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 ジョルジョ・シェルバネンコの『虐殺の少年たち』を読む。
 同じ論創ミステリ叢書で先に刊行された『傷ついた女神』がイタリアン・ノワールあるいはイタリアン・ハードボイルドとでもいうような内容で、なかなかの良作だったが、本作も予想以上の傑作であった。

 こんな話。夜間定時制校の教室で、若い女性教師が暴行恥辱され、瀕死の状態で発見され、治療の甲斐なく死亡するという事件が起こる。警察は十一人の生徒たちによる犯行と断定したが、彼らは一様に知らぬふりをするばかりであった、
 捜査にあたった元医師の警官ドゥーカ・ランベルティは、生徒一人ひとりに尋問を開始するが……。

 虐殺の少年たち

 なんともやるせない事件である。日本でいえば中高生ぐらいの男子生徒たち。彼らが若い女性教師を殺害するというだけでも相当なものだが、しかもその手口が残忍極まっており、前作『傷ついた女神』もそうだったが、シェルバネンコの筆致は本当に容赦がない。

 そんな胸糞の悪い事件で、自らも医師時代の安楽死によって実刑を受けた経験のあるドゥーカは、強い信念とトラウマを抱えて少年たちと向き合ってゆく。
 だが、ドゥーカが向き合わなければならないのは目の前の胸糞悪い事件だけでなく、イタリアの抱える貧困や薬をはじめとした社会問題、集団心理の恐ろしさ、そして何より命に関わる仕事の重さだ。
 それらが重層的に語られ、そこには不愉快な描写も少なくないのだが、それでも先を読まずにはいられない力が本作にはある。
 ネタバレになるので詳しくは書かないが、たとえば前半の少年たちへの尋問シーン、あるいは姪の病気についてのくだり、さらには少年の一人をドゥーカの家に連れて帰る一連の展開などなど、ひとつひとつがとにかく堪える。

 真相への到達方法はややあっけないが、本作においてそれは主眼ではないのでよしとしよう。むしろ犯人がわかったあとの展開がこれまた強烈で、そちらにこそ注目すべきである。

 ともあれ本作、そしてジョルジョ・シェルバネンコという作家はもっと知られるべきだろう。ドゥーカ・シリーズは全部で四作しかなく、『傷ついた女神』が一作目、本作は三作目となる。これ以外に早川書房の『世界ミステリ全集』に第二作『裏切者』が収録されているのだが、もちろん絶版なので、これも含めて残り二作、ぜひ翻訳してほしいものだ。頼みます>論創社さん


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ジョルジョ・シェルバネンコの『傷ついた女神』を読む。おなじみ論創海外ミステリの一冊だが、今回はちょっと変わり種。イタリアの作家によるミステリである。
 まあ、ちょっと変わり種といっても、それは日本で知られていないだけのこと。本国ではイタリア・ミステリの父と呼ばれるほど活躍した作家である。1930年代の半ばから小説を発表し始め、40年代からミステリにも着手した。
 だが当時のイタリアはファシストの政権下。ミステリを書くにも様々な制限があったようで(例えば犯人は外国人であること、とか)、ついにはミステリそのものが発禁となってしまう。結局、シェルバネンコはスイスに亡命し、ミステリで本領を発揮するのは戦後、亡命から戻って以後のこととなった。ううむ、同盟国側のミステリ事情はどこも似たようなものだったようで。

 それはともかく、まずはストーリー。
 かつて患者を安楽死させ、三年の実刑を受けた元医師のドゥーカ・ランベルティ。ようやく刑期を終え、釈放された彼のもとへ、仕事の依頼が舞い込んでくる。それはアル中の息子ダヴィデを立ち直らせてほしいという、ある高名な資産家からの切実な相談だった。
 自らの置かれた立場もあるため、ドゥーカはその仕事を引き受け受けることにし、ダヴィデとの共同生活が始まった。
 ドゥーカは段階的に酒量を減らすプログラムを進めつつ、同時にダヴィデがなぜアル中となったのか原因を聞き出そうとするが、そこである事件の存在に気づく……。

 傷ついた女神

 おお、これはいいじゃないか。イタリアンの古いミステリなんてほとんど期待していなかったのだが、いやあ、この出来栄えはちょっとした驚きである。まあ期待していなかった分、逆に評価が甘くなっている嫌いはあるけれど、それにしても。

 作風としてはイタリアン・ノワールと言われるように、謎解きメインではなく犯罪小説寄り。ただ、読んだ感じではノワールや犯罪小説というより、むしろハードボイルドにより近い印象である。
 心に傷を持つ主人公が、やまれぬ理由から事件を引き受け、いつしか事件と自己の傷を同化させつつ、真実から何かしらを得て回復してゆくという構図。そう、これは紛れもなく70年代から始まったネオ・ハードボイルドの世界なのだ。
 主人公ドゥーカが安楽死に手を出して実刑判決を受けた元医師というだけで、設定としてはそれだけで相当に魅力的なのだが、おまけに亡くなった父親が警察官だったとか、シングルマザーの妹の存在だとかが加わり、それぞれは詳しく語られないものの、メインストーリーの合間に断片が描かれ、うまく事件とシンクロする。この加減が絶妙。シェルバネンコはドゥーカの心象を通し、命や正義といった、実にストレートなテーマについて語ってくるのである。

 事件そのものは、ダヴィデのアル中に転落するきっかけになったある事件の背景に、組織的な犯罪が隠されていたという按配。これ自体のアイディアは悪くない。
 ただ、前半ではあくまでダヴィデを中心に物語が展開し、実際ダヴィデの存在感、キャラクターの面白さがあったのだが、それが後半、事件に押し出されるような形でその輝きが薄れていくのはもったいない。
 ぶっちゃけ、中盤以降、事件はダヴィデのものではなく、ドゥーカとヒロインのものになっていく。ここの比重を上げるのはかまわないのだけれど、ダヴィデの問題は真相と別のところでもっとしっかり処理してほしかった。

 ということで惜しいところもあるのだが、本作についてはまさしく拾い物という感じで非常に満足。イタリア・ミステリの父らしいので、拾い物という表現は失礼なのかもしれないが(苦笑)。
 ちなみに今月、論創社からシェルバネンコ第二弾の『虐殺の少年たち』が出ているようなので、これも早く入手せねば。


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