『近代日本奇想小説史 入門篇』の影響で、さっそく一冊手に取ってみる。とはいえ、手持ちにすぐ読めるような明治時代の奇想小説などそうそうあるわけもないので、とりあえず昭和七年に『少年倶楽部』で連載された南洋一郎の『吼える密林』を試す。

昭和の作品ではあるが、本書も一応 『近代日本奇想小説史 入門篇』で触れられていた一冊だ。ただ、同書ではそれほど高い評価をされていなかったのが若干不安だったけれど、なんせ南洋一郎である。少年向け冒険小説のジャンルでは戦前から戦後に至るまで長きにわたって活躍した大家。管理人も子供の頃はポプラ社のルパン全集でたっぷりとお世話になったものだ。
本作はその南洋一郎の代表作である。Wikipediaによると昭和八年に刊行され、以来なんと七年間で百三十回の重版をしたという大ベストセラーらしいので、最初の不安も消し飛び、それなりに期待をして読んでみる。
ところがこれが辛かった。
ストーリーは非常にシンプル。アメリカの探検家ジョセフ・ウィルトンが友人のフランクと共にアフリカやボルネオ、マレー半島へと出かけ、現地で猛獣狩りをするという話である。
本作が凄いのは、本当にそれだけの話でしかないということで、冒険へ出かける前のエピソードとか後日談、サイドストーリーの類は一切抜き。大げさに言っているわけではなく、主人公と猛獣との戦いが延々描かれるという展開なのだ。発表媒体が少年誌であり、毎号、猛獣との戦いを描く必要があったのだろうが、それをまとめて読むのははさすがに辛く、正直百ページもいかないうちに飽きてしまった。
ライオンや虎、ワニといった定番?から、サイ、コブラ、オランウータン、クマ……中には大ダコとかアリまでいて実にさまざまな獣たちと戦ってはくれるし、ひとつひとつをとればなかなか迫力ある描写だ。酒を使った罠でオランウータンを捕らえるなど多少の工夫もある。しかしそれだけでは物語の膨らみに欠ける。やはり多少の人間ドラマによるアクセントでもないことには、とにかく単調なのである。
まあ、当時は今と違って猛獣の描写だけでも珍しく、十分価値があったと思うので、それは差し引かないと著者には不公平かもしれないが。
もうひとつ欠点を挙げておくと、これも時代ゆえ仕方ないところではあるのだが、主人公たちの目的が猛獣狩りをしたいという、ただそれだけによるのは厳しい。スリルやサスペンスのために獣を殺すというのは、今の時代の感覚ではさすがについていけない。
というわけで本作は内容的にも構成的にもあまりおすすめできる代物ではない。それでも読みたいと思う方は、講談社の少年倶楽部文庫版が比較的安価で入手可能である(もちろん古書で)。