暑い夏はやっぱりホラーですかということで、ブロックに続いてジェームズ・ハーバートの『鼠』を読んでみる。
カバーにはSF長編小説などと謳っているが、中身はいわゆる動物パニックもの。SFというよりはホラーといったほうが適切なのだが、当時はホラーという言葉自体が定着していなかったのでやむなくSFという呼称を使ったのだろう。

ストーリーはあって無きがごとし。ロンドンを舞台に人間と巨大な人食いネズミの戦いを描く物語である。 まあ、基本ゲテモノなので、好きな人しか読まないだろうが、これがなかなか悪くない。
序盤はネズミが人を襲うようになっていく過程を、様々なエピソードで語っていく。そのいくつかのエピソードに登場する人物の中から、一人のジュニア・ハイスクールの教師にスポットが当てられ、やがてその教師を中心に物語が回っていくという仕組み。また、前半は忍び寄る恐怖でサスペンスを煽り、後半はネズミとの戦いをスリル満点に描くという結構である。
シンプルなネタだけにどれだけ小説として膨らませられるかがポイントなのだが、著者は本作がデビュー作であるにもかかわらず、実にこの辺りをうまく処理していて、上のような構成の妙に加え、物語のスピード感、端役への細かな設定(このへんキングと似ている)、終盤のどんでん返しやラストのくすぐりもしっかりツボを心得ていて、心憎いかぎりである。
最近の動物パニックものと比べると科学的考証部分の味付けが薄く、社会的メッセージ(自然破壊とか、ですな)もとってつけたようなレベルなので、これだけ褒めていても結局B級であることは隠しようもないのだが(苦笑)、動物パニック好きとしては押さえておきたい一品である。
ちなみに映画『ジョーズ』の大ヒットをきっかけにして一大ブームを巻き起こした動物パニックというジャンルだが、動物パニックをネタにした映画や小説はもちろんその前から存在しており、本作が書かれたのも1974年(『ジョーズ』公開は1975年)である。『ジョーズ』の二番煎じを狙ったわけではないというのは、著者の名誉のためにも記しておこう(笑)。