は以上だが、楽しいのはやはりシリーズ物の三津木俊助&御子柴進ものか。特に角川文庫版の『怪盗X・Y・Z』で収録されていなかった「おりの中の男」が読めるのは嬉しい。
 「怪人魔人」以下のノン・シリーズものは、短めの長篇といってもいいぐらいのボリュームのものもあり、こちらも読み応えあり。なかでも名探偵対怪盗の図式をきちっと踏まえた「変幻幽霊盗賊」は楽しい。また、「笑ふ紳士」は古典の某有名作品にかなりインスパイアされたような作品で(当時にはよくある話だけれど)、すぐにあんな作品やこんな作品が頭に浮かぶが、これを書いては興味半減だろうからここでは秘密。でもミステリ的ギミックに満ちあふれた作品で、話自体は面白い。

 ただ、これらを書いていた頃の正史は非常に多忙だったらしく、悪く言うと書き散らかしていたような部分も決して少なくはない。展開を急ぎすぎて説明不足だったり、あるいは唐突に終了したり、使い回しのネタがあったりという具合である。
 残念といえば残念だが、本書を好んで読むような人間は、そういうところも含めて興味や考察の対象なのだろうから、まあいいんだろうけど。さすがに一般のミステリファンに勧めるようなものではないが、横溝ファンなら間違いなく買いの一冊。


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 『横溝正史探偵小説選I』を読む。
 2006年に横溝正史の未発表原稿が発見されたのは、まだ記憶に新しいところだが、その作品を含めてこれまで単行本未収録だった作品をドカッとまとめたのが本書である。既に「II」も発売されているが(こちらはジュヴナイル中心)、いやあ横溝正史の新刊、しかも未読の作品ばかりをまとめた本が、こうして立て続けに発売されるという事実が凄いやね。マイナー作家ならともかく、なんせ横溝正史。つい先日は角川文庫の超レア本『横溝正史読本』も復刊されたし、まさに真打ち登場という感じか。

 横溝正史探偵小説選I

■創作・翻案編
「霧の夜の出来事」
「ルパン大盗伝」
「海底水晶宮」 
「恐ろしきエイプリル・フール」
「化学教室の怪火」
「卵と結婚」
「十二時前後」
「橋場仙吉の結婚」
「恐ろしき馬券」
「悲しき暗号」
「宝玉的道話集」
「お尻を叩く話」
「首を抜く話」
「博士昇天」
「足の裏 共犯野原達男の告白」
「五つの踊子」
「妻は売れッ子 甘辛夫婦喧嘩抄」
「黄色い手袋」
「五万円の万年筆」
「ドラ吉の新商売」
「コント・むつごと集」
「陽気な夢遊病者」
「堀見先生の推理」
「榧の木の恐怖」

 収録作品はこんなところ。これ以外にも評論系もたっぷりと収録されているのだが、ページ数でいえば創作系が7割弱を占めている。
 作品自体は初期のものが中心。『鬼火』等のドロドロした作風に到達する前、とにかく機会と必要あらば何でも書いていた時代で、純粋なミステリはそれほど多くはない。こじゃれた外国風のショートショートやコントみたいな作品がほとんどで、ユーモアとペースト、そしてオチの三大構成要素でもっていく。正直、作品そのものの質に大きな期待をしてはいけない。
 2006年に発見された作品「霧の夜の出来事」もやはりその手の作品で、ベースはコミカルなスリラーだが、テンポがいいので、よくいえばまるで昔の映画を観ているような雰囲気。
 むしろそれ以上に注目したいのは、「ルパン大盗伝」と「海底水晶宮」であろう。ともにルパンもののパスティーシュというか翻案であり、かなりやりすぎの嫌いはあるが、まあ楽しいことは楽しい(笑)。山本周五郎のホームズもの同様、熱烈なルパンのファンが読んだらどう思うかというような爆弾もしっかり(?)落とされていて、話の種には必須である(笑)。

 ちなみに本書がラインナップされている論創ミステリ叢書。判型がでかすぎるところが玉に瑕なのだが、解説が非常に充実している点は高ポイント。本書も相当な作品数が収録されているものの、ほぼ全作に渡って解題がある親切仕様である。なかには正史の作品かどうかが不明瞭なものまであるのだが、その根拠や経緯なども紹介したり、至れり尽くせり。
 できれば論創海外ミステリの方も、もう少し解説を頑張ってほしいものだ。なぜ同じ版元なのに、あちらはああも淡泊な形にしているのだろう?


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 横溝正史探偵小説コレクションの掉尾を飾る『聖女の首』を読む。

「金襴護符」
「海の一族」
「ナミ子さん一家」
「剣の系図」
「竹槍」
「聖女の首」
「車井戸は何故軋る」
「悪霊」
「人面瘡」
「肖像画」
「黄金の花びら」

 上から五作が戦時中のノンシリーズもの、次の五作が戦後に発表されたもので、金田一シリーズの原型になった作品。最後の一作はジュヴナイルの金田一ものという構成。戦時中の作品では、ミエミエながらも「ナミ子さん一家」が良い感じ。これって松竹新喜劇のパターンだよなぁ(笑)。
 戦後のものは、金田一作品として一度は読んでいるはずなのに、あまり内容を覚えていないおかげでどれも大変楽しめる。やはり謎解きという観点で見ると、戦後作品の方が明らかに一枚上であろう。「車井戸は何故軋る」は短いながらも当時の長篇に負けないぐらいの密度があり、好きな作品である。


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 横溝正史『深夜の魔術師』を読む。出版芸術社から出た横溝正史探偵小説コレクションの二冊目で、主に戦時中に書かれたプロパガンダ小説から採られたもの。海野十三の同様の作品等で、だいぶこの手の小説に慣れているつもりだったが、同じプロパガンダ小説でも作者が変われば内容もまた異なるのだという、当たり前のことを改めて実感する。
 つまり横溝正史の場合、プロパガンダ小説とはいえ、一般的なストレートに国威発揚を唱う内容はできるだけ避けようとしているのである。もちろん時節柄、限界はあるにせよ、これは海野十三をはじめとする当時の作家が書いた諸作品と比べれば一目瞭然である。「探偵小説は不穏当なり」というナンセンスな国策により、その活躍の場をほとんど失った正史の、ささやかな抵抗と見るべきか。本作に収められている作品は、横溝正史の本意ではないのかもしれないが、ある意味正史の戦いの歴史でもあり、ファンなら見逃すべきではない。

「深夜の魔術師」
「広東の鸚鵡」
「三代の桜」
「御朱印地図」
「沙漠の呼」
「焔の漂流船」
「慰問文」
「神兵東より来る」
「玄米食夫人」
「大鵬丸消息なし」
「亜細亜の日月」


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 ハリポタ新作発売日。前回ほどのバカ騒ぎにはなっていないようだが、それでも大書店のディスプレイはなかなか激しいものがある。まあ買い切りの初版200万部だから、売る方もそれなりに気合いを入れないと。売り時を逃すとえらいことになるしね。まあ、販売方法、小説の内容、翻訳等、とにかく批判されるネタには事欠かない本だが、これもベストセラーの宿命でしょう。当事者たちもあまり過敏にならず、もっと普通にやっていけばよいと思うのだが、なかなか思うようにはいかないのかも。
 そういえば海の向こうでは『ダ・ヴィンチ・コード』もかなり問題になっているようで、これも根っこは同じだな。

 読了本は横溝正史の『赤い水泳着』。出版芸術社から「横溝正史探偵小説コレクション」という名で出されたシリーズの第一弾。基本的には昭和四十年以降の著作集に収録されていない作品を紹介するものらしいが、その割には角川文庫に収録されているものもそこそこ混じっている。まあ、何らかの事情はあったのだろうが、この手の本を買う人なら、絶版といえどもかつての角川横溝の大半は入手しているだろうし、ちょっと残念である。だが、とりあえずは出版芸術社および編者の労作に対して、素直に敬意を表したい。
 さて肝心の中身だが、本書は横溝正史の作品集とはいえ、収録されている作品群はたいていが長らく放置されていたものばかり。本書はそれを拾いつつ、横溝正史の執筆の変遷もたどってみようというコンセプトもあるため、何よりも資料的価値が重要なのだ。探偵小説としての成果を過度に期待するのは、はなから酷なわけである。ところがどうして、確かに諸手を挙げて絶賛するほどではないが、満更すてたものでもない。
 特に初っぱなの「一個のナイフより」などはクリスティーの有名トリックを彷彿とさせるのだが、なんと正史の方が先に書いているというではないか。そりゃクリスティーの方がしっかりした形にはしているが、こういう発想がすでに成されていたという事実が凄い。
 謎解きではないが、「盲人の手」も正史ならではの怪奇趣味が出ていて個人的には好きな作品だ。皮肉なオチがなくともそのフェチな過程だけで十分読ませる。
 ともかく、久々に横溝ワールドを堪能できたことに、あらためて感謝!

「一個のナイフより」
「悲しき郵便屋」
「紫の道化師」
「乗合自動車の客」
「赤い水泳着」
「死屍を喰う虫」
「髑髏鬼」
「迷路の三人」
「ある戦死」
「盲人の手」
「薔薇王」
「木馬に乗る令嬢」
「八百八十番目の護謨の木」
「二千六百万年」


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 『横溝正史自伝的随筆集』(角川書店)を読了。これはすごい。正直ちょっと感動した。

 かつて横溝が残した数々のエッセイ。これらを集めて自伝として読めるように構成した随筆集が本書である。
 大きく分けると前半が中学頃までの思い出、後半は乱歩に出会って以降の回想となる。はっきり言って後半は特別新味があるわけでなく、他の書籍でもわりと簡単に読むことができる内容だ。だが前半は違う。雑誌「幻影城」で連載され、途中で中断したものだけにそうそう読む機会はないうえ、あまり語られることのなかった幼少から中学生あたりにかけての話である。
 しかも内容がまたすごい。私小説がウリの純文学系作家ならいざ知らず、すでに名声を確立したエンターテインメント作家のものとは思えないほど赤裸々に過去を暴露してゆくのだ。駆け落ちした両親、早くに亡くなった母親、父親の再婚、兄弟姉妹への複雑な感情、正史自身の盗癖や初めての夢精、マスターベーションにふける毎日……。いやというほどのコンプレックス、自己嫌悪を、まさか横溝正史がかつてここまで克明に綴っていたとは知らなかった。
 ミステリに関する話は、幼少の頃なので決して多くはないのだが、それでも金田一耕助の吃音癖の由来や『八墓村』の小梅、小竹ばあさんのモデルの話なども出てくるため、見逃すことはできない。
 とにかく、あらためて横溝正史は偉大なのだと実感。横溝ファン必読。


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 どうも朝から鼻は詰まるわ目はショボショボするわで、風邪のひきはじめのようだ。相方に話すと、「まるで花粉症みたい」。おお、これが花粉症の症状か! いまだ花粉症には縁がない古代人だが、今年は予断を許さないかも。

 さて、本日の読了本はゲテモノといってよい。江戸川乱歩&横溝正史による共著『覆面の佳人』。初出は昭和四年の「北海タイムス」だが、その連載が以後一冊の本にまとめられたことがなく、1997年に春陽文庫で初めて纏められたという珍品。
 なぜ、このビッグネームが今まで本にならなかったのか? 最初は不思議だったのだが、解説を読んで納得、本編で二度納得。

 まず乱歩と正史の組み合わせはすごいけれど、解説によると実はこれがほとんど正史一人による作品らしく、乱歩は名前を貸しただけだったらしい。当時正史は著書が一冊きりの駆け出し作家。版元が乱歩の名前でセールスアップを図ったというところか。

 二つめの理由として、これが二人のオリジナルの作品ではないということも挙げられるだろう。新聞連載だったこともあり、正史は黒岩涙香の翻案というスタイルを踏襲しようと考えたようで、白羽の矢がたったのは、正史が当時注目していたアンナ・キャサリン・グリーン。しかも連載当初は補訳者として「乱歩・正史」の名があったそうなので、そもそも最初は翻訳であったようだ。それが回を重ねるにつれ、正史が徐々にオリジナル要素を加味していった模様。どの程度、原作との違いがあるのか、一度原書と読み比べてみたいものだが、私の英語力では時間がかかりすぎるので、誰か教えてください。

 そして三つ目の理由だが、や、やっぱり、質そのものがイマイチ。序盤は意外と動きのある展開に、「おお、なかなかいいじゃないか」などと密かに期待しておりました。ぬか喜びにならなければよいが……という杞憂もあったのだが……やっぱりぬか喜びでした。
 動きのあるストーリー展開も必然ではなく、新聞連載という性質上、次回へつなぐことを考慮した展開なので、けっこう無理矢理なものが多く、中盤まで誰が主人公なのか、味方か敵かもわからない始末。まあ、それはそれでスリルがあるのだが。
 また、事件のカギを握るある重要人物について、とても同一人物とは思えない性格描写があったりとキズの枚挙にはいとまがない。ラストで明かされる犯人像とトリックに、後年の正史を彷彿とさせる部分があるくらいか。

 結論としては、どう考えてもマニア以外読む必要のない作品。あ、でも私は乱歩と正史を愛する人間なので、こんな作品が文庫で読めることに感謝するばかり。実際、アホらしいと思いながらも、読むのは苦痛ではなく、けっこう楽しく読むことができたしね。春陽文庫さん、ありがとう。いや、ホントだってば。


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