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 ケン・リュウの短篇集『生まれ変わり』を読む。最近、文庫落ちし、三月には新作短篇集も出る予定らしいので、そろそろ消化しておかねば、ということで。
 まずは収録作。

The Reborn「生まれ変わり」
The Caretaker「介護士」
Running Shoes「ランニング・シューズ」
The MSG Golem「化学調味料ゴーレム」
Homo floresiensis「ホモ・フローレシエンシス」
The Visit「訪問者」
The Plague「悪疫」
A Brief and Inaccurate but True Account of the Origin of Living Books「生きている本の起源に関する、短くて不確かだが本当の話」
The People of Pele「ペレの住民」
Dispatches from the Cradle: The Hermit-Forty-Eight Hours in the Sea of Massachusetts「揺り籠からの特報:隠遁者──マサチューセッツ海での四十八時間」
Seven Birthdays「七度の誕生日」
The Countable「数えられるもの」
Carthaginian Rose「カルタゴの薔薇」
The Gods Will Not Be Chained「神々は鎖に繋がれてはいない」
The Gods Will Not Be Slain「神々は殺されはしない」
The Gods Have Not Died In Vain「神々は犬死にはしない」
Echoes in the Dark「闇に響くこだま」
Ghost Days「ゴースト・デイズ」
The Hidden Girl「隠娘(いんじょう)」
Byzantine Empathy「ビザンチン・エンパシー」

 生まれ変わり

 いやあ、凄い。相変わらずの面白さである。
 ケン・リュウの日本での短篇集は本書で三冊目となるのだが、そのすべてが面白いとはどういうことか。なんせ日本での短篇集は本国のオリジナルではなく、日本で独自に編纂されているものばかり。まあ普通なら面白いものを優先するだろうし、二冊目、三冊目の出来はだんだん落ちてくるだろうと思うではないか。
 ところが、まったくそんなことはない。レベルが落ちるどころか、ますます面白くなってくる。語りだけでなく、何より発想が求められるSFというジャンルにおいて、このレベルで安定して作品を発表できることに恐れ入るばかりだ。

 内容も非常にバラエティに富んでいる。第一短篇集の『紙の動物園』こそ、ノスタルジーを強く感じさせるものや東洋的な風味の作品が目立ったが、続く『母の記憶に』、そして本書では、ハードなSFやコミカルなものまで、さらにアイデアに富み、幅が広くなっている印象だ。
 ただ、そんな多彩な作品群でありながら、著者のテーマは意外と絞られており、しかもオーソドックスに思える。
 それはマイノリティとして生きることの意味。さらには人間が科学や未来に対してどう折り合いをつけていくかという問題である。それらはSFや純文学における普遍的なテーマといってもよいのだが、著者は新しい衣を着せることで実に面白い物語に仕上げているのである。

 特に気に入った作品としては、まず表題作の「生まれ変わり」。地球にやってきた異星人の管理のもと、地球人は記憶を改変され、“生まれ変わり”として暮らしているが、その失われた記憶の存在に気づいた主人公は……という展開がSFとしてはもちろんだが、ハードボイルドな雰囲気も悪くない。
 続く「介護士」もいい、未来のロボット介護の様子を描きつつ、介護問題に収まらないところが鮮やか。ワンアイディアの勝負ではあるが見事にやられた。
 「ランニング・シューズ」は抒情派。ベトナムの靴工場で働く少女が、なんとスニーカーに憑依するという設定で、少女の儚くも美しい生涯が数ページで語られる。切ない。
 「化学調味料ゴーレム」は一転してジュヴナイル風味のユーモラスな一編。恒星間航行を続ける宇宙船の中で現れた神様は、一人の少女にある任務を与える。それはゴーレムを使ってネズミを捕まえるというものだった。神様と少女の掛け合いがとにかく楽しい。

 ううむ、お気に入りを三、四作セレクトしようとしたら、頭から続けて四作紹介してしまった(苦笑)。まあ、それぐらいレベルが高いということなので、もし気になる方はとりあえず最初の「生まれ変わり」だけでも読んでみて、気に入ったら迷わず買うべきであろう。
 ちなみに文庫版は『生まれ変わり』、『神々は繋がれてはいない』の二分冊なので念のため。


テーマ:SF小説 - ジャンル:本・雑誌


 『紙の動物園』でSFファンはもちろん、普段はSFを読まない層にまで広くその名を知られるようになったケン・リュウ。本日の読了本は彼の第二短編集『母の記憶に』。
 読む前から十分期待はしていたのだけれど、気になったのは『紙の動物園』にしても本書にしても、日本で編まれたオリジナルの短編集だということ。つまり『紙の動物園』に傑作をぶちこみすぎて、本書ではもういい作品はそれほど残っていないのではないかという懸念である。
 しかし、そんな心配はまったくの杞憂であった。本書は『紙の動物園』に勝るとも劣らない、いや、それ以上の傑作短編集である。

 母の記憶に

The Ussuri Bear「烏蘇里羆(ウスリ―ひぐま)」
Knotting Grass, Holding Ring「草を結びて環(たま)を銜(くわ)えん」
You’ll Always Have the Burden with You「重荷は常に汝とともに」
Memories of My Mther「母の記憶に」
Presence「存在(プレゼンス)」
Simulacrum「シミュラクラ」
The Regular「レギュラー」
In the Loop「ループのなかで」
State Change「状態変化」
The Perfect Match「パーフェクト・マッチ」
Cassaandra「カサンドラ」
Staying Behind「残されし者」
An Advanced Readers’ Picture Book of Comparative Cognition「上級読者のための比較認知科学絵本」
The Litigation Master and the Monkey King「訴訟師と猿の王」
All the Flavors「万味調和――軍神関羽のアメリカでの物語」
The Long Haul: From the ANNALS OF TRANSPORTATION, The Pacific Monthly, May 2009「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」」

 いやあ、すごいわ、これ。
 なんというか、『紙の動物園』を読んだときには、東洋思想と西洋科学の絶妙な融合とか、ノスタルジックな面やウェットな面が非常に心地よかったのだが、本書では中国伝奇風やハードボイルド風など、よりバラエティに富み、さらにエンタメ度が高くなったイメージ。
 とにかく読む作品、読む作品がことごとく面白い。長編でも十分にいけるネタを惜しげもなく短編や中編で仕上げるなど贅沢の極み。まさに奇跡のような作品集である。

 どの作品も本当に面白いのだが、その中でも気に入った作品をあげると、まずはスチームパンク炸裂の「烏蘇里羆(ウスリ―ひぐま)」。僅か二十三ページしかないのに、これでもかというギミックう詰め込んでおり、その方面のファンに堪えられない。

 「草を結びて環(たま)を銜(くわ)えん」は中国の寓話的な一編。主人公の緑鶸(みどりのまひわ)の生き方が鮮烈で、読む者の心を鷲掴みにする。

 「母の記憶に」も圧倒的。これなんてたった五ページの掌篇なのに、ここまで家族と人生について考えさせられるとは。

 SFハードボイルドといってよい「レギュラー」は個人的なイチ押し。ミステリとしても十分満足できるレベルで、下手なハードボイルド作家は裸足で逃げ出すはず。『ブレードランナー』あたりが好きな人はもう堪らんのではないか。長編でシリーズ化してほしいぐらいだ。

 「パーフェクト・マッチ」は手垢のついたテーマのはずなのに、それでも引き込まれる。人間と人工知能の知恵比べにとどまらない皮肉なラストが効いている。

 「カサンドラ」もすごく好み。世界のあらゆる事象にはさまざまな見方と考え方があるけれども、それを某ヒーローに対峙する女悪役から描いている。単なるパロディなんかではもちろんない。

 「訴訟師と猿の王」は、清王朝時代の中国で、虐げられている庶民のためにかわって弁護を請け負う訴訟師が主人公。序盤はコンゲームっぽい面白さもあるが、主人公が心の中に(あるいは現実なのか)かう猿の王(おそらく孫悟空?)との会話が興味深い。そして物語の背景にあるのは清王朝の大虐殺なのだが、おそらくこれは天安門の比喩であり、もうとにかく濃度高すぎである。

 三国志好きに見逃せないのが「万味調和――軍神関羽のアメリカでの物語」。主人公の謎の中国人と、三国志の物語でも屈指の武将といわれる関羽のイメージを、巧みにだぶらせて描いている。アメリカ人が書いた関羽の話なんて初めて読んだわ。

 とまあ、好みの作品を優先的に紹介してみたけれど、他の作品もハズレなし。これは間違いなくオススメです。


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 ケン・リュウのSF短編集『紙の動物園』を読む。このタイミングで読むといかにもピース又吉氏の推薦にのったようで癪なのだが(苦笑)、本書はそれ以前からSFファンはもとよりミステリものの間でも評判になっていた本。管理人もとっくに買ってはいたのだが、ううむ、まさかこういうブレイクをするとは。まあ、買った本はさっさと読めってことですな。
 まずは収録作。

The Paper Menagerie「紙の動物園」
Mono no Aware「もののあはれ」
To the Moon「月へ」
Tying Knots「結縄」
A Brief History of the Trans-Pacific Tunnel「太平洋横断海底トンネル小史」
The Tides「潮汐」
The Bookmaking Habits of Select Species「選抜宇宙種族の本づくり習性」
The Five Elements of the Heart Mind「心智五行」
Altogether Elsewhere, Vast Herds of Reindeer「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」
Ar「円弧」
The Waves「波」
Single-Bit Error「1ビットのエラー」
The Algorithms for Love「愛のアルゴリズム」
The Literomancer「文字占い師」
Good Hunting「良い狩りを」

 紙の動物園

 さて肝心の中身だが、噂に違わぬ面白さであった。
 ケン・リュウは中国出身。十一歳のとき家族とともに渡米し、ハーバード大学で文学とコンピュータを学んだ人物で、そういった来歴が作品にもストレートに顕れている。東洋と西洋の文化や宗教観の対立、伝統文化と最先端のテクノロジーの融合や衝突など、いろいろな素材を使ってそのような構図が繰り返し描かれ、そこから普遍的な真理を見出そうとする。
 西洋人にとって珍しい(かつ魅力的な)素材を多用していること、また、それらをSFに絡めることで、一見新しさを纏ってはいるが、そのテーマは実際のところ非常にオーソドックスで特に目新しさはない。
 ないのだけれど、それらの素材の調合の仕方や語りが絶妙なのである。常に過去と向きあっているような、感傷的でウェットなスタイルは、儚さを感じさせて実に美しい。

 印象に残った作品はいろいろあるが、表題作の「紙の動物園」とラストの「良い狩りを」は別格という感じ。この二作が読めただけで元はとれた。
 「紙の動物園」は正直、完成度は高くない。紙の動物を操ることの意義が不明瞭だし、ラストの手紙がストレートすぎる。それでもこの作品の持つ精神的な美しさとビジュアル的な美しさは捨てがたい。
 「良い狩りを」も前半と後半のギャップが大きく、全体には荒っぽさが漂う。妖怪狩りをモチーフにしているが、妖怪ハンターと妖怪がまとめて西洋的なるものに取り込まれる切なさがなんとも。ただ、その取り込まれ方が秀逸すぎ。

 なお、細かいところではあるが、作者の明らかに勘違いという思えるミス、特にアジア関係の表記に関していくつか見受けられた。こういう時代なのでもう少し精度には気を配ってもらいたいものである。


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