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 ジョージェット・ヘイヤーの『グレイストーンズ屋敷殺人事件』を読む。
 創元推理文庫で『紳士と月四の晒し台』『マシューズ家の毒』を読んだのが、もう六年ほど前。ちょうど本書が刊行された頃で、内容もわからないのにあまり溜めるのもまずいと思い、まずは創元の二冊を片付けたわけだ。
 そのときの感想はブログにもアップしているとおりで、まあ甘く見て“一勝一引き分け”といったところか。二番目に読んだ『マシューズ〜』のほうがよくできていた印象だったが、一気に本書を手に取るところまでいかなかったのは、そこまでフックを感じさせるところがなかったからだろう。
 ということで久々に読んだジョージェット・ヘイヤーの一冊。

 こんな話。
 1937年初夏のロンドン郊外。グレイストーンズ屋敷で資産家の遺体が発見される。さっそく捜査が開始され、ハナサイド警視の指揮のもと、ヘミングウェィ巡査部長は遺体の発見者である警官グラスとコンビを組む。
 ところが凶器と思われる鈍器は発見されず、その夜には屋敷に複数の人物が出入りしていたことがわかり、それぞれの証言が微妙に食い違うことで捜査は紛糾する……。

 グレイストーンズ屋敷殺人事件

 ミステリとしてのポイントは、凶器の正体とその行方、そして殺人が行われたその前後数分間の各人の行動、この二つである。
 特に後者については、作中で繰り返し聞き込みや証言、推論が反芻される。まともにいくとかなり冗長で退屈な話になりかねないのだが、作者はそこで例によってクセありまくりな登場人物たちを配し、非常にユーモラスな会話で進めてゆくので、退屈さはだいぶ緩衝される。また、それが真実をカモフラージュする手でもあるのだ、
 このやり方は前二作でも顕著で、著者の持ち味といえば持ち味なのだが、人によってはこのユーモラスな会話が逆にだめだという人もいるだろうから諸刃の剣ともいえる。
 揃いも揃って嘘はつく、人を小馬鹿にするなど、まあ聴き取りをする警察が気の毒になるほど鬱陶しい人物ばかり(苦笑)。まあ、今回は警察側にもやたらと聖書の引用ばかりして、人をいらつかせる警官グラスもいるので、そうなると最大の被害者は読者といえるかもしれない(笑)。

 ただ、本作においては正直やりすぎの嫌いはある。話がくどくなるのもあるし、何よりいろいろな可能性を繰り返し探っているから、逆に真相がわかりやすくなってしまうのである。「刑事たち、この可能性は考えてないよね」というのに気づきやすい。
 それに合わせて凶器の謎も想像がついてしまうし、そこが実に悔やまれるところだ。

 しかし、そういった欠点もあるにはあるが、作品の価値を決定づけるメインのアイディアはよい。ある事実が明らかになると、すっとすべてが理解できる気持ちよさがあるのだ。これ、本格にはけっこう重要な要素である。
 クセのあるキャラクターのやりとりも含め、個人的には楽しめた一冊だった。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ジョージェット・ヘイヤーの『マシューズ家の毒』を読む。
少し前に読んだ一作目『紳士と月夜の晒し台』は、感情移入しにくいタイプの登場人物が繰り広げる会話がとにかく印象に残ったものの、ミステリとしては重要なポイントでミスをするなど、全体の出来としてはいまひとつといったところだった。 
 セイヤーズもその実力を認めた実力派とは帯の謳い文句だが、結局は創元推理文庫でもここで翻訳が止まっているだけに、ちょっと嫌な予感もしたのだが、まあ、とりあえずこの時代の作家は自分的には必読なので、とりあえず読むことにする。

 まずはストーリー。実業家のグレゴリー・マシューズは一族を牛耳る暴君。一筋縄ではいかない兄弟甥姪を圧倒的な存在感で仕切っていたが、ある朝、ベッドで死亡しているところをメイドに発見される。遺産の相続やら何やらでたちまちてんやわんやとなる親族だったが、死因がニコチン中毒で、おまけに他殺が判明した。
 さっそくハナサイド警視が捜査に派遣されるが、証拠物や故人の部屋はすでに掃除されたあとだった。動機や恨みを持つものは山ほどいるが、例によって決め手がまったくなく……。

 マシューズ家の毒

 お、悪くない。シリーズ一作目の特徴はそのままに、全体的にレベルアップした感じとでもいおうか。前作で気になったミステリ的な粗も本作では目立たず、驚くようなトリックとかはないけれども十分に水準に達した印象である。
 読みどころはやはり登場人物たちのハチャメチャな会話になるのだろう。登場人物のほとんどが感情移入しにくい、要はうざい連中ばかりで、その連中がまた相手構わず毒舌を吐きまくるのは前作同様、いやそれどころかこちらもパワーアップしている印象だ。表面的なやりとりだけ追っていっても面白いのだが、このやりとりの中に真実や虚構が入り混じるから、作者もなかなか巧みになっている。

 こういった会話の妙に加えて、もうひとつ作者の武器となるのがロマンスの要素。ミステリに恋愛要素などは不用だといったのは誰だったか。本作が書かれたのは1936年だが、この時点ですでにその考え方が誤りだったことが証明されているといっても過言ではないだろう。
 なんといっても本作においては(前作もだが)、この恋愛要素がただの飾りではなく、プロットに密接に取り込まれている点が見事だ。

(以下、ネタバレ含むのでご注意)

 特に感心したのは、この恋愛のご当人(厳密には男性の方)が、実は本作の探偵役であること。
 前作も本作も、一応はハナサイド警視とヘミングウェイ刑事のシリーズ作品。一見すると警官を主人公にしたオーソドックスな本格タイプなのだが、本質としては、事件関係者の一人がヒロインと恋仲になり、事件も解決してみせるという、いわば巻き込まれ型に近いスタイルなのである。
 これはヘイヤーが本来書いていた歴史ロマンスの骨格を、本格ミステリと融合させたスタイルということもできる。結果として登場人物たちが単なるパズルのコマではなく、生き生きとした存在感のあるキャラクターになったように思うし、犯人役と探偵役を同時に探す楽しみも増える。

 最初はハナサイド警視が地味だとか、脇役に回ることに違和感があったのだが、むしろこれが作者の狙いなのかなと考えるとスッキリする。単品ならともかく、この形をシリーズ化したのが素晴らしい。
 といっても二作読んだだけなので、果たしてこのままのスタイルでこの後の作品を書いたかどうかは不明(笑)。残る論創海外ミステリの『グレイストーンズ屋敷殺人事件』を読めば、このあたりももっと判明しそうだ。


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 ジョージェット・ヘイヤーの『紳士と月夜の晒し台』を読む。あまり馴染みのない名前だけれど、森氏の『世界ミステリ作家事典 本格派篇』にもちゃんと載っている、歴とした黄金期のミステリ作家。四年ほど前に創元から二冊刊行されたものの、なんとなく食指が動かなくてしばらく積んでいたのだが、今年に入って論創海外ミステリからも刊行されたため、そろそろ潮時と思って読み始める。

 ロンドンから程近くにある小さな村アシュリー・グリーン。深夜、その村の広場にある晒し台で、両足を突っ込んだまま死んでいる男が発見された。被害者はロンドンで会社を経営するアーノルド。地元警察は被害者が地元民ではないと知るや、早々にスコットランドヤードに応援を頼み、ロンドンからハナサイド警視がやってくる。
 捜査は意外に難航した。アーノルドは日頃の言動から敵が多く、容疑者だらけだったのだ。アーノルドの腹違いの弟ケネスに妹アントニア、その婚約者メジャラー、さらには死んだと思われていたアーノルドの兄ロジャー。しかし動機は山ほどあるが決定的な証拠はない。おまけに彼らの誰もが変人だらけで……。

 紳士と月夜の晒し台

 上で著者に馴染みがないとは書いたが、実はジョージェット・ヘイヤー、歴史ロマンスの世界ではなかなかの大家らしく、なんとミステリ以外での邦訳作品が既にいくつかあるとのこと。ううむ、まだまだ知らないことは多いのう。

 それはともかく。ロマンスの書き手らしく、ストーリーは登場人物たちの恋愛模様も巧く織り交ぜつつ、関係者の推理合戦的様相で読ませるという、なかなかの芸達者振りを披露している。正直、推理合戦というより半分は無駄口、おふざけといったもので、とにかくそのやりとりが非常に面白いというか神経に障るというか(苦笑)。大した展開があるわけではないけれど、ページターナーであることは間違いないだろう。
 一方でミステリ的興味で読ませるかとなると、こちらはやや苦しいところだ。本格としてのフォーマットはまずまず、伏線なども一応はあるけれど、肝心の決め手になる部分の出し方は上手とはいえないし、表題にもなっている晒し台のネタは腰砕け。もうひとつ肝を外している感じは否めない。
 邦訳はまだ二作残っているから性急な結論は避けたいが、このレベルが続くようなら辛いかな。


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