リチャード・カーチスの『スクワーム』を読む。
先日、感想をアップしたジェームズ・ハーバートの『鼠』同様、動物パニックものの一冊だが、本作のネタはなんとミミズやゴカイである。動物パニックものというジャンル自体に既にB級臭が漂っているのに、肝心の動物がミミズともなるとゲテモノもいいところである。
小説の出来を云々する以前に生理的に受けつけない方も多いだろうが、実は世の中広いものでこういうものをあえて楽しむ人も少なくない。実際、本作は映画化され、日本でも公開されている作品なのである。
アメリカはジョージア州の田舎町フライクリーク。年頃の娘ジェリーは父を亡くし、妹と母の三人で暮らしている。ジェリーのこの夏の楽しみは、ニューヨークに住む恋人のミックが訪ねてくることだった。
ところがミックがやってくるという当日、町を嵐が襲った。切れた高圧線が地下に流れ、その作用で地下に潜む何百万というミミズが凶暴化し、地表に沸いてきてしまう。そんなこととは露知らず、ジェリーは幼なじみロジャーからトラックを借り、ミックを迎えにゆく。実はジェリーに想いを寄せていたロジャーはそれが面白くなく、静かに怒りをたぎらせていく。
一方、ジェリーと落ち合ったミックは、途中に立ち寄ったカフェで飲み物を注文するが、その中にミミズを発見する。店の人間に文句をつけるが、目を話した隙にミミズはいなくなっており、ミックは町の人間から誤解を受けたまま店をあとにする……。

『鼠』は都会を舞台にし、人間と鼠の真っ向勝負を描いていたが、本作の構図はまったく対照的。田舎町を舞台にした、あくまで局所的な物語である。ミミズの存在はなかなか表面化せず、危険は水面下からじわりじわりと忍び寄ってくる。全体的にはパニックものというより、ホラーや怪談に近いスタイルといえるだろう。
ミミズだけではストーリーを膨らませにくかったのか、ロジャーの存在を絡ませているのがポイントで、グロい描写を含め、意外にリーダビリティは高い。ミミズやゴカイが凶暴化する科学的根拠はもう少し理屈をつけてほしかったが、まあつけたからどうというものでもないんだが(苦笑)。
まあ、さすがに広くオススメはしないが、類を見ない内容だけに動物パニック好きなら押さえておきたい。
蛇足その一
この本が出た頃のサンケイノベルスはやたらホラー、特に動物パニックものを出していて興味深い。『スクワーム』や『鼠』以外にも『犬』『猫』『霧』なんてのがあるのだが、中身以前に当時の売れ行きが気になる。これだけ矢継ぎ早に出ていたのだか、らそれなりに人気はあったと思うのだが。
蛇足その二
著者のリチャード・カーチス Richard Curtisは、『ラブ・アクチュアリー』の監督や『ブリジット・ジョーンズの日記』の脚本を手がけるリチャード・カーティス Richard Curtis(ニュージーランド出身1956年生)とは、おそらく別人。
混同しているサイトもあるようだが、活躍する時代も微妙に異なるし、国籍もおそらく違う。何より作風が違いすぎる。ただ、いかんせん『スクワーム』のリチャード・カーチスの情報が少なすぎて断定はできない。ご存じの方がいたらご教示を請う。