今さら論創社が何を出しても驚かないのだが、それでもこれには驚いた。本日の読了本はサッパーの『恐怖の島』。
サッパーは1910年代から1930年代にかけて活躍した作家で、もともと軍人あがり。後方部隊で待機中があまりに暇だったからという理由で小説を書き始め、その後、作家に専念したという変わり種である。主に通俗的なスリラーを書き、当時はかなりの人気を集めていたようで、我が国でも『新青年』に短編が掲載されたり、単行本もいくつか出版されている。
だが悲しいかな、当時のこういう作風の書き手、サッパーをはじめJ・S・フレッチャーとかエドガー・ウォーレスとかは、今ではほとんど読まれることがない。二つの大戦に絡んだ時期ということも影響しているのか、内容は一時の暇つぶしというか軽い娯楽に徹したものばかりだから、あえて今読む必要性は確かに低い。せいぜいが歴史的な価値ぐらいで、根本的に需要がないことは容易に想像できる。
ただ、当時の空気感とか国内外の情勢とかが盛り込まれたこれらの作品に、なかなか捨てがたい味があるのも事実。クラシックブームに乗っかって代表作ぐらいは紹介が進めば嬉しいかぎりである。まあ、代表作だけで十分な気はするけれど(笑)。

ではストーリーからいってみよう。
主人公は世界中を冒険して巡り、その名を広く知られる冒険家ジム・メイトランド。久々に帰国したのはいいが、従兄弟につかまり若者の集まるパーティーに出席する羽目になった。おまけにそこで紹介されたジュディという女性に、南米にいる弟のことで相談を受けてしまう。しかもその内容が宝島を見つけるということで、話半分に聞いてしまうジムである。
ところがその帰り道。一発の銃声を聞きつけたジムは、好奇心を抑えきれずその現場と覚しき館へ潜入する。そこで見つけたのはジュディとそっくりの男性の死体だった。果たして彼こそジュディの言っていた弟なのか……。
序盤はご覧のような巻き込まれ型サスペンスで幕を開ける。巻き込まれ型というよりは自分で飛び込んでいったような感じではあるが、掴みとしてはベタだけれども悪くない。
物語はここからある島に隠された財宝をめぐり、敵と味方の宝の地図争奪戦となり、徐々にテンポ&スケールアップ。最終的には宝島へ上陸するが、そこには人知を越えた怪物がいてさあ大変……という一席。
印象としてはサスペンス→スリラー→秘境伝奇小説という流れであり、シリアスからホラ話へと物語が膨れあがっていくのが楽しくもあり馬鹿馬鹿しくもありといった感じ。ネット上の感想を見る限りではあまり評価が高くないようだが、それもむべなるかな、といったところだろう。
だが管理人のようなモンスター&秘境伝奇小説好きにとってはこういう展開は望むところであり、思ったよりは全然楽しめた。
ほどよいテンポで繰り出される謎とアクションとロマンスはやや盛り沢山すぎるが、読者を楽しませることをまず第一に置いたサービス精神は立派。英国冒険小説の伝統を感じさせるスマートな語り口もよい。
財宝発見の件や怪物との戦いなど、ツボもまずまず押さえているし、とりわけ怪物の出し惜しみっぷりが意外に巧くて、サスペンスをうまく盛り上げている。
繰り返しになるけれど、もっとひどいレベルを想像していただけに、これぐらいやってくれれば十分。この水準ならサッパーの代表シリーズ、ブルドッグ・ドラモンドものも一度は読んでおきたいので、論創社さま、よろしくお願いいたします。