最近Twittreで論創海外ミステリの近刊予告が立て続けに発表されている。 フィルポッツにロジャー・スカーレット、レックス・スタウト、フレドリック・ブラウン、ハリー・カーマイケル、マーガレット・ミラー、ミニヨン・G・エバハート、アントニー・ギルバート、J・S・フレッチャー、ケネス・デュアン・ウィップルなどなど、いったいいつの時代のミステリ全集だと思うほどだ。
だが、あまりに凄すぎてむしろ心配になるのも事実(苦笑)。月に三冊とか、正直そんなに頑張らなくてもいいから(苦笑)、とにかく長く続けてほしいというのが本音である。近年でミステリから撤退したり倒産した会社というと、長崎出版に新樹社、晶文社、武田ランダムハウスジャパンなど決して少なくないわけで。
そんなわけで本日もエール代わりに論創ミステリ叢書から一冊読む。ものは『西尾正探偵小説選II』。
先日読んだ『西尾正探偵小説選I』が戦前作品のみのラインナップだったのに対し、本書は戦後作品を中心に収録している。とりあえずこの二冊でほぼ西尾正全集となる。

「跳び込んで来た男」
「月下の亡霊」
「試胆会奇話」
「地球交響楽」
「守宮の眼」
「路地の端れ」
「幻想の魔薬」
「歪んだ三面鏡」
「紅バラ白バラ」
「八月の狂気」
「墓場」
「人魚岩の悲劇」
「怪奇作家」
「女性の敵」
「焼ビルの幽鬼」
「謎の風呂敷包」
「地獄の妖婦」
「誕生日の午前二時」
「海辺の陽炎」
収録作は以上。上から四作品が戦前のもので、「守宮の眼」以下が戦後作品となっている。
ところでこれまで西尾正の評価されてきた作品は多くが戦前ものだったという。解説によると、あの中島河太郎が、戦後作品について”粗製乱造”という評を下したことがあり、それが六十年代から70年代にかけて起きた古典作家再評価にも持ち越され、評価されるべきはごく一部の戦前作品のみというイメージが定着してしまったという。
確かに中島河太郎の言いたいことはわかる。当時の一線級と比べても明らかに分が悪い。馬鹿馬鹿しい設定もあるし、落としどころを外しているというか、ストーリーが練りきれていない印象の作品も多い。
とはいえ語り口の面白さ、怪奇小説としての密度は悪くないし、戦後作品にはバリエーションも増えて、一概に切って捨てることもないだろう。
特に異常心理や狂気を扱いつつも、その切り口を怪奇小説から探偵小説に寄せている作品にはけっこう面白いものが多いように感じた。「怪奇作家」や「女性の敵」はその代表的なもので、本書中のトップグループに入る出来だ。
そのほか印象に残ったものとしては、怪奇というよりSF的な味わいの作品。そちらの代表は何と言っても「地球交響楽」で、完全音楽によって概念を直接聞く者に伝えるという内容。この発想はなかなかぶっ飛んでいて、海野十三の作品といっても通りそう。「歪んだ三面鏡」もSF系の作品だが、こちらは見事な失敗作。
正統派怪奇小説としては「墓場」が読み応えがあるが、ただ、これってどうみても明らかにラヴクラフトのパクリだよな(苦笑)。まあ、時代が時代なのでそこまで厳しく言うほどのものでもないんだろうけれど。
というわけで全体的には玉石混交、おそらくは石の方が多いんだけれども、こうして西尾正の成果をまとめて読めることができて十分満足。ごちそうさまでした。