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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

樺山紘一/編『図説 本の歴史』(ふくろうの本)

 河出書房新社の〈ふくろうの本〉から『図説 本の歴史』を読む。タイトルどおりの内容ではあるが、通史というわけではなく、各時代におけるトピックを豊富なビジュアルとともに解説するというスタイル。

 図説 本の歴史

1章/書物という仕組みは
2章/本が揺り籃から出る
3章/書物にみなぎる活気
4章/本の熟成した味わい
5章/書物はどこへゆくか

 章題は上のとおり。これだけ見ていると漠然としていてそこまで面白そうに思えないのだが(苦笑)、さらに各項のタイトルを見ると、「巻子と冊子」、「アラビア文字とコーラン」、「禁書と梵書」、「検閲—書物の権力」、「装丁の技」「イギリスの挿絵本」、「キリシタン版と駿河版」、「神田神保町」などなどが並び、俄然具体的かつ魅力的に思えてくる。各項はすべて見開き構成なので、どこからでもパラパラ眺めることができるし、本に関する雑学・蘊蓄を気軽に楽しめる一冊といえるだろう。
 もちろん自身も普段から本に接してはいるが、意識しているのはあくまでソフトウェアとしての本である。たまにはこうしてハードウェアとしての本について考えてみるのも悪くない。

 ちなみに読んだのは今年でた新装版で、元版は2011年に刊行されている。そのせいか電子書籍の隆盛や書店の衰退など、近年の本を取り巻く状況についての記事があまりないのがちょっと残念。本の歴史においても大きな変化の時代であることは間違いないので、今度は増補版としてその辺りを追加して出し直してもいいのではないか。

 こういうのを読むとより深い関連書などを読みたくなってくるものだが、個人的には二十年ほど前に買って途中で放り出したアルベルト・マングェルの『読書の歴史 あるいは読者の歴史』をきちんと読み直したくなった。


岸本千佳『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q)

 また数年前に流行った京都本から一冊。岸本千佳の『もし京都が東京だったらマップ』を読む。
 京都に東京を当てはめた場合、どこはどこになるか、というのをまとめた本である。たとえば京都の岡崎であれば、大規模な文化施設が集中し、緑や広場も多くて文化的な交流が盛んな場というイメージで、これは東京の上野に似ているとなる。もちろん細かいことを言えば異なる点も多いのだが、あくまでザクっとしたイメージである。

 もし京都が東京だったらマップ

 本書はほかにも赤羽と四条大宮、北山と代官山、京都駅と品川駅など、実に四十以上の例を挙げて比較している。
 ただ、これを以って京都と東京が同じだと勘違いしないように。そもそも京都ほどの大都市であれば、都市が昔から備えている機能や文化はだいたい揃っているものだ。これは京都に限らず、大阪や札幌、名古屋、福岡だって同様である。だから似たようなエリアをはめ込もうとすれば、正直いくらでもはめ込める。
 だから著者の狙いは双方の都市機能が同じだと証明することではない。京都でこれから暮らそうとする人に対し、東京の街にたとえることで京都の街の特徴をわかりやすく伝え、移住の参考にしてもらおうということなのだ。本書はある意味、京都人による京都のガイドブックなのである。

 本書の後半はすべて、そんな京都での暮らし方について書かれており、実はここがそれほど面白くないし、おそらくあまり役に立たないのが残念。ぶっちゃけ不動産屋の口上みたいになってしまっている(実際、著者はそちら関係の方である)。
 また、本書の一番の落とし穴は、赤羽と四条大宮、北山と代官山がいくら似ているといっても、その質量に大きな差があることだ。先程、京都が大都市とは書いたものの、東京に比べるとその規模はかなり小さく、東京の街のイメージのまま京都を訪ねると、その狭さに驚くかもしれない。場所によっては100メートルも歩けば、違うエリアに入ってしまうぐらいだし。
 また、精神的な意味でよそ者が暮らしやすい場所、暮らしにくい場所があるのが京都。京都移住はそういう観点抜きにして語るべきではなく、旅行ならまだしも移住を考えるなら、本書はかなり力不足といえる。

 というわけでカジュアルな新書という性質もあるだろうが、あまり真面目に旅行や移住の参考として使うのはお勧めできない。あくまでネット上の遊びの延長として読むぐらいでちょうどよいだろう。


井上章一『京都ぎらい』(朝日新書)

 久々にミステリとは関係ないところから一冊。ものは井上章一の『京都ぎらい』。
 もう六年も前のベストセラー本なので今さらという一冊だが、気になっていた本ではあるので遅ればせながら手に取ってみた。

 京都ぎらい

 本書は生まれも育ちも京都出身の著者が、テレビやガイドブックではなかなか表に出てこない、京都の“いけず”な部分を、著者の思い入れたっぷりにぶっちゃけた一冊である。
 お坊さんから舞妓さん、京都と江戸幕府との関係にいたるまで、後半は幅広く展開して、むしろそちらの方が面白いくらいなのだが、ここはやはり第一章の「洛外を生きる」を見どころとしてあげておこう。

 そもそも「洛外」とは何か。京都市民ならもちろんご存知だろうが、ざっくりいうと京都市の中心地、すなわち上京区・中京区・下京区の三区を「洛中」と呼び、それ以外を「洛外」と呼ぶのである。
 京都の人はよそ者に冷たいとよくいうが、実は京都府内、京都市内にもそういう格差があり、そのヒエラルキーの頂点に立つのが「洛中」である。もちろん全国どこの地方でも似たようなことはあるだろう。ただ、それはどちらが発展しているか、人口が多いかといった子供っぽい自慢のレベルではなかろうか。その点、京都の場合は筋金入りで中華思想や選民思想に近い。歪んだ郷土愛というべきか、京都市民は周囲の市を見下し、洛中人は洛外を見下し、密かに(ときにはあからさまに)蔑んだり憐れんだりする。それが京都のかかえる闇であり、嫌なところだと著者は語る。
 著者は京都市の嵯峨の出身である。他県民から見れば嵯峨も京都を代表する名勝であるが、洛中人にいわせれば、肥を汲みにやってくる田舎者が住む場所ということになる。著者は実際にそれに近いことを有名な某学者に言われたという。そして、そんな体験の積み重ねによって、自分までが他の市を見下すよう刷り込まれてしまったとも。

 本書には外からではなかなかわからない、そんな京都の闇の部分がいくつも紹介されている。ユーモラスな語り口だから、京都を知らない人は話を盛っていると思うかもしれない。Amazonなどのレビューを読むと、「自分は洛外だがそんな経験はしたことがない」、「洛中人だがそんなひどいことは思ったこともない」などという否定的意見も書かれている。
 だが、管理人も学生時代を京都で過ごし、京都人と結婚したこともあって肌感として理解できるのだが、これは嘘でも何でもない。
 もちろん洛中の人全員がそういう人間であるはずもないし、ブラックからホワイトまで感覚に差が出るのも当然。また、ちょっと嫌な言い方になるが、洛中に住んでいても、経済状況や仕事等でもかなり差は出るはずだ。とはいえ、京都の人なら多かれ少なかれ持っている素地ではないだろうか。
 如何せん、こういう統計はないし、あるのは状況証拠ばかり。地元の方にしてみれば面白くないのもわかるけれど、これもまた京都の顔の一つなのである。

 ただ、そういう「京都ぎらい」を踏まえ、もう少し突っ込んだ分析なり提言があればよかったのだが、残念ながら本書にはそれがない。せめてなぜ京都でそういう“洛中”思想が蔓延ってしまったのか、それについての考察はもっとほしかった。

 管理人としては、やはり「洛中」の成り立ちが大きく影響しているように思う。
 その昔、平安京は大きく市街を東西二つに分けて、中国にならい右京側(西側)を長安城、左京側(東側)を洛陽城と呼んだ。街の中心はもともと右京側と左京側の境目、朱雀大路(現在の千本通)であったが、右京側の長安城エリアは地盤などの問題で開発が遅れ、次第に中心地は東へ移行していく。
 そして最終的には左京側の洛陽城エリアが京都の中心地となり、この「洛陽城」の「洛」が“みやこ”を指すようになった。それがイコール洛中(ざくっというと今の上京区、中京区、下京区)なのである。
 ただ商業的に賑やかな街というだけではない。当然ながらその中心には天皇がいるのである。守りを固めることはいつの世でも最重要課題であり、外敵や疫病といった物理的なものから思想・宗教に至るまで、さまざまな意味で洛中を洛外と隔ててきた(この辺の話も面白いノンフィクションがいろいろあるのだが、それはまた別の機会に)。秀吉の時代には、洛中と洛外を土塁と堀でリアルに仕切ったこともあるほどだが、仕切られた洛外の人間にしてみれば、こんなに腹の立つことはないだろう。

 京の中心の中心に暮らす人にとって、外は敵や病が蔓延する忌み嫌うべきところなのである。そんな感情が育まれると同時に、洛中に住むことを許されない人間も出てくる。職業や身分による差別である。江戸時代にはピークを迎え、明治には表向きは廃止されたものの、それが問題を逆に潜伏させていく。
 そんな歴史があって、京都には自然と選民思想が根付き、いまの京都の状況を生んだのではないか。

 これらは本書ではほとんど触れられていない部分だが、著者の経歴を考えれば、これぐらいは百も承知のはず。それをあえて外したのは、あまりに問題が重すぎるからだろう。しかし、こんな本を書くからには、著者にはもう少し覚悟を決めて掘り下げてもらいたかったものだ。


今野真二『日本語 ことばあそびの歴史』(河出文庫)

 読書好きにもいろいろいて、小説好きとか、ノンフィクションしか読まない人とか、あるいは管理人のようにミステリ中心という人種など千差万別。しかし、比較的どんな本好きにも好まれそうな本というのがあって、それが日本語や言葉、文字についての本ではないだろうかと勝手に思っている。
 やはり本好きであれば、本を構成する最大の要素である文字について興味がない人などいないはず。さらにいえば自分の趣味を高めるための一般教養というか理論武装というか、そんな読書人特有の見栄も見え隠れしつつ、ついつい読んでしまうのではないかと見ているわけだ。

日本語ことばあそびの歴史

 本日の読了本は、そんな日本語関係からの一冊、今野真二の『日本語 ことばあそびの歴史』である。日本語における「ことばあそび」の歴史を紐解いて、「ことばあそび」の楽しさを体感しつつ、同時にその仕組みを理解するというのがその内容。
 しかし、簡単に「ことばあそび」とはいっても、本書が対象にしているのは『万葉集』の昔から幕末・明治の頃までの「ことばあそび」である。掛詞やなぞなぞ、折句、判じ絵など、当時の人には普通でも、現代の人間にはけっこうハードルが高く、それなりの知識・教養がないとちょっと難しい一冊でもある。

 そんな中でミステリ好きが注目したいのは、「暗号」にも通じるものだろう。単純なところでいうと、いわゆるタテ読みみたいなものがあったり、謎かけを組み込んだものであったりするのが面白い。著者は「ことばあそび」が自動車の「ハンドルのあそび」みたいなもので、こういう「あそび」が日本語を豊かにするといい、それには思わず納得。ミステリなんて存在そのものが文学における「あそび」みたいなものだからなぁ(笑)。

 ということで基本的には楽しくてタメになる一冊だったものの、何十句もある和歌などの説明を、文章で一気に説明したりする箇所がいくつかあって、それには閉口した。表組などを使って、もう少し読みやすくする工夫はあってもよかっただろう。


作家記念館研究会/編『全国作家記念館ガイド』(山川出版社)

 三日ほど前のことだが、店頭でたまたま目にとまって『全国作家記念館ガイド』を購入する。タイトルどおり全国にある作家の記念館や文学館を紹介したガイドブックである。博物館や美術館ならともかく、文学館ともなるとどれだけ需要があるのかは不明だが、個人的には嬉しい一冊。
 というのも、これぐらいインターネットで探せるだろうと思っていると、意外にこういうのをまとめたサイトは少ない。個人レベルでやっているところは情報量が圧倒的に少ないし、唯一、公式っぽい「文学館研究会」が公開しているサイトは二年ほど前に更新がストップしており、それ以降の閉館・新館には未対応だ(それでも助かるけれど)。

 全国作家記念館ガイド

 中身の方はというと、基本一〜二ページで一館紹介というスタイル。概要のテキストと写真数点のほか、所在地や営業時間、料金、休日、といった基本情報という構成で、今時だなと思ったのは各館へアクセスするQRコードがついているところか。決して一館あたりの情報は多いとはいえないけれど、まあ、物理的に考えるとボリュームはこれぐらいが限界であろう。

 ただ、そういう物理的な制限がある中で、残念ながらテキストについては物足りない。本書はあくまで作家の「記念館」や「文学館」についてのガイドブックであり、「作家」のガイドブックではない。それなのにテキストの半分が作家の紹介で占められているのはいかがなものだろう。
 たとえば「室生犀星記念館」だと、せっかくの二ページ構成なのに、テキストの八割近くが作家の紹介である。もうアホかといいたい。室生犀星にもともと興味があるから「室生犀星記念館」に行くための情報がほしいわけで、室生犀星の半生をこの少ないスペースで紹介してどうするという話である。
 それよりも記念館にどういう展示物があるか、どういう展示をしているか、あるいは喫茶スペースや物販はあるのか、撮影はできるのか、近辺の関連名所などの紹介でもいい。そういう「館」の情報をもっと盛りこむべきだろう。
 おそらくだが、執筆者が実際に記念館を訪ねて原稿を書いていないのだろう。現地を訪ねれば、普通はいろいろ伝えたいことが出てくるはず。実際、なかにはちゃんと執筆者の感想などが入ったしっかりした原稿もあるのだ(少ないけれど)。

 ちなみにカバーや帯に謳っているキャッチにも正直気になる点は多い。まずカバーの「全国258館」というのは巻末リストに掲載している数であって、本文で紹介しているのは実は160館程度。嘘とまでは言わないが、表現としてはかなりグレイである。
 また、帯の「全国の文学館・記念館を紹介したはじめての書」というのは明らかに間違い。すでに小学館から2005年に『全国文学館ガイド』というのが出ており、2013年には増補改訂版も作られている。こういうちょっと調べればわかることをなぜチェックしないのか、編集に疑問が残る作りである。
 あと、巻末リストにすら掲載されていない文学館があるのは残念。なんと「山田風太郎記念館」が漏れているのはなぁ。ほかには「世田谷文学館」や「神戸文学館」、探偵名を打ち出したちょっと特殊な「浅見光彦記念館」も抜けているし。
 何らかの選択基準があるのか、それとも単に入れ忘れたのか、どちらかは不明だが、この四つはどれもミステリ好きには縁のあるところなので残念としか言いようがない。

 ついでに本書で採り上げられているミステリ関係の文学館をいくつかピックアップしておこう。
 まずミステリに特化したものだと東京豊島区にある「ミステリー文学資料館」。作家単独のものとしては、三重の「江戸川乱歩館」、山梨の「横溝正史館」、福岡の「北九州市立松本清張記念館」、神奈川県湯河原は「西村京太郎記念館」といったあたりか。
 単独ではないけれど「函館市文学館」や「徳島県立文学書道館」、「高知県立文学館」、「北九州市立文学館」などはミステリ作家関係の展示もあり、見て損はないだろう。

 ということで注文ばっかり書いてしまったが、最初に書いたように本書を出す意義はあると思うので、次があるならぜひ諸々見直しをしてほしいところである。


佐伯俊男『夢隠蛇丸 佐伯俊男作品控』(兎月商会)

 ご存じの方も多いと思うが、翻訳ミステリも多く出していた出版社の武田ランダムハウスジャパンが倒産した。
 個人的にはヴィカス・スワラップの『ぼくと1ルピーの神様』、ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』、スチュアート・ネヴィル『ベルファストの12人の亡霊』あたりが印象に残っているが、コージーにも力を入れていたし、ミステリー以外では芸能人関係の本も多く手掛けるなど、積極的な展開をしている印象があっただけに、実にわからないものである。
 もともとはランダムハウスと講談社が提携してできた出版社だった。しかし売上げ不振からランダムハウスが手を引く形でわずか七年で提携打ち切りとなり、社長の武田雄二氏が引き継いで再スタート。最盛期は十二億円ほどの売上げだったというが、近年は三億円程度だったというからこれは苦しかろう。昨年の夏頃にあった『アインシュタイン その生涯と宇宙』の翻訳ミスによる回収事件がきっかけとなった可能性もあるのだろうか。



 暗い話はこのくらいにして、本日の読了本の話でも。
 といっても連日の忘年会モードで午前様が続き、ひどい睡眠不足もあって完全に読書は沈滞である。電車と就寝前がメインの読書時間の管理人にとってこれは辛い。何とかこの三連休で少し回復したいものではあるが、本日もとりあえず軽いもので。

 軽いものといっても中身は充実。画集『夢隠蛇丸 佐伯俊男作品控』である(ちなみに読みは「ゆめがくれへびまる」)。
 佐伯俊男の名前を知らずとも、その作品は多くの小説好きが目にしているはず。佐伯俊男とはかつて角川文庫の山田風太郎のカバー絵を一手に描いていた、あの絵師のこと。本書はその山風のカバー絵を中心にまとめられた作品集である。
 実は刊行されてからすでに二年ほど経っているのだが、こんな本が出ていたことすらまったく知らず、先週、仕事場近くにある三省堂古書館でたまたま見つけたものだ。

 夢隠蛇丸

 ま、それはともかく。
 佐伯俊男の絵は実にいい。この表紙絵でもわかるように、基本はエログロテイストである。実際、SM雑誌などでも多く掲載されていたわけだが、ポップな色遣いとどことなくユーモラスな構図によって単なるエログロを越え、非常に独特かつ魅力的な世界を創り出している。
 逆説的ではあるが、カラッとした淫靡さともいうべきものがそこにあり、これがまた山風の世界とよく似合う。この表紙だけでも旧角川の山風を集める価値があるほどで、佐伯俊男を山風のカバーに起用しようと思いついた当時の編集者は実にえらい。

 それにしても山風だけでなく、横溝正史に夢野久作、江戸川乱歩……当時の角川文庫は素晴らしいカバーが多かったなぁ。


『映画秘宝EX 映画の必須科目03 異次元SF映画100』(洋泉社)

 ようやくiPhone5をゲット……したのはいいのだが、うちのMacのOSが古すぎることが発覚して、先にそちらをアップグレードしなければならなくなった。しかもダウンロード販売されていなくて、店舗分もとっくに回収されているそうな。結局App Storeでしか買えないことがわかったのだが、ううむ、こういうサポートってもう少し気の利いた形でできないのかね。せっかくいい製品を出しているのに、その他がユーザーライクじゃないんだよなぁ。


 『映画秘宝EX 映画の必須科目03 異次元SF映画100』をパラパラと眺める。洋泉社の「映画秘宝 」の別冊ムックだが、このシリーズは最近面白い切り口で映画ガイドブックの類を連発している。先日も『シャーロック・ホームズ映像読本』なんてのを紹介したが、他にも「最強アクション・ムービー決定戦」「クライム・アクション」「危機一発スパイ映画読本」「アメコミ映画完全ガイド 」等々、ミステリファンにもおっと思わせるまとめ方が多い。
 ニッチなネタが多いので他人事ながら営業的に心配になってしまうわけだが、こりゃヤキの回ったファンにたまらない企画だよなぁ。中身はむしろオーソドックスな映画ガイドブックで、本の造りとしては粗いところも多いのだが、映画好きが趣味に任せて走っている感じがいい。

 『映画秘宝EX 映画の必須科目03 異次元SF映画100』

 さて本書は「異次元SF映画100」ということだが、この「異次元」というのが何を言いたいのかわからないんだけど(苦笑)、まあジャンル的には普通にSF映画のガイド本であり、入門書だ。『2001年宇宙の旅』を筆頭に、『ジョン・カーター』や『バトルシップ』といった新しいものまで、タイトルどおりSF好きなら押さえておきたい100本が網羅されている。
 管理人のようなおっさんにはリアルタイムで観ている作品も多くて、ことさら驚きはないのだが(とはいえ二割程度は観ていないか)、『別冊映画秘宝 シャーロック・ホームズ映像読本』のように最新作に頼り切った編集ではないので、そういった部分も好感がもてる。
 中にはとても入門者向けとは思われない作品も混じっているのはご愛嬌だが、これは編者たちの主張の部分なので、これはこれでよし。むしろ味つけとして必要な部分だろう。ただ、個人的に嫌いな作品ではないが、SF映画ベスト100を自分で選べと言われたら、とても『ゼイリブ』とか『バトルランナー』は入れないだろうなぁ(苦笑)。


武光誠『知っておきたい日本の神様』(角川文庫)

 先日、所用のため日帰りで京都へ行ってきたのだが、新幹線での読書用にと積ん読の山からひっつかんだのがこれ。武光誠の『知っておきたい日本の神様』。新刊で買ったはずだがもう七年も積んでいたとは(笑)。
 題名に「日本の神様」とあるとおり、本書は日本古来の宗教である神道、その神様について解説した手軽なガイドブックというか蘊蓄本。まあ、京都のお供に相応しいといえば相応しい。

 知っておきたい日本の神様

 最近は宗教関係の本を読むことはあまりなくなったが、高校や大学の頃はよく読んだ。宗教とか心理学とか哲学とかサブカルとか。文系学生の麻疹みたいなものだろうが、こういうジャンルにはまる時期っていうのがある。文系学生の背伸びもあるんだろうけれど、あの頃はSFとか伝奇小説もよく読んでいたせいか、その基本知識を仕入れるためもあった。例えば夢枕獏のサイコダイバーだったら密教は押さえておきたいし、平井和正の『幻魔大戦』ならギリシャ神話やカルト宗教の仕組みを知っておくとより楽しめる。

 話が少し横道に逸れた。肝心の『知っておきたい日本の神様』だが、意外なほど読みやすく面白い本であった。まあ、もともとそういう路線の本ではあるのだが(苦笑)、構成がなかなかいい。神様や神道のことを語る手段として、神社をメインに持ってきている。
 神社はご存じのように同じような名前が多い。何とか天満宮とか何たら稲荷とか、あるいは熊野神社、氷川神社などなど。そういった神社はすべて同じ系列の神社であり、よく耳にするそういう神社がそもそもどういう経緯で生まれ、どういう御利益があるのかということを説明してくれている。
 あえて系統立てた解説にせず、読者が日頃からよく知っていると思われるネタから話を広げており、学術書であれば話は別だが、蘊蓄本としてこれはなかなか巧いやり方である。単なる歴史ではなく、そこに日本神話が絡むから内容も面白い。決して深いわけではないが、その幅は広く、暇つぶしにはなかなか強力な一冊といえるだろう。近所の神社を調べたくなる効能もあり。


本多猪四郎『「ゴジラ」とわが映画人生』(ワニブックス【PLUS】新書)

 本日はミステリから少し離れ、ワニブックス【PLUS】新書から出ている『「ゴジラ」とわが映画人生』を読む。数々の特撮映画を撮り続けた本多猪四郎監督へのインタビュー集で、実業之日本社から出たものの復刻版である。

 「ゴジラ」とわが映画人生

 中身は非常にシンプル。本多監督の半生をほぼなぞりながら、そのときどきでの映画との関わりを語っている。
 出自から始め、山形での少年時代、東京へ来てからの映画との出会い、本格的に映画と接するようになった学生時代、そして東宝の前身PCL映画製作所への入社、ゴジラとの出会い、監督としての作品の数々……。
 本多監督が気の向くままに当時を振り返っているような印象で、それほど突っ込んだインタビューではない。ただ、非常に広範に語ってくれているし、単なる事実だけではなく映画作りのポリシーやクリエイターとしての拠り所といったあたりも一通り押さえているのはありがたい。例えば、ドキュメンタリー映画への志向、戦争体験、科学への関心、黒澤作品で助監督として参加した意味などなど。

 第三者が考察しているわけではなく、本多監督の語りだけで構成されているので、おそらくマニアには物足りない部分もあるのだろうが、当方のようなヌル目の特撮映画ファンにはちょうどいい感じで、それなりに楽しめる一冊であった。円谷本も読みたくなってきた(笑)。


津田大介『Twitter社会論』(洋泉社)

 もともとは仕事半分趣味半分で始めたTwitterだが、まだその真価や面白さを知ったとは言い難い。実際に毎日つぶやいているし、各種情報も雑誌やネットで見聞きしているとはいえ、まだまだ消化不良である。そこで手に取ったのが津田大介の『Twitter社会論』。
 普段は滅多なことでは仕事関係で読む本のことなど触れないのだが、ま、Twitterに関しては個人的興味もずいぶん増してきたから、まあいいや。

 Twitter社会論

 著者の津田大介氏は、早くからTwitterに着目し、使いこなしてきたメディアジャーナリスト。そして「tsudaる」という言葉の(恥ずかしながらこの言葉も一ヶ月ほど前にたまたまネットで知ったばかり)元になった方でもある。ちなみに「tsudaる」とは、各種のシンポジウムや審議会、カンファレンス等に出席し、現場で参加者の発言をリアルタイムでTwitter上に送り続ける行為のこと。要はTwitterによる実況中継である。
 この実況中継という使い方でも示されるように、リアルタイム性こそがTwitterの大きな魅力のひとつでもあるわけだが、本書はそんなTwitterの魅力をはじめとして、その意義や社会との関わりなどを、自らの体験も交えて解説したものである。正直、「社会論」というほど固いものでも難しいものでもなく、あくまでTwitter入門書といった内容。だが語り口もよく、非常にわかりやすく書かれた本であることは確かだ。

 とりあえず構成がしっかりまとまっている。非常に頭に入りやすい流れで、これは著者か編集者もしくはその両者のお手柄である。入門書として、これは非常に重要なことなのだ。
 まず第1章ではTwitterの大雑把な紹介から入り、そのメリットや特徴を解説。イメージができたところで、第2章では著者のTwitter体験記。ここでは利便性もさることながら、なぜ中毒性を持っているかがポイントとして語られる。そして第3章で、Twitterの政治やビジネスでの使われ方を実例を挙げて紹介し、そのツールとしての可能性や将来性に目を向ける。実際、この本に興味をもつ人は、だらだらとつぶやくだけが目的ではなく、おそらくビジネス展開に活用できるのかという狙いを持っているはずで(自分がそうだ)、そのニーズをしっかり理解した構成なのである。そして締めはぐっとくだけて、あの勝間和代女史との対談。

 著者はバリバリのTwitter使いながら、あくまで客観的視点を崩さないのがいい。ツールとしての関わりに徹し、その上でメリットとデメリットを分析する。
 メディアとして見た場合、0.5次情報としての意味合いを持つこと。あるいは他のネットメディアと比較した場合、脆弱な部分も少なくはなく、決して本流にはならないだろうけれど、部分的には凌駕する部分もまた多いこと。これだけ爆発的にユーザーが増え、政治や企業にも利用され始めているにもかかわらず、まだビジネスモデルとして確立されるほどの成功例がないことなど、気になる記述は多い。

 既知の情報もまたそれなりに多いのだが、まあ入門書なのでそれは仕方ない。それより、このTwitterという日本ではまだブレイクしきっていない新しいツールに、果たしてどのような可能性があるのか、それを考えるための入り口ということで、本書は非常に有効である。この本に書かれていることをすべてネットで調べようと思ったら、それはそれでけっこう面倒なのだ。ああ、なんという矛盾(笑)。

 ところで本日、某政党の谷垣某が「Twitterは嫌い」みたいなことを言ったらしいが、ま、鳩山総理を皮肉る意味で言ったのだとしても、これは痛すぎる。先入観やうろ覚えの知識だけで言ってるのが丸わかりである。オバマ大統領をはじめとする多くの政治家が既に活用している事実や、災害や事件で大きな役割を果たしていることを知らないのかね?
 まあ、そういう自分もつい数ヶ月前までは似たようなものだったのだが(笑)。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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